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短編集2

過去の俺、多分A級が一番幸せだぞ(追加分有)

作者:


 

 「おめでとうございます、ファイヤードラゴン討伐…並びに今までの功績を踏まえ、アレン・ダヴィン様はS級冒険者となりました!」

 

 顔馴染みのそばかすがチャームポイントな受け付け嬢、マーロが笑顔で拍手を送ってくれる。それに照れているとゴールドの冒険者証が渡された。

 

 恭しく受け取りつつ今までの過去の思い出を振り返る。

 

 苦節12年…14歳で冒険者デビューを果たし、ただがむしゃらに一人でクエストを受け続け魔物達との命をかけた戦いをし続けた。26歳にしてS級は充分優秀と胸を張りたい。故郷の両親に反対されても飛び出したこと、一度も後悔したことないのは生まれ持った身体の強さのおかげもあるだろう。

 

 両親には本当に頭が上がらない。金も結構溜まっているから一度故郷に帰って親孝行に軽く資産を投じるのもやぶさかではないな。

 

 「くぅーー!かっこいいなぁっ!」

 

 ともあれ、S級のカードを掲げまじまじと色んな角度から見てみる。あぁ、なんて綺麗なんだろうか。パッとしない俺の名前が書いてあるが、それすらなんだか英雄の名前にも見えてくる。

 

 ルンルンの気分で鼻歌まじりに小躍りしそうな俺にマーロは苦笑いを浮かべ一枚の依頼書を差し出して来た。

 

 「え、なにこれ?」

 「依頼クエストです」

 「…え?」

 「ここから馬で半日の所にある村でドラゴンの死体が発見されました、付近には真新しい別のドラゴンの痕跡があり、調査と見つけ次第討伐の依頼クエストです。」

 

 ポカンと今の俺は随分アホらしい顔をしているだろう。さっきまで笑ってた頬がそのまま固まり、口の端がひくついている。

 

 「…マジで?」

 「よろしくお願いしますね!」

 「今S級になったばっかりだよ?つか、さっきドラゴン一匹どうにかこうにか殺ってきたばっかなんだよ?」

 「さすがアレン様、無傷での依頼クエストクリア、素晴らしかったですね!よろしくお願いします!」

 「マーロ?マーロちゃん?え?マーロ様!?ねぇ、聞いてる!?」

 「馬もこちらで用意してありますので」

 「ねぇってばぁ!?」

 

 良い笑顔のマーロ、気弱そうな見た目に反して強かだ。長く冒険者ギルドで働くにはそんな強かさが必要なのかもしれないけれど、顔馴染みに気遣いぐらいしてくれないだろうか。

 半泣きの俺へ向けられていたギルド内の冒険者達から送られる羨望の眼差しが同情の眼差しに変わるのが分かってしまう。

 

 ちらりと周りを見ると美味そうなご飯を食べ、よく冷えたエールで打ち上げしていた数人と目が合う。

 

 …サッと逸らされたが。

 

 「……断ったりは…」

 「現地の住人達が今か今かと待っております」

 「俺が昇級出来なかったらどうしてたのそれ…」

 「出来ると信じておりましたからっ」

 

 誇らしげに胸を張られて…身を切る様な嬉しさからだろう、涙が止まらない。嬉しさじゃなかったらなんの涙なのかなんて考えたくもない。

 

 「…はあ」

 「ありがとうございます!」

 

 にこやかなマーロから依頼書を受け取りとぼとぼとギルドを出るとご丁寧に名札がかけられた馬がギルド前に用意されていた。

 

 【S級冒険者 アレン・ダヴィン様】


 誇らしく嬉しいはずなのにどうして俺はこんなにも悲しみいっぱいで馬に跨っているんだろう。

 無傷でドラゴン倒せたのだって奇跡だった。死にそうな攻撃ばっかりで疲れもした。報酬は美味かったが、文字通り命懸けのクエストだったのだ。

 

 それを帰ってきて早々に…。

 

 よく晴れた空をぼうっと見ていたら孤児らしき子供が花をそっと差し出して来る。優しい。

 

 「これどうぞ」

 「…ありがとう」 

 「料金は銅貨2枚です」

 

 あ、別に気遣ってくれたわけじゃないのか。この子も強かだなと泣く泣く財布から銀貨を1枚取って渡す。

 

 「え?」

 「いい物でも食べな…一応商売だとしても嬉しかったよ…」

 

 背中を丸め立派な装備を台無しにして馬の上で悲壮感に溢れる気前のいい客を見送りながら花を押し売りした少女は少し悪いことしなぁとバツが悪そうに頬をかいていたのを俺は知らない。

 

 「はぁ…俺もエールが飲みたい」

 だらんと馬に身を任せて項垂れていたら手に持っていた花が丁度馬の口元に行ってしまいむしゃむしゃと食べられた。

 

 …手は唾液でベタベタである。

 

 あれ、念願叶ったのに俺すっごく不幸じゃない?気のせいかな?

 

 …────────

 半日かけて依頼のあったラド村に到着した。そわそわとした村人たちに出迎えられ歓声をあげられる。既に何人かは感謝まで述べている。

 

 「…派遣されてきました、アレン・ダヴィンです」

 「S級冒険者様!ありがとうございますっ、ありがとうございますっ!」

 

 村長はお礼ゴーレムと化してひたすら頭を下げてくる。依頼の細かい説明を聞いたいのにずっとそれを行っているから少し実は村長って本当にゴーレムなのではと疑い始めた時、やっと村長は話し出した。

 

 「実は息子のラバンが狩の時にドラゴンの死体を発見したのです、場所はここを真っ直ぐ行った泉のそばで周りは何かが争った形跡と大木が幾つもなぎ倒されていました。」

 「争った…」

 「足跡も死体の物よりも明らかに大きなものがいくつかありまして…恐らく縄張り争いが起こったのだと思うのです」

 

 魔物達の縄張り争いは珍しくない。良い狩場なほど多い傾向がある為、魔物も縄張り意識が強いと考えられている。

 

 厄介なのはそうした縄張り争いを経て、強い魔物が居座ることだ。放っておくとまた縄張り争いが置き、もっと強い魔物が来ることもある。

 

 死んだドラゴンよりも強いドラゴン。想像もしたくないとため息を吐いた俺に不安そうな顔を見せる村人たち。

 

 …悪いことしたなぁと少し自己嫌悪。

 俺は嫌だなぁと思うだけでもこの人達にとっては故郷と命の危機なのだ。子供や老人も少なくない。いざ村を捨てようにもこれだけ働けない者がいると次の土地での生活も難しいだろう。

 

 腹を繰繰れ、アレン。冒険者を目指したのは魔物が理由で生きるのを諦める人を見たくなかっただろう。

 

 自分を鼓舞してゆっくりと表情を作る。安心させるようにしっかりと目を見て自信満々に見えるように口元を緩ませる。

 

 「安心しろ、俺がドラゴンを倒してくる」

 「おぉ…おぉ!アレン様…本当に、本当にありがとうございます!」

 

 ぼろぼろと泣き出した村長の肩を叩きキリがないので馬を走らせる。来た時よりも大きな歓声で見送られるが、俺の心境は今にでも死にそうだった。

 

 昔から成功するか不安のクエストは胃の辺りが痛くなる。特に今日のは酷い痛みだ。後に引けない戦いってこんな悲壮感や痛みを寄越してくるんだなと少し遠くを見ながらぼんやりと考えてしまった。

 

 「…ここか」

 

 村長に言われた道を進んでいけば水の音がした。音に誘われ進むと、良く澄んだ美しい泉があり、周りの木々はなぎ倒されていた。

 

 地面には大きな足跡。爪の地面にくい込んだ跡を見ると結構重量もありそうだ。周りの木々には大きな爪痕や、摩擦の様なすった後もある。どうやらしっぽも立派そうだ。

 

 

 嫌だ嫌だと心の中で駄々をこねながら近くの木に馬を繋ぎ、地面の痕跡に手を当てる。

 

 ほんのりと湿っていて周りの草木の育ち具合を見ると土もいいのだろう。そしてこれだけ美しい泉もあれば魔物達が寄ってきてもおかしくはない。

 

 「スキル発動、《索敵》」

 神に祝福を受けた証として人はLvを授けられ、個性としてスキルを手に入れる。有用なスキルほど神からの祝福が大きいとしてそれはもうありがたがれる。

 

 索敵は文字通り探す相手の魔力を記憶し、辺りを探すスキルだ。似たようなもので魔物以外に使える捜索というスキルもある。

 

 捜索の場合は薬師が持っていることが多い。理由は勿論便利だからに限るが。

 

 とりあえずは近くに原因の魔物は居ないようで腹の底から息を吐き出す。良かった。まだ生きれるらしい。

 

 「にしてもドラゴンの死体だけあって…なんで荒らしたやつは死体を喰らわなかったんだ?」

 

 たとえ自分よりも弱かったとしてもドラゴンだ。豊富な魔力に肉にだって力が宿っているとされていて、縄張り争いに敗れた場合、相手に食われている事がほとんどだ。

 

 「…」

 

 そう考えた時にゾクリと背筋が冷える。え、なんかすごい嫌な予感するんだけど。

 

 キョロキョロと周りを見回しても何も見当たらないし、索敵にもやっぱり反応もない。

 

 「うぇ!?」

 ほっと息を着く前に繋がれていた馬が激しく暴れだした。何か気に食わないことでもあったのだろうかと宥めにかかるが、明らかに様子がおかしい。

 

 「…はぁ」

 

 不穏な気配に諦めて剣に手を添える。何時でも抜ける様にしながら周りを足音を殺して探し回るが、やはり見当たらない。

 

 ───ぴちゃん


 

 そんな時聞こえた水の音はトラウマにずっと残りそうだなと他人事のようにぼんやりと考えながら振り向いた。

 

 「…この泉ってどこ繋がってるんだろう…あは、は」

 

 するりとどうの長い蛇のようで爪も鋭く大きいそれはよく知ってはいるが出会いたくはなかった“リヴァイアサン”だ。基本は海の中に生息している海竜だが、何故こんな所に?

 

 そりゃ普通のドラゴンが勝てるわけない。リヴァイアサンの方が圧倒的に大きいだけでなく魔力量も豊富で水の中、陸、空中なんでもござれな厄介な存在だ。

 

 クルルと美しい歌のようにも聞こえる鳴き声が死を暗示しているようにしか聞こえない。こんなのが近くにいたら馬だって暴れるだろう。俺だって暴れたい。

 

 「…リヴァイアサンってS級よりもSS級って言われてたよな?明らかに俺の出る幕じゃないって言うか、出たところで勝てるわけ?無理でしょ?」

 じとりとリヴァイアサンを睨む俺はもう平常心ではない。叫び出しそうだ。今なら心臓だって口から飛び出る自信すらある。

 

 「き、綺麗な鳴き声ですね」

 『ク…ルルルルル』

 「う、鱗や翼も大きくご立派で…その…」

 

 あ、死ぬんだな俺。

 

 折角苦労してソロでS級になったのに死ぬんだ。うわぁ、上には上がいるとは言うが現実見せてくるの早くない?夢見始めて半日しか経ってないよ、嘘でしょ。

 

 「あの…帰ってくれませんか」

 『…クゥ』

 「俺も帰るんで、他で暮らしてくれません?ほら、こんなんでも一応傷は付けられると思うんだ…」

 

 悲しいかな。必死こいて買った名剣をこんなんと称する日が来ようとは。

 未だにクルクル鳴いてるリヴァイアサン。

 

 「……あの」

 『クルルル』

 

 そろそろ泣きそう。目に潤いが溢れてきたタイミングでバシャリと泉から這い出してきた。

 

 「…ひぇ」

 

 大きい。俺何人分だ?S級試験のドラゴンの倍はあるだろうか。いや、スラリと長い分全長はリヴァイアサンの方が大きい気もする。

 

 『ケルルル』

 「ふぉ!?」

 え、何?!なんなの?

 鳴き声が急に変わったんだけど、え?!

 怖々としながら急に近づけられたリヴァイアサンの美しいが凶悪な顔に背筋が凍る。うわぁ、体が硬直して動けねぇ。

 

 『…ルルルル?』

 「…?」

 

 でも、何故こいつは俺を食べようとしないんだろうか。

 

 不思議そうにキョロキョロと俺を色んな角度から見つめるリヴァイアサンは正直いって怖いんだけど少し愛嬌すら感じてきた。これが吊り橋効果ってやつか?

 

 「うぉあ!?」

 ベロンと舐められ顔がべっちゃべちゃになる。味見か、味見されたのか?美味くないぞこんな筋肉だらけの筋張ったやつなんて。

 

 なんだか目を離したらいけない気がしてじっと見つめていると俺の首ほどある大きな目が俺の目を見つめ返す。

 

 『グルルル』

 「…また鳴き声変わっ!?」

 

 鳴き声が変わったなとつぶやこうとした俺の言葉は出なかった。頭からこう、ガブリとくわえられて話せる奴いるんだろうか、ああ、とうとう食われるんだなと辞世の句を読みかけたところではて、と生ぬるい口の中首を傾げる。

 

 そう、首が傾げられる。

 

 絶え間なくれろれろと舐められてはいるが首を傾げれる位には隙間がある。

 

 それに鋭い牙は俺を噛まないようにか一定の隙間が確保されたまま硬直していてどうも噛んでくる様子はない。

 

 いよいよおかしいなと思い、俺を美味しく咥えてるリヴァイアサンの鼻あたりをとんとんと撫でるように叩くと、大人しく俺が吐き出された。

 

 でろんでろんでべちゃべちゃの26歳の男って、誰得なの?

 

 「…お前俺を食う気ないの?」

 『クルル!』

 「執拗に舐めてくるのって、何?お前らって舐め合ったりするのが愛情表現かなにかなの?」

 『…』

 「愛情表現では無いんだ…嫌われてんの俺?」

 『…』

 「嫌われてもないんだ…じゃあなんで俺でろでろなの…」

 

 念願のS級冒険者証も首から下げているからもちろんでろでろになっているだろう。泣くぞ。

 

 成人してるとかいい歳こいてとか言うやつもいない。実際問題ついて無さすぎて泣きそうだ。でろでろでもう泣いてもバレない気もしなくもないが。

 

 「なんなのお前ぇ」

 甘えるようにしゅるしゅると長い首を俺に巻いて頭をスリスリと俺のでろでろの頭に擦り付けて来るリヴァイアサン。

 

 「なんなのこれぇ…」

 かと思えばぎゅっと大切なもののように抱き締められる俺。もうお婿行けない…。

 

 『ケルルル』

 「もしかしてその鳴き声ってご機嫌なの?ねぇ?」

 俺の気分は最悪だけどお前ご機嫌なの?

 

 ……結局どうにか宥めて下ろしてもらい泉で全身洗ってなにか大切なものを失ったような気分で帰路につこうとする。

 

 「…」

 『ルルルル』

 

 ずるずる

 

 「……」

 『クルルルル』

 

 ずるずる


 飛びもせず俺の後ろにピッタリ張り付いてくるリヴァイアサンのせいで馬にも乗れず俺はとぼとぼと歩くしか無かった。


 …まぁ、討伐とは言われてたが、これを引き離せばこの村は安心だろう。俺には無理だったんだよ、ちくしょう。

 

 そもそも俺にこいつが懐いているのかは全く理解できない。

 

 「……なんでこんな目にあってるんだろう、俺」

 

 朝のうきうき状態でS級になった喜びを感じていた俺。もしもお前に一言でも伝えられるとしたら俺は『多分A級が一番幸せだったぞ』と言いたいよ。討伐対象にA級ってドラゴンないもんな。きっと俺は今死んだ目をしているだろうなと真っ赤な夕陽を遠くに見ながらぼんやりとそんなことを考えながら村に向かって歩いていた。

 

 『ケルルル』

 「…はぁ」

 

 勿論この後、村が阿鼻叫喚の地獄絵図になった。


 ───────────────

 ────────────

 

 村で阿鼻叫喚の地獄絵図を作り上げた後、宥めてこのリヴァイアサンは俺が連れて行くから気にするなと声をかけると村長から改めて感謝をされた。

 

 「リヴァイアサンを従えるとは…貴方でなければこの村から逃げることも視野に入れなければなかったでしょう…いや、それすら叶わぬ可能性だってありました。本当にありがとうございます」

 「本当にいいんだ、気にしないでくれ。中途半端な依頼達成だし、依頼料も半額で良いよ」

 「それは…助かりますが…でも」

 「助かるならそうしろって」

 

 へらっと笑ってやると村長がまた泣き出した。涙脆いなこの人。

 

 『ケルルルルル』

 「こら、舐めようとすんじゃねぇよ」

 近寄ってくるリヴァイアサンの頭を押し返すが、当然力が強い。半ば本気で押し返しながらへらへらと笑う俺を他の村人は恐れている気がしてきた。明らかに子供隠してる人とかいるし。

 

 俺が恐れられてるのか後ろのリヴァイアサンが恐れられてるのか。後者であることを祈ろう。

 

 「…馬は村長にあげたし、馬で半日だぞ、ここから」

 

 歩きとかぞっとする。何日あれば着くんだろうかと遠い目をした。現実逃避すらさせてくれない空気の読めないリヴァイアサンが俺に首を巻いているが。

 

 「離してくれよ…てか離れてくれよ…」

 『クルル?』

 「なんで着いてくる気満々なの?そんなキラキラした目を向けてもリヴァイアサンなんて飼えないぞ」

 

 凶悪な顔も慣れてくると可愛げが感じてくる。まぁ、恐れられるリヴァイアサンにこんなに懐かれてちょっとは嬉しさもあるが、このままでは街にたどりつけたとしても中に入れない。それまでに別れなければと口にしてもいないのに明らかにリヴァイアサンの目が鋭くなる。

 

 「え、り、リヴァイアサン?」

 『……』

 「急にめっちゃ静かになるじゃん、ねぇリヴァイアサン、どうしたんだよ」

 『…ケルケルケルルル』

 「また聞いたことない鳴き声ぇぇぇぇぇええええええ!?」

 

 聞いたこと無い鳴き声に驚いた俺はそれよりももっと驚くことになった。ぱくりと横から腹をくわえられてリヴァイアサンが畳んでいた大きな翼を広げて動かし始める。

 

 嘘だろ!?冗談だよな!?流石にしねぇよな!?

 

 愕然とした俺にリヴァイアサンは怒ったように鼻を鳴らして…───さらば、地上。

 

 「ぅ、うぁぁぁぁああああっ」

 速い!高い!!!

 

 びゅーびゅーとすごい風が当たってきて関節が持ってかれそう。てか痛くないように少し隙間を開けてくわえられてるから落ちそうで怖い。

 

 「離すなよ…絶対離すなよっ」

 『ケルルルルルルゥ!』

 「嬉しそうだなぁ!おい!」

 

 気分良さげに飛ぶリヴァイアサン。緑がかる美しい青の体をしているから傍から見たらとても幻想的だろう。…こっちは文字通り生死の境にいるけれど。

 

 「…てかこれ、どこに向かってるんだ?」

 『クルルゥ』

 「なんて言ってるのか、わかんねぇよ…」

 

 呆然とする俺にリヴァイアサンは少しずつ高度を下げていく。痛いくらいだった風も落ち着いて地面が見えてくる。ほっとしたのも束の間、見覚えのある街が見えて、ゾッとした。

 

 なんか砲台を向けられている。スキルまで発動準備されているようだ。

 

 そりゃそうだよ。感知系のスキル持ちならすぐ飛んでくるリヴァイアサンに気付くだろう。その上街に向かっておりてくるんだ。防衛しようとするだろう。リヴァイアサンだけならまぁいい、多分通じない気がするし。だけど俺がいるわけで。

 

 あ、死んだかもしれねぇ。

 

 スキル発動させるまもなく目の前に沢山の光が飛んでくるのを見て今日何回目かの死の覚悟をした。

 

 『グルゥゥゥゥ!!』

 「うわっ!ちょ!?」

 

 そんな覚悟も俺を咥えてるリヴァイアサンに足蹴にされたが。

 

 …今のって多分上位スキルの混合だったよな?普通のドラゴンなら大怪我負うよな?

 

 前足で踏みつけてぷしゅんって消えたんだけど。

 

 「た、助かった…ありがとな」

 お前のせいで攻撃されたんだけどありがとうよ。俺が礼を告げると嬉しげに目を細めるリヴァイアサン。

 

 やっぱり言葉理解してるよなこいつ。

 

 ダメ元で「説得するから近くに下ろしてくれ」と声をかけてみると『クルル』と鳴いた後、慌てふためく街のヤツらの前に降り立って俺を下ろしてくれる。

 

 …上から舐め回された時よりマシだが、やっぱりでろでろで、唾液まみれだった。

 

 気持ち悪いなぁと思いながらもとりあえず言った通りに行ったリヴァイアサンの頭を何となく撫でて、街のヤツらに向き合う。

 

 「…アレンさん?」

 

 珍しくマーロも剣を手にし、立っていた。唖然とした面々の中でも見知った顔は目立つものだ。

 

 「色々あって依頼は完遂出来なかったがとりあえずあの村はもう安全だよ」

 「いえ、そうではなく…後ろの…というか今咥えられてましたよね?帰ってくるの早すぎますし…もしかして飛んできたんですか…?」

 「うん」

 「そのリヴァイアサンは?」

 「わからん、何か知らんが懐かれたのか離れないんだよ」

 

 マーロの笑みが引き攣る。ついでに言うとマーロだけ残してほかのやつは後ずさっている。

 

 「…ドラゴンを殺したのって」

 「こいつっぽい。ドラゴンの死体があったっていう泉の中から出てきた」

 「なんであんな場所に海竜の住処が…!」

 

 こっちが聞きたい。マーロと話していると我慢が効かなかったのかまた首を身体にまきつけてくる。

 

 「こら!まだ話してるだろ!」

 「アレンさん…その子に何かしました?」

 「え?何もしてないけど…」

 「リヴァイアサンについて多少は知ってますけど…首を巻き付けるって…求愛行動ですよ?」

 「え?」

 

 ぎょっとすれば唖然としたマーロが明らか本気で言っている。よく見るとベテランなギルドメンバーがこくこくと頷いている。周りを見回すと目を逸らされる。

 

 「え?」

 首をまきつけて来てスリスリするリヴァイアサン。

 

 「………お前それ求愛行動なの?」

 『ケルルル』

 「さっき聞いた時愛情表現なのか聞いたら否定したじゃん!?なん…あっ」

 

 “執拗に舐めてくるのって、何?お前らって舐め合ったりするのが愛情表現かなにかなの?”

 

 先程聞いたことを思い出してみると、確かに首をまきつけてくることに対して口にしてない。

 

 「…え、ガチで?」

 「アレンさん…」

 「なん…え?だって俺人間でこいつ…え?」

 「その子随分頭良いみたいですけどほんと何したんです?もしくは何を言ったんです?」

 

 マーロの言葉に必死に何をしたか思い出してみる。えっと、突然こいつが現れて、SS級じゃん終わったなって現実逃避して…。

 

 「………」

 「早く言った方が楽になりますよ?」

 「その、鳴き声褒めたり、鱗とか褒めたりするのって…」

 「……人に例えると声と肌が綺麗ですねって言ってますよね?というかまさか翼褒めたりしてませんよね!?」

 「お、大きいねって褒めました…」

 「翼を持つドラゴンって大抵翼へのプライド高いんですよ!翼が大きいことがステータスだったり、早く飛べるなどもステータスになります!それ、人間の女性を美人ですねって口説くようなもんですよ!?」

 

 マーロの悲鳴にひゅっと喉から空気が抜ける。え?なにそれ。

 知らないって、だいたい誰が人間に口説かれる海竜とか想定するの?つか初めて聞いたんだけどその情報。

 

 「ドラゴンは番から離れることはそうそうありません」

 「…どう、どうにか…」

 「なりません」

 「だって俺、悪くないよね!?ただ依頼クエスト受けて現場に行っただけだよ!?錯乱して媚び売ることだってあるでしょ!?」

 「大抵気絶しますけど…アレンさんがそもそも強い事も災いしたかと」

 

 『ケルルルルゥ』

 「…………えぇ」

 

 スリスリしてくるリヴァイアサンに唖然としてこちらを見てくる面々。

 

 …なんでS級になってしまったんだろう。

 

 呆然と空を見上げ何度も何度も心の中でそう繰り返し後悔した。

 

 

 

  

 

 

 

 

 

  

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[良い点] リヴァイアサンがむやみやたらと人化しなかったところ [一言] いっそ開き直ってリヴァイアサンを後ろにS級に対する待遇改善を交渉したらどうでしょうか?
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