かつての師匠
スウォード王城。その大広間にて。
「ここが……試験会場か……」
メルに連れられるままに、俺は試験会場を訪れていた。
元は兵士たちの訓練場らしく、壁面には槍や盾などが飾られている。剣もあちこちに掛けられていて、これぞまさに《修行の場》って感じだな。
「ルシオ……」
黙り込む俺を、まさか心配してくれたのだろうか。
「大丈夫? 緊張してない?」
まさに天使のような優しい声音で、俺の頬に触れてきた。
「いや……これくらいなんでもないさ。試合そのものは何度もやってきたしな」
父――ログナー・アルボレオ。
昔は俺に大きな期待をかけていただけあって、良い師匠をあてがってくれたんだよな。
その師匠は世界最高峰の強さを誇る上に、非常に優しくて……毎度毎度、俺のことを気にかけてくれたっけ。
最後のほうは「もう君に教えることはない」とお世辞を言ってくれたほど、俺のことをよく面倒見てくれていた。
結局、師匠には一度も勝てなかったけれど――
そのおかげで、試合そのものには慣れているつもりだ。
「へっへっへ、どういたぶってやろうかな……」
「あいつの苦しむ顔を早く見たいぜ……」
数メートル先では、メルの専属護衛たちがなんやら不穏な会話を繰り広げている。まさかとは思うが、これがあくまで《試験》ということを忘れてはないだろうな。
「ルシオ……。頑張ってね。応援してるからね」
「ああ……。ありがとう」
俺は最後にぐっと親指を突き出すと、舞台へと歩を進めていく。
ちなみに観客席にいるのは、国王とメル、そして先ほどの大臣のみだ。
「さて……。行くか……!」
俺は両頬をパチンと叩き、すでに舞台に立っている兵士と対峙するのだった。
クズーオ・バイドレット。
いまさらながら、あの兵士はそのような名前らしい。
銀色の甲冑と、そして白銀に煌めく剣は、遠目でもかなりの高級品であることが推察できる。当たり前の話だが、専属護衛ともなれば、託される防具も良質なのだろう。
でもまあ……俺も剣の質にはそこそこ自信がある。
父ログナーが、王都でも有名な鍛冶師に頼んで作らせたっぽいからな。
だが、問題は防具か。
さすがに甲冑は身に着けていないので、防御面が非常に不安なところだ。
「クク……」
俺と同じことを考えていたのか、対峙するクズーオが愉快そうに笑う。
「そんな防具で大丈夫か? 試合とはいえ、手を抜くつもりはないぞ?」
「ああ……構わない」
ここで慣れない防具を身にまとっても、間違いなく動きが阻害されるからな。余計なことしたくない。
俺の強みは、あくまで《速く歩ける》こと。
その意味でも、わざわざ動きを鈍らせるものは身に着けたくない。
「クク……。これはいい。防具なしであれば、徹底的になぶることができる……」
「おい。なんか言ったか?」
「いやいや。なんでもないさ」
クズーオはそこで笑みを引っ込めると、剣を鞘から抜き、戦闘の構えを取った。
さすがは護衛に選ばれただけあって、かなり精錬された構えだな。剣の腕は間違いなく俺より上だし、スキルも《全力疾走》より格段に強いはず。
――決して手を抜くわけにはいかない。
「それでは……お二人とも。いきますよ」
審判役の大臣が、右手を高く掲げる。
「はじめ!!」
その合図を皮切りに。
俺はスキル《全力疾走》を発動し、クズーオの背後に回り込む。
さすがはスピードだけは一丁前で、コンマ一秒で奴の背後を取ることができた。
「はっ……⁉ えっ!!」
なぜだかぎょっとしたように奇声を発するクズーオだが、もちろん、手を抜くわけにはいかない。相手は凄腕の剣士だからな。
「神現一刀流、一の型。風龍剣!」
かつて師匠から教わった剣技を、ありったけの力でクズーオに叩き込む。俺が剣を振っただけで、身を切るような無数の風たちが、クズーオの背に一斉に襲いかかる。
そうしながら、俺の脳裏にはなぜか、師匠の言葉が浮かんでくるのであった。
――よいかルシオ。そなたは私より剣の才に溢れているようでな……すでに極みに達しておる。決して無用な戦いで剣を抜くでないぞ。大事件になりかねんからな。よいか? 決して剣を抜くなよ? ――
「ウゴァァァァァァぁァァァァァァ‼」
俺の剣をまともに浴びたクズーオは、悲惨なる絶叫をあげながら、白目を剝き。
勢いよく大広間の壁面に激突するのだった。
★ 大切なお願いです!! ★
現在、ハイファンタジージャンル7位に到達できました!
本当にありがとうございます!
本日は感謝の気持ちも込めて、少しだけ更新頻度を多めにしました。
私もできる限り頑張るので、ぜひとも5位以内に入りたく……
ぜひとも【評価】と【ブックマーク登録】で応援していただけないでしょうかm(_ _)m
【評価】も【ブックマーク登録】も、たった数秒の操作で終わります。
評価はこのページの下(広告の下)にある「☆☆☆☆☆」の箇所を押していただければ行えます。
今後の更新のモチベーションにもなりますので、ぜひ【評価】と【ブックマーク登録】をお願い致します……!m(_ _)m
その一操作だけで、頑張ろうと思えます……!




