性別:神子
思い浮かんだ設定を吐き出したくて小話にした物です。
ふわっと始まりふわっと終わる。
異世界転生しました。
剣と魔法のファンタジーな世界なようです。
引きこもりみたいな生活なのであまりピンとこないけど。
生まれ変わった私は神子と呼ばれてる。
世界中に二桁しか居ないらしい。
これを多いか少ないかと感じるのは個人の感覚だが、私としては少ないんじゃないだろうかと思う。
以前の世界ほど人類の生活圏が広くないから神子の数もこのくらいで事足りてるとも言える。
神子は貴重で、神に愛され、永い時を生きる。
既に私も数世代見送ってたりする。
そして最大の特徴は、女であるという事。
正確に言うと女、なんて性別と単語は存在しない。
前世の知識に引っ張られてそう思うだけなんだけど、比較的小柄で、大小あるが胸があり、一物がないから私としては女性という単語を当て嵌めてしまう。
だがこの世界ではこの特徴は神子のものだ。
そう、なんとこの世界には男しか居ないのである。
あっちを見ても男。
こっちを見ても男。
マッチョ、イケメン、フツメン、ぽっちゃり、ひょろなが、美人。
男しか居ない。
勿論、男という単語もない。
因みに動植物には雌雄ある。なんでだ。
じゃあ人類どうやって増えるんだろうと、疑問に思うのは致し方ない事だと思う。
育ての親に子供の頃に聞いてみた
「赤ちゃんはどこからくるの?」
前世ではご夫婦が直面する試練的な質問である。
育ての親は和かに答えた。
「神子さまのおかげで神様が授けてくださるんですよ」
誤魔化されたと思うじゃん?
マジでした。
神子とは、人類が子供を増やす為に必要不可欠な神からの賜り者で、神子の側に居ると子供を授かるんだそうな。
逆に言うと神子の側、具体的に言うと半径1キロ圏内でないと子供が出来ないともいえる。
さらに驚きなのは此方の人類、卵生でした。
男同士でする事して、何日かすると朝目覚めた時に卵がベッドにあるのだそうだ。
うわーおファンタジー。
なのでこの世界の蜜月は神子のいる街へ行き、神子の居住地である塔の周りの宿屋でしっぽりが通常である。
神子の居住地の周りはラブホだらけだと言う事だ。
ちょっと微妙な顔をしてしまった私は悪くないと思うんだ。
そんな感じで人が集まるからなかなか栄えてる街を眼下に、今日も私は適度に引き籠り生活をエンジョイしていた。…のだが、私の応接間には嵐が吹き荒れていた。
「神子様の行動の制限とは一体何故ですか!明確な理由が有るのならば当然!お聞かせ頂けるんでしょうね!?」
この主に嵐を巻き起こしてる方は教会の信徒のルーカスさん。私の身の周りの事をしてくれてる人達の1人だ。
「それは機密故お話し致しかねますが、神子様の身に危険が迫っているわけではございません。。数日ご辛抱頂けたら我々が事を収めますのでご協力下さい。」
こちらの嵐に耐えながら同じ説明を繰り返すのは国からの使いのマルクスさん。
ルーカスさんは魔法が使えるので嵐は比喩表現でなく部屋で実際に起きているが、コントロールバッチリなルーカスさんは的確にマルクスさんの身を狙って嵐を当てている。
おかげで私と部屋の調度品は無事である。
「まーまーそんなに怒らないでルーカスさん。私が外出しないなんていつもの事じゃない。お使い頼む事が増えると思うから信徒の皆さんに負担になっちゃうかもだけど、国からも護衛がてらの人員補充があるって話だし。」
「ですが神子様、御身に健やかに過ごして頂くのが我等の使命。それを阻害する国からの要求など…」
「我々としても神子様に不便をおかけするのは心苦しいのですが、今回の件に関しては陛下も賛同していらっしゃいますので、伏してお願い申し上げます。勿論、我々に叶えられるものであればお申し付けください。」
「ほら、ここまで言ってくれてるし。あの子…陛下にも考えがあるんでしょう。美味しい食べ物でもねだっておこうよ。危険は無いって言うなら大丈夫だよ。」
毎年お祭りで顔を合わせる王族の子供は昔から知っているのでつい、近所の子みたいに感じでしまう。
なにせこちとら卵の頃から見てるのだ。
威厳のあるお髭を蓄えようがあの子呼びである。
たまに食べられる王宮御用達の食事やお菓子は入手困難なので良い機会だから貰っておこう。
あ、あとは隣国の特産品が入ってきたら融通してもらおうかなー、なんて考えていたらどうやら話し合いは終わった模様。
2人が退室するのを笑顔で見送り、伸びを1つしてから立ち上がる。
今日の来客予定は終了したからさっさと撤収しますかねー。
私達神子の行動範囲は基本的にとても狭い。
なにせ神子が移動したら卵が欲しい人達も移動しなければならず、そんなに非効率な事は出来ないからだ。
だが、神子を監禁及び軟禁したり害したりする事は固く禁じられている。
通常の法や倫理観に当て嵌めても上記の行動は人にすべきことでは無いけれど、これを神子に行うと天罰が下ると恐れられている。
出かけたい神子とあまり出かけて欲しく無い人々の落とし所は“昼から夕まで外出可“になった。
午前中はお祈りや人々との交流の時間なので塔で過ごし、お昼から自由行動が出来るのだ。
私は引き籠りエンジョイ派なので予定が無いと出かけないが、他の神子は活発にしているのもいるそうだ。
まあ空が白む頃まで励むご夫婦も流石に昼には起きなさいって事で。
その自由時間の行動が制限されるのは越権行為とも言えるが数日程度なら問題ない。
引き籠りエンジョイしてるからね!
馬に乗りたい神子は集落が点在する地域を担当し、決められた期間に集落を回るのだそうだ。
一月滞在したら移動してまた一月。
その事は周囲の細かい集落にも通達され人が集まるそうだ。
明朗闊達と噂される神子は自由時間になると馬に乗り走り回ってると噂に聞いた。
きっとその神子は私の生活に堪えられないし、私も走り回る生活はごめん被りたい。
なので今回の外出禁止のお願いが私に来たのは不幸中の幸だと言えるだろう。
通達が来てから数日。
何も起きないね!
いやー、何事かは起きてるかも知れないけど私まで情報が上がってこない。
まぁ私が出張る様な事態になってないと解釈しておこう。
私が生活してる塔の皆もいつも通りだし、街でデモとかも起きてる様子はない。
てことは王様からの通達だし、城とか貴族絡みでなんか起きてて向こうでなんとか処理しようとしているんだろう。
頑張れー私の平穏な生活の為に頑張ってくれー。
しかしなんだろうなー。
あれか?神子に割く予算が多いとか?国政に口を出すかもしれないから少し押さえ込むとか?
でもなー国から予算は出てるけど基本は寄付とか御守りの販売とか諸々で賄ってるから国からの寄付自体はそんなに高くないと思うんだよな。
周囲の宿や貴族からの寄付が主で、お土産とかの神子のシルエット等の使用料も少々。後は塔で販売してる御守りがちょろり。国からの予算は主に塔自体の維持費に使ってるって書類も国へ上げてるから突っつかれても痛くも痒くもない。
後は…農園の運営関係?
卵生の赤ん坊の食事は特殊な植物を水に溶いた物なのだ。
名前はそのまんまミルクの実。
これは神子がお祈りをすると何処からともなく現れる種からしか取れない貴重な物だ。
それを育て、粉に加工して流通させるのが農園。
私は種を送って定期的にチェックするだけなのでこちらもきっと違うだろう。
国政に口を出すなんてそんな面倒臭い事しないし、塔の皆もそんな暇はない。
人数そんなに居ないのよねー。
ちなみに、塔の皆とは信徒の人達の中でも塔の運営、私のお世話&お使いまでしてくれるとても頼れる人達である。
お休みの日にお手伝いに来てくれる人も居て、とてもありがたい。
私?神子なので参拝に来られた人とのお喋りや御守り作りの手伝い、そして神様への御祈りが大切なお勤めです。
なんて、つらつら考えていたら面会希望者にマルクスの名前発見。
解決報告だといいなー。
「神子様…つかぬことをお伺い致しますが、最近学園に頻繁に出入りしている理由をお聞かせ願えますか?」
「学園?ああ、図書館に本を借りに行ったけど…週に1回くらいかな?以前読んだ本なんだけど久しぶりに読みたくなって。塔に置いてない本だから蔵書数の多い学園にならあると思って。久しぶりに読んだら色々読みたくなって…ここ2月位かな。それが、今回の事に関係してるの?」
「学園および図書館で神子様に接触してきた人物は有りますか?」
「接触かー。基本的に学生の子等が授業中の時間に行くようにしてたし、部外者が1人でぶらつくのも悪いと思って手隙の事務の子に案内してもらったからその子くらい?でも毎回の違う子だったからこれと言って記憶に残ってないな。借りる本は決めて行ったからそんな長時間でも無いし。1時間居たかどうかかな?」
「移動中にも問題はありませんでしたか?」
「これと言って…ああ、転んだ子が居たから声をかけようとしたんだ。だけど授業が始まってるからかな?走って行っちゃった。あれだけ走れるなら怪我はしてないのかと思って、すぐ忘れちゃった。あれは接触…になるの?お喋りもしなかったけど。」
「いえ、神子様が今回の件で故意に行ったかどうかの確認でしたので結構です。」
その言葉に横で苛々しながらも黙って聞いていたルーカスさんは耐えきれなかったのか声をあげた。
「故意に?まさか神子様に何らかの疑いがかかっていたとでもおっしゃるのか」
「経過を観察し、確認が取れたので詳しく説明致します。端的に…結論から言ってしまうと王子が卵を授かりました。」
「…はぁ!?」
あらまぁ
どうやら事の次第はこうだ。
王の子供は皆んなそのまんま王子と呼ぶが、学園に通っている3番目が授業中に思い人を空き教室に連れ込みしけこんでいたらしい。
通常であれば塔から離れた場所にある学舎で密やかな逢瀬を楽しんでも卵は授からない。
だが奇跡、或いは事故は起きた
頻度は高く無かったがどうやら私の学園訪問とタイミングがバッチリ合ってしまった模様。
運動した疲れと満足感から2人してうたた寝をしたら、あるはずのない卵が2人の間にあったそうな。
通常、蜜月は1週間から1ヶ月。
これは収入によって変化すると言っても良い。
なにせ塔の側の宿に泊まらないと授からないので、近隣の町や村からやってくる彼等は自分達に合ったグレードと期間を決めるからだ。
ここで彼等がうっかりしていたのは期間や学園という場所なら大丈夫だと思った事である。
塔の側の宿なら授かるのではなく、神子の側なら授かる事を理解していなかった。
これは私も責任の一端があるかもしれない…私はとっても引きこもりであり塔=神子の図式が出来上がっている事が誤解を助長した。
基本的には正しいのだが今回は奇跡的なタイミングの悪さだったようで、2人ともパニックになってしまったらしい。
そりゃね、あるはずのない物があったらびっくりするね。
咄嗟に2人は托卵の可能性を考えたらしい。
此方にもあるらしいのよ…托卵。
ご夫婦溢れる街でね、盛り上がっちゃって一夜の過ちスナイプしちゃったりとかね…
しかしこの世界、DNA鑑定はないが托卵は成立しないのである。
なにせこの卵、夫婦で暖めないと孵らないのだ。
マルクスさんが言っていた経過観察とはおそらくそれを見ていたんだろう。
夫婦で暖めて卵は成長し、抱えるほどの大きさになると卵は孵る。
他者の体温では駄目なのだ。
で、王子カップルの卵は成長する様子を見せ、無事に?確認が取れてのご報告だったらしい。
故意云々は私が神に神託を受けての行動がどうかの話だったらしく、勿論そんな事はなかったのである。
「なるほどねぇ、それで上を下への大騒ぎだったの?」
「はい。神子様に行動を控えて頂いたのは錯乱した王子が無茶な行動をした際に抑えやすくする為で、御身をお守りするに必要な措置でした。」
呆れて空いた口をどうにか閉じる。
どうやら王子に突撃される危機だったらしい。
私に詰め寄ったって意味ないのだけど、錯乱してるならしょうがないか。
通常であれば夫婦で話し合い覚悟を固めて卵を授かりに来るのに彼等の場合は学生な上に不意打ちで授かったのだ、混乱もするでしょう。
「それは…2人の様子はどうなんですか?もし、育てるのが辛いのであれば塔で引き取ることも出来ますが。」
「ご心配ありがとうございます。成長する卵を見て、しっかり話し合った事で落ち着いている様子です。
また改めて書簡での報告と陛下からの手紙があるかと思いますので御留意下さい。」
「そうだね、そうそうこんな事起きないと思うけどしっかり残しておこう。塔の資料庫に保管しておくよ。」
「落ち着いたら本人達が祈りを捧げに参ります。では、報告は以上ですので私は失礼したします。」
「はーいお疲れ様でした。お参り楽しみにしてるって伝えておいて。」
私の軽い返事に失笑したマルクスさんはピシリとした礼をして帰って行った。
ルーカスさんとこんな事あるんだねぇなんて、言いながらお茶を飲んでから仕事に戻るルーカスさんを見送った。
静かになった応接室から移動して、常に静かな祈祷室に向かう。
膝をつき首を垂れ伏して祈る。
新たな命を授けてくださった感謝と、2人の覚悟へ祝福を。
そして日々の営みへ感謝と祈りを捧げる。
性別:神子は今日も祈りをかかさない。
これってボーイズラブなのか…?