崩壊の序章
一方その頃。
アルボレオ侯爵家にて。
ルシオの父――ログナー・アルボレオは、実に清々しい気持ちで朝食を口にしていた。
「ふふ、気分がいいな。厄介払いを済ませた後の食事が……これほど美味だとは」
――ルシオ・アルボレオ。
奴が《外れスキル所持者》だと知ったときは、それはもうかなり落ち込んだものだ。手塩にかけて育ててきた一人息子だし、なにより世間体がある。
王族とも縁深いアルボレオ家の息子が《外れスキル》を授かってしまえば、メンツは丸つぶれ。アルボレオ家の威光も地に堕ちてしまうというものだ。
もともと、ログナーは子どもが好きではない。従って、ルシオを愛おしいと感じたことは一度もない。
だからルシオ以降、子どもを設けるつもりはなかったが――
こんなことになるくらいなら、せめてもう一人は子どもをつくっておくべきだったか。
――アルボレオ侯爵家から、《外れスキル所持者》が生まれるはずがない――
その驕りが仇になってしまった形だな。
「まあよい……。跡取りなど、探せばどうとでもなるだろう」
そう呟きながら、ログナーはぐいっとビールを飲み干す。
これまでは「良き父」を演じるために、朝から飲酒など絶対にできなかったからな。これもまた、ルシオを追い出したことによる恩恵か。
本当に……改めて思う。
「くぁぁぁぁああ! あいつを追い出して……本当に良かった……‼」
爽快感のあるのど越しとともに、ログナーは思わずそんな声を発した。
と。
「すみません、ログナー様。……あ」
唐突に女召使いが姿を現して、ログナーは面食らってしまった。酒のうまさに酔いしれるあまり、自分でもそうとわかるほど、だらしない表情をしてしまっていたから。
「……気にするな。用件はなんだ」
ログナーは慌てて表情を引き締め、威厳のある態度を取り繕うとした。
その際、ビールの泡が上唇についてしまっていたが、さすがに女召使いにそれを指摘することはできなかった。
「え……えっと。ルミーネ様がいらしております。お取次ぎしましょうか?」
「む。ルミーネか……」
そういえば、今日はルシオの稽古日だったか。
――ルミーネ・カドナール。
世界最高峰の剣士で、極めし流派は《神現一刀流》。
はるか東洋の地に伝わる流派で、その極地に達した者は《剣聖》の称号を与えられる。
ルミーネも例に漏れず、若い女性でありながら剣聖の一角として世界に名を轟かせている最強剣士だ。
もちろん、ルシオが《剣聖》スキルを授かることを見越して雇ったのだが――
結局その金も、まったくの無駄になってしまったな。
せめてこれ以上の無駄金を使わないよう、ルミーネ本人には稽古の打ち切りを伝えねばなるまい。
「構わぬ。通せ」
「かしこまりました」
女召使いは最後にちらっとログナーの上唇を見やると、そそくさと部屋に退室していく。
そして、数秒後――
「ロ、ログナー殿っ!」
息せき切った様子で、ルミーネが部屋に押し寄せてきた。
「ど、どうしてルシオを勘当したのです⁉ あれほど将来有望な若者は――うっ」
部屋に入ってくるなり、ルミーネは右腕で鼻を覆った。
「ロ、ログナー殿……。まさか昼間からこんなに大量の酒を……?」
「ああ、そうだ。なにか問題あるかね?」
「いえ。別に構やしませんがね……」
ルミーネはやや呆れたように部屋を見渡したあと、最後にログナーに視線を戻した。
「それより、どういうことですか⁉ あのルシオを勘当したというのは――」
「ああ。もう聞いてるのか」
「当然でしょう! 侯爵家の息子が勘当など、騒ぎにならないはずがない!」
「――であれば、私から伝えることはもうない。あいつは《外れスキル所持者》で、将来の見込みのない男だ。よってアルボレオ家から勘当とし――おまえとの稽古も、今日をもって打ち切りとさせてもらう」
「…………っ!」
そこで一瞬だけ、ルミーネは明らかな怒りの表情を見せた。
「……あなたは勘違いしている。ルシオの強さは、スキルどうこう以前に、あの歳でもはや剣聖の域に達しつつある。そんな有望な若者を見捨てるなど……侯爵家どころではない、王国全体の損失になりかねませんよ‼」
「はぁ……? なにを言っているのだ、貴様は」
ログナーも怒りのこもった視線をルミーネに送る。
「外れスキル所持者など、その時点で生きている価値がない。それがすべてであろうが」
「…………あなたは……」
握り拳の力を少しずつ緩めながら、ルミーネはやはり呆れた表情でログナーを見やった。
「わかりました。あなたがその方針を取るのであれば……私はもう、なにも申しませぬ。私は私の手で、ルシオを探し当ててみせましょう。それでは」
そう言って、さっさとアルボレオ家から出て行くのだった。
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