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空色の双翼  作者: 黒影翼
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第1話・敵意示す天使と害意無き悪魔







大陸の北東に位置するグラムバルド帝国。

食糧難を理由に、帝国はかねてより隣接する両国、ランヴァール連合国とエルティア聖王国に度々襲撃をかけていた。


国境の砦に兵を近づけての交渉。

脅迫近いそれは、近年まで頻繁に行われ、通っていた。


大陸最強と謳われる三英雄の一人ヴァルナート=ストレイジを含むグランナイツ。

グランナイツの位自体、一騎当千と謳われる実力が無ければ任命されることすらないグラムバルドの最大戦力。

その存在との敵対を避けるために、多少なりグラムバルドの要求を呑まざるを得ない状況にあった。

それでも、最近になるまでは過度な要求ではなかったのだが、皇帝が代わってから状況が一変した。

突然侵攻開始を宣言したグラムバルドの新皇帝、セイン=グラムバルドは、グランナイツ三騎全てを進撃にあて、大陸最強たるヴァルナートにエルティアとの国境の砦を、残る二騎のハルカとガントにランヴァールとの国境の領土を侵攻させた。

二国同時にとなれば、兵を裂く事になる。いかな強国とて本来はありえない選択だが、ヴァルナートの存在がそれを可能にした。


彼は、単騎でエルティアとの国境の砦の全兵力を壊滅に追い込んだ。

その結果、彼が孤立を避けるためだけの人手こそ必要だったが、侵略行為についてはほぼ兵力を必要としなかったのだ。


そして今、エルティアの横槍を少量の兵力が見張りながら、ハルカとガントの二騎を主としてランヴァール連合国へ侵攻しているのである。



こんな惨状の中、白と黒の邂逅は、さざなみの如く小さく、しかし確かに動き始めた…


挿絵(By みてみん)





第1話・敵意示す天使と害意無き悪魔




森の中、白と黒の衣装と翼の男女。

まるで対を成すかのような姿で対峙するシアナとルシア。

光り輝く弓を引きながらルシアを見据えたシアナは、ゆっくりと口を開く。


「貴方は悪魔ですね。」


迷い無く、敵意をそのままに告げるシアナ。

人の賊を相手にしていたときですら見なかった彼女の姿に、彼女に助けられた少年ですら少し離れて戸惑っていた。


「そうだ。」

「っ…」


真っ直ぐに、しかも弓を引き絞る自分に対して同意を示すルシア。

嘲るでも慌てるでも嗤うでもない彼の様子に、むしろ弓を手にしているシアナのほうが戸惑わずには居られなかった。


「…へぇ、天使様って奴は、助けた相手に対して真っ先に弓を引くんですか、面白い奴ですね。」


と、崖から降りてきていた少女がルシアの傍らに…むしろ庇うように前に立ち、魔力を溜め始める。


「それに関しては素直に貴方にも感謝させていただきたいのですが、そうも言えません。」


だが、少女の言葉に揺らぐ事無く、シアナは弓を構えたままルシアを見据える。


「悪魔は契約や代償を利用するもの、ここで感謝の意など示せばそれをどう使われるかわかったものではありませんから。」

「こいつ…」

「やめろマスティ。」


尚もルシアへの敵対心を隠さないシアナに対して怒る少女…マスティを、ルシアが押しのけるようにしてとめる。

彼女は一瞬ルシアの顔を伺ったものの、彼の意を汲んでか一歩はなれた。


「貴方は何の目的で私達を助けたのですか?」

「お前が何の目的で地上に来たのかを知るためだ。」


悪魔に自身の目的を問われるとは思っても見なかったシアナ。

だが、悪魔相手に油断をしないという事と、自身が誠実であるか否かは話が別である。

彼女は、躊躇うのも一瞬…


「地上に起きた戦乱、それにより急増している犠牲を止めに来ました。」


正直に、ルシアの問いに答えた。

弓を下ろして迷い無く告げるシアナ。その言葉を聞いて一同は静まり返った。


「はっ…はああぁぁぁっ!?」


真っ先に声を上げたのはマスティだった。

意味が分からないとばかりに叫ぶ彼女を押しとどめ、ルシアは一歩踏み出す。


「不可能だ、天界に戻れ。」

「不退転の決意を以って私は今ここに居ます、ましてや悪魔の言葉で引き下がるわけがありません!」


明言するシアナをルシアはただ真っ直ぐに見つめる。

そんな中、マスティがわざとらしいほどの音を立てて溜息を吐いた。


「その子供を連れてどうやって…大体ついさっきルートブルグ領主の城が制圧されたって言うのに、この状況で誰をどう止めるつもり?」


冷静に問われて、シアナは口ごもった。

つい先程、その城への襲撃を止められずに惨劇を招いたばかりなのだ、何をどう止めるか問われて返す言葉が彼女には無かった。


「彼はその制圧された城からこの老人と逃げていたようなので…とりあえず彼を助けようと…」

「つまり何の算段も無いまま口だけご立派だったって事ね。」

「ぅ…」


人間であるマスティに冷たく切り捨てられ、反論を口にすることも出来ずにシアナは立ち尽くす。

マスティは話にならないとばかりに背を向けた。


「ルシア様、行きましょ。こんな馬鹿と話していても実りはありません。」

「次はどうするつもりだ?」


ルシアを促すマスティ。

だが当のルシアは、彼女が馬鹿と称したシアナに問いを重ねる。


「彼を…此方の国の方に預けて…」

「その分だと国名や情勢も分かってないみたいだな。」

「く…っ…」


とうとうルシアの指摘にすら歯噛みするシアナ。

ルシアの指摘通り、シアナが見聞きしてきたのは死後の魂からの数多の悲鳴や絶望そのもの、いわば心象風景のようなもので国政や情勢を知識として持っているわけではない。


「町まで行くぞ、そこで決めればいい。」


そっけないが、案内を申し出るように告げるルシア。

天使が弓引いたにも拘らず害意を見せない悪魔のルシアに、シアナは戸惑いを隠せずにいた。


「ま、待ってください!貴方は一体何のつもりで」

「悪魔が天使の問いに答える必要があるとは思えない。」


その困惑を無視して、言うだけ言うとさっさと歩き出すルシア。

一瞬の逡巡の後、結局現状のままではどうも動けないと判断したシアナは、ルシアの後を追った。






「ねぇ天使様?」

「…シアナと言います。名前で構いません。」

「どーでもいい。」


マスティの嫌味な声のかけ方に、無理して敬称を使わせていると思ったシアナは名乗ったものの、完全に彼女を嫌っているマスティはまるで取り合わずにシアナの背を指差した。


「それよりその翼見せびらかして町に入る気?」


森を歩くシアナの背には白く大きな四翼。

堂々と人前を歩けば目立ち騒ぎになる事は間違いなかった。


「俺の翼と同じだ。力を使うときの力場の役割や象徴で、消そうと思えば消しておける。」

「一緒にしないでください。」

「そうですよ、こんな馬鹿天使とルシア様の力を。自分を大事にしてください。」


ルシアの説明と共に翼を消すシアナ。

それを見届けた上で彼女を罵倒するマスティ。


シアナが悪魔を、マスティがシアナをそれぞれに嫌っている以上仕方ない流れではあるが、出来れば無駄にいがみ合って欲しくないルシアは小さく溜息を吐いた。


森を抜け、制圧されたルートブルグ領に隣接する、フロリス領の町に着き、旅の一同という事で宿の一室を取った四人。

その一室で、シアナは浮かない顔をしていた。


「…嫌なら一人で出てったら?天使様。」


地上に降りてきたシアナが資金など持っているわけも無く、あの状況下でもしっかりと盗る物は盗って行った賊によって、殺された老人の持っていた資金は持ち逃げされていた為、シアナと少年の二人の宿代はルシア達の懐から出ていた。

にも拘らず、まだ不満げなシアナをまるで敵でも見るかのように睨むマスティ。

ルシアでなく、人間であるマスティの、しかも道理の通った指摘を前に、さすがのシアナも首を横に振る。


「い、いくら悪魔と言ってもここまでされて悪態をつく気は」

「種族の本能的なものだ、いちいち気にするな。」


マスティがシアナの言葉で止まらないと予想してかシアナのフォローをするルシア。

シアナも状況自体は分かっているのか、不満げながらルシアに何か言うようなことは無かった。

だが、それでも無理はしているのか、悪魔であるルシアにフォローされた事にますます表情が曇る。


「とりあえず、お前が何者か話して貰えるか?」

「…ぇ、あ、ぼ、僕ですか?」


気弱なのか、殆ど言いなりに近い形で三人についてきた少年は、ルシアに話を促されて戸惑う。


「彼女はお前を預けてから動くと言っている。その預け先も決めかねている今、お前の素性と目的を知ってから地上の状況を説明するのが流れとして妥当だろう。」


シアナとルシアを中心に、敵意や警戒心が渦巻いている中一人蚊帳の外だった少年は、未だに名乗るタイミングすらないままだった。

このままでは文字通りに話にならない。

視線の集まる中で、緊張したように身体を竦めた少年は、深呼吸をした後に口を開く。


「僕はフォルト…フォルト=ルートブルグ。」

「ルートブルグ…あの城の領主の家系じゃない。」

「領主…ファルス=ルートブルグは父だ。」


少年、フォルトが静かに告げた事実に、多少の驚きこそあった一同だったが、特に騒ぐような事はなかった。

城そのものがやられている中付き人をつけてひそかに逃がす子供。それなりに重要な何かがあったのだとルシアとマスティは察する事は出来ていた。


「それで、お父様は?」

「馬鹿!」


一人、さっぱりなにも分からないが故に驚きのなかったシアナが尋ねた一言を、怒鳴りつける事で封殺するマスティ。

さすがにそれで察したのか、シアナは口を閉ざして小さく頭を下げた。


「俺が話すと信じ辛くなる。マスティ、大陸の現状説明を頼む。」


ルシアは悪魔が関わるとシアナが素直に話を受け入れ辛いと考え、現状の説明をマスティに頼む。

あまり頼られないのでうれしい反面その理由がシアナのせいと言う事もあって複雑そうに頬を歪め、マスティは地図を開き説明を始めた。

以前より続く食糧難による脅迫行為から、皇帝の交代からのグランナイツと言う大陸三強を柱としたグラムバルドの侵略。



「エルティア国境の砦では、グラムバルド軍は敵対する兵と首級の直系は容赦なく殺してるわ。一応町の人は規則を守れば圧政は強いずに居るみたいだけど、手向かえば投獄を飛ばしてその場で殺されるそうよ。」

「そんな…そこまで…」


マスティの説明を聞いて、同族での容赦の無い対応にシアナは悲痛な面持ちになる。


「で、そんな連中を相手に天使様はどうやって戦争を犠牲を出さないように止めるなんて馬鹿げた事をする気ですか?」


一通りの説明を終えたマスティが慇懃無礼を隠そうともせず嫌味に問いかける。

シアナは少しの思案の後、小さく頷く。


「グラムバルドの現皇帝の所へ向かおうと思います。」

「はっ…はぁっ!?」

「私は空から向かえますから。」


一応無策ではないかのようなシアナの発言。

だが、マスティは呆れたように首を横に振る。


「城に護衛の一人もいないと思ってるわけ?アーチャーに射抜かれておしまいよ。」

「ですが、やはり侵攻している国を止めにいかなければ」

「グランナイツを討てば、犠牲は数人で戦乱を膠着させられる。」


割って入るように告げるルシアの言葉を聞いて、シアナはルシアを睨む。

が、マスティが感心したように盛大に頷いた。


「確かにそれが出来れば膠着には持って行けるかも知れません。さすがルシア様。」

「討つって…」


ルシアに抗議しかけたシアナは、その言葉を飲み込んでフォルトを見る。

既に父と付き人を殺されている彼を前に、誰一人死なせないと口にする事はシアナにも出来なかった。


「それも嫌か?」


だが、口に出せずとも心情を読んだルシアが問いかける。

マナーで口をつぐむことは選択できても、偽りを告げる選択肢の存在しないシアナは、ルシアの問いに頷き返す。


「私は…人の死を止めるために来たんです。」

「は…っ、今更になって何を!」


ルシアに問いかけられ偽りを返せなかったのか、搾り出すように口にしたシアナ。

それを聞いてマスティが激昂する。


今更。


それは、戦乱を迎えて既に幾多の死者を出し、今既にフォルトという結果をこの場において口にするには、あまりにも場違いであるシアナの言葉を表すのにこれ以上ない程に的確なものだった。


「分かっています。それでも、私は人の死を止めるために来たんです。今更でも、信じてもらえなくても。」


それでも、シアナは悲しげな瞳のまま、はっきりと告げた。

策謀も何も無く、それが真実だから。

怒りを顕わにしていたマスティだったが、それすら馬鹿馬鹿しくなったのか、息を吐いてシアナから顔を逸らした。


「グランナイツを壊滅させれば攻め手を止めることは出来るが、それが知れれば報復でグラムバルドが滅ぼされるだろう。」


そんな中、ルシアは自分の提案の先の悲惨な予想を告げた。

先の予測で否定した訳ではなかったシアナだったが、自身に破滅の先導をさせかねなかったルシアの誘導に怒りを顕わにする。


「っ…貴方は!私を短慮に誘うためにそんな提案をしたのですか!?」

「可能性の話だ。一長一短ある中から何かを選ぶなら、一面だけの都合のよさに乗らない必要がある。」

「そんな事は分かっています!」


先に自分から提案した内容の盲点を自分から暴露していくルシアに声を荒げるシアナ。


「でも…実際今どうなってるのか…」

「え?」

「及び腰になっても攻められるなら…父の領土が攻め込まれた時点でもう徹底抗戦の準備に入ってるかもしれない。天使様は…その…今から帝国までどれ位で往復出来ますか?」


恐る恐ると言った感じで問いかけるフォルトの言葉に、シアナは口を噤んだ。

開かれた地図で示された距離の移動は、馬車で日単位の距離。

最大速度が常時続けられる訳でもなく、シアナは苦い表情のままフォルトの問いに答える。


「常時飛べるわけではないので…それなりには…」

「全部首尾よく行っても、戻ってくる頃にはこの近辺は全て終わった後だろうな。」

「っ…」


往復した所で何もかも滅んだ後では遅い。

その往復交渉にしたって上手くいく保障もない。


少しの沈黙の後、シアナはフォルトを見る。


「貴方を信頼できる方に届け、その上でランヴァール連合国の方に非戦、防戦を頼みます。ちなみに、フォルトは…」

「僕は天使様の力になります。」

「ありがとうございます。」


無謀とは言え、一応の方針を決めたシアナの言葉に頷くフォルト。



「ねぇルシア様、どうしてここまでしたんです?普段なら助けたって後は放置するのに。」


勝手にやっていろと言わんばかりに息を鳴らしたマスティはルシアに問いかける。

そのマスティに対して応えるように、ルシアはその目を見て…




「俺は彼女…シアナに同行するつもりだ。」

「「は!?」」




天使に同行すると明言した。

あまりにも予想外だったのか、全く同じタイミングで叫ぶマスティとシアナ。


「な、何を勝手に決めているんですか!」

「勝手なのは当然だ、俺の都合だからな。だから、お前が拒否した所で後をつけるまでだ。だが、それならお前の足しにもなったほうがいいだろう?」

「っ…!」


怒りたいシアナだったが、涼しい顔で堂々とつけると宣言する悪魔相手にまともな説得が思いつかず、言葉に詰まったままルシアを見続けることしか出来ない。


「ル、ルシア様!?どうしてこんな馬鹿に」

「俺の都合だ。嫌なら好きにすればいい。」

「うぅ…」


冷淡とも言える位に変わらない口調でマスティの言葉を切って捨てるルシア。

女性二人が言葉に困る中、フォルトが恐る恐る手を上げる。


「何だ?」

「天使様の足しに…と言う事ですが、どういう事ですか?」


険悪な空気のままよりも話を進めたほうがいいと考えたフォルトが搾り出した疑問。

足しになると自分から言い出した以上、ルシアは素直に答える。


「事が起きた時の戦力になろう。あと、シアナが望むなら不殺も約束する。共に居る必要がなくなるまではな。」

「約束って…悪魔の約束なんか信じられるわけが」

「悪魔にとって契約、盟約の類は儀式のようなものだ、嘘を吐かない。」


悪魔なんか信じられないというシアナに対して、悪魔だから嘘を吐かないと告げるルシア。

何処までも対照的な二人を見比べて困るフォルト。


「参考までに言っておくけど、ルシア様は私の知る限り嘘は吐いた事ないから。嘘を吐かない代わりにあまり色々は話してくれないんですけど。」


人間である自分が混ざったほうが話が早いと考えたマスティからの一言により、シアナはルシアを見据えていた瞳を閉じる。


「…どの道、ついては来るんですね?」

「あぁ。」

「分かりました、不殺を守って貰ったほうが安心できますし、今回の件も何も返せずというわけにもいきません。それでお願いします。」


フォルトを無事に助けられたのは勿論、宿代すらルシア達が持っている現状で強気で冷たく出来るほど、シアナはすさんでいなかった。

同行を許可するだけで返礼になるのなら、悪魔の誘いと言う点を我慢する方がよかった。


「マスティ、もしついてくる気ならシアナに無駄に悪態をつくな。」

「ぅ…」


名指しで指示されたマスティは、苦い表情でルシアを見る。

元々マスティは必要もないのにルシアについて回っている身。彼女に無理をさせないために同行者にしてしまっているが、その気になれば倒すなり撒くなりルシアには簡単に出来る事くらいマスティにもわかっていた。


「気持ちは分かるが、シアナに無駄に心労をかけたくない。ただでさえ悪魔が傍に居るという状況と不可能な願いで気をもむ事になるからな。」

「っ…好き勝手な事を!大体不可能と言うなら何故ついてくるんですか!」


同行してまで共闘を宣言した割に、自身の願いに対して散々な物言いをするルシアの事が分からず怒るシアナ。

だが、彼はその問いには答えずにマスティを見る。


「…はい、分かりました、できるだけ頑張ります。」


マスティは、しぶしぶ頷いた。

誰がどう見ても納得している様子ではなかったマスティの方は気がかりで、シアナは彼女を心配そうに見る。


「私は別に人に無理をさせに来たわけでは」

「じゃあとっとと帰れ!!」


気遣ったつもりが怒鳴り返されたシアナは、ルシアを見て目を伏せた。

誓った傍から怒鳴るマスティの様子に、どこか諦めるように肩を落とすルシア。

一人枠から外れてそれらを眺めていたフォルトは小さく息を吐いた。








グラムバルド帝国、本城。

ルートブルグ城を制圧した後事後処理を部下に任せて単身早馬で引き返したハルカは、謁見の間に来ていた。

玉座にて足を組んで座る現皇帝、セイン=グラムバルドを前に、片膝をついて恭しく頭を下げるハルカ。

城の制圧から休みも入れずに通常一日近くかかる距離を馬を飛ばして帰ってきた騎士を眺め、セインは肩を竦めた。


「夜中になるのを承知で飛ばして帰って来たんだ、楽にしていいよ。用件を教えてくれ。」

「はっ!」

「楽にしていいって言うのに…この辺はさすがグランナイツって所かな。まあいいや、やりやすいように。」


何をどう言っても楽にならなそうな騎士の様子に苦笑しながら、セインは話を促した。


ハルカの話は、天使が地上に現れ、戦乱を止めると告げた事だった。

城の制圧完了だけなら伝令を飛ばしたが、希少な異常事態のため、自身で報告に帰ってきたのだった。


「敵対するものならたとえ女子供でも容赦はするな…と言っても、『皆を死なせない事』が目的の女性天使様相手に殺して首を持ってくる真似は出来なかったか。」


一応は軍に逆らい敵対した者。

通常なら蹴散らすか捕縛するのが当然と思われるそれを放置してきた。

ハルカもその指摘は覚悟していたのか、深々と頭を下げた。


「申し訳ありません!」

「あぁいいよいいよ、気にしないで。国家直属の若手人気騎士様が女性天使を命令も無しに刺殺したとあっては国の皆にも引かれるだろうしね。」


硬さの目立つハルカ相手に苦笑するセイン。

冗談混じりのつもりだが全く硬さのなくなる様子のない彼の様子に、セインは力を抜いて話すのを諦めた。


「さて、それじゃその天使の扱いに関してだけど…基本的には無視していい。」


セインの発言は、少しだけハルカにとって意外なものだった。


堕天使は魔法や神術の実験等…殆ど道具として使われているのが、今の地上の現状だった。

堕天使は罪があり地上に落ちた『元』天使。誰も崇めておらず人間ですらない天使達の扱いについては酷いものとなっていた。

特に『力』に傾倒しているグラムバルドにとって、新たな力の可能性になる天使の話はセインに通せば間違いなく捕獲や抹殺の類が命じられるとハルカは考えていたのだ。


「とは言え、おそらく戦乱を止めるというなら、間違いなくまた邪魔に来るだろう。そのときは生死問わず、好きにしていいから僕の所に持ってきてくれ。」

「はっ、そのように対処します。」


報告を終えると、立ち上がったハルカは深々と頭を下げた後踵を返して早足で謁見の間を去る。

寝ずに馬を走らせて前線に戻る気なのだろう彼の実直すぎる姿を笑みのまま見送ったセインは、部屋にも戻らずに玉座に背を預けて天井を見上げた。


「戦乱を止める…か、馬鹿なことを言う。今更…僕が居る限り、そんな事は不可能だというのに。親殺しの皇帝とまで言われている僕が玉座に収まる中で、そんな夢物語が叶うものか。」


呟いて、セインは笑う。

決して大きくはないその声は、静まり返った城に滲みるように消えていった。





序盤位は定期的に進めたい…(汗)


※修正、地図追加。

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