超エリート(笑)だったはずの二人、身を滅ぼす
「いってぇよぉおおおおおお! こんちくしょ――!」
「くっそぉ! 外れスキル所持者のくせして、許さねえぞぉお!」
クズーオもマヌーケも、早々に目を覚ましたようだな。
かなり派手に壁にぶつかっていたと思うが……さすがは専属護衛というだけある。尋常ではないタフっぷりだ。
「まったく……あの二人は」
メルはため息とともに彼らに歩み寄ると、それぞれポーションを一本ずつ手渡した。
かなりの傷を負ったことには違いないので、さすがに放っておくのも酷だと判断したんだろう。
まあ、ポーションはエリクサーと違って安価品。
全快までにはそれなりの時間を要するので、それもまた、彼らへの罰ということだろうな。
これで二人も少しは反省するといいんだが……
「ぷっはぁ!」
ポーションをまさかの一気飲みしたクズーオが、メルに向かってぎゃあぎゃあ喚き立てる。
「メルティーナ王女殿下! 我らはやはり納得いきません! 栄誉ある王女殿下の専属護衛を、こんなろくでなしに――外れスキル所持者なんかに行わせるなどと!」
「そうですよ! こんな落ちこぼれの男は、適当にそのへんで野垂れ死んでおけばいいのです‼ こんな男と一緒に仕事するなんて、俺たちゃ御免ですよ!」
――駄目だこりゃ。
まったく反省していないどころか、むしろヒートアップしてしまっている。
「……なにを言っているのです。あなたたちはそのルシオに負けたではありませんか」
メルもさすがに手に負えないと思ったのか、彼らに対して冷たい表情だ。口調もまた、王女さながらの毅然としたものとなっている。
「それに、覚えておいでですか? 仮にルシオが《専属護衛》となった場合でも……あなたたちと同僚になることはありえないと」
「え……?」
「見なさい……これを」
そう言ってメルが掲げたのは……一枚の紙。
なにやらびっしりと文章が書いてあって……一番下に、国王の名が書かれているな。
「あなたたちにセクハラ・パワハラの被害を受けた者たちの調書です。覚えがありませんか?」
「…………あ」
その紙を見るに、内容は下記のような内容だ。
――いつもネチネチネチネチネチネチ触ってきて、とても恐ろしいです! 王女殿下の専属護衛とはいえ、もう我慢の限界です。お願いです、どうか助けてください――
――いつも二人に石を投げられてます。僕は貧乏で、二人は偉い人たちだけど……偉い人だからって、なんでもしていいの?――
これはほんの一例だが、すさまじいまでの被害報告が、その調書に記載されていたのである。
「こりゃあ……いくらなんでもやばいな」
俺もさすがに、開いた口が塞がらない。
自分の権力に甘んじて、これほどまでの暴挙を起こしていたとは。メルとしても、さすがに放っておくわけにはいかないよな……
「ほんと、いいタイミングでしたわ。この調書ができあがったタイミングで、ルシオと再会できて……。おかげで、あなたたちの代わりが見つかりました」
「え、え……?」
「ちょ、ちょっと待ってください、王女殿下‼」
二人の表情が、絶望のいろに染まっていく。
「代わりって、まさか……。俺たちをクビにするってことですか⁉」
「当たり前でしょう? 栄誉ある王女殿下の専属護衛を、ろくでなしに行わせるわけにはいかない。さっきのあなたがたの言葉を、そっくりそのまま返させていただきますわ♡」
「うっ……」
静かに押し黙る二人。
……ああ、こりゃあさすがに反論できないよな。
さっきの二人の発言が、ものの見事にブーメランになっているわけだから。
「ま、待ってください……! 王女殿下は先日、謎の男に拉致されたばかりではありませんか! こんな《外れスキル所持者》に任せるわけには……!」
「そのあなたたちに守られていながら、私はまんまと攫われたんですが? そしてそれを助けてくれたのが、このルシオなのですが?」
「ぐっ……ぐぬぬぬ……!」
こ、これはすごいな。
もしかすればメルは、今回の試験で二人をクビにする段取りまで考えていたのだろうか。こんな男たちにいつまでも護衛を任せていては、王族の信用も地に堕ちるし、さらなる被害者が増える。
今朝、彼女がたった一人で宿に来たときはさすがに思慮が足りないだろうと思っていたが……
メルもメルで、命がけで俺に助けを求めてきたのかもしれない。
これ以上、さらなる犠牲者を増やさないために。
そして同時に、俺に護衛の任についてもらうことで、自分もより安全となるために。
――メル。おまえって奴は、本当に――
「それでは、クズーオにマヌーケ。荷物をまとめ、さっさと王城から出ていきなさい。私からは以上です」
「そ、そんな……!」
「お待ちくださいっ! 王女殿下! 王女殿下ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ……!」
二人の醜い悲鳴が、大広間にいつまでも響きわたっていた。




