最終話・人には遠く天より近いその場所で
最終話・人には遠く天より近いその場所で
シアナはルシアの回復をしながら、カークとマスティが戦う堕天使について、薄れた天使としての記憶をたどって思い出していた。
「堕ちて色々思い出せなくなっていますが…それでも思い出程度には残っています。上司…にあたる方が私が地上に降りるのを心から憂いていた原因、過去、人の救済に降りた戦天使…サリア。」
同じく堕ちたからなのか、今戦う堕天使の名前は口にすることが出来たシアナ。
「空色の翼を得た私ですが、無制限に力を使える気はしません。彼女も私と同じ四翼なのに。間違いなく、何かされた結果…」
「魔性の異物に浸食…多分、埋め込まれてるのか。」
ルシアの言葉に、痛ましい表情で瞳を閉じるシアナ。
人を助けに地上に降りて、人に批難罵倒され鞭打たれた彼女。
その先が、一人で、魔に改造されて封じられるなんて結末だったのなら…
「錬黒掌に、私の加護を乗せて叩き込めば、きっと届きます。武具を避けて直撃させないと厳しいと思いますけど。それで彼女を…っ…」
それが、どれだけ痛い事か想像が出来た上で、想像以上なのも想像できるシアナ。
だが、彼女はあくまでも『人々を救いに』来たのだ。
経緯はどうあれ人を滅ぼしかねない化物を救いたいなどと口にするわけがなく…
「それで、アイツの異物を破壊する。」
「…え?」
「俺に力を貸してくれシアナ。俺はアイツを救いたい…いや、『救済者が邪魔だから死ね』等と言われる結末を否定したい。…先生を。」
「ぁ…」
ルシアの頼みに呆けるシアナ。
国の陰謀で殺された先生。
世界の危機に肩を並べて戦った友を封じ、異常を探って友に殺された先生。
そんなもの二度とごめんなのだと、ルシアは言う。
「戦争は…俺がお前に力を貸す期間は終わったんだ、報酬の一つもくれてもいいだろ?」
「…はいっ!!」
微笑むルシアに力強く頷くシアナ。
ダメージが癒え、方針も決まった所で二人は並んで堕天使サリアに向かって駆けだした。
防ぐは不可能な光の竜巻。
それを前に、飛び出したカークは竜巻目掛けて剣を振り下ろした。
縦に裂けても、渦の発生の根本が消し切れていなければ止められない魔法の竜巻。
カークは剣を振りぬいた勢いをそのままに飛び込んで回転、渦の根元にもう一度斬撃を叩きつけた。
だが、余波までは消しきれずマスティも負傷し、自分から飛び込んだカークに至っては全身傷だらけで座り込んでいた。
「っ…ぐっ…」
「ば、馬鹿…何で私を…」
魔性に浸食されて身体が変わったマスティの方が生命的なしぶとさは上の筈なのだが、かばうかのように単身竜巻に突っ込んだカーク。
背後からカークに迫って治癒術をかけるマスティだったが、そんなことをしているほど暇もなく、サリアは再度盾をつけた左手を翳し、柱のような光線を打ち出す。
回避ならともかく、防げるはずもない一撃。
だが、立ち上がるのがやっとではさすがに避けられず…
割って入るように二人の前に飛び込んだルシアが両手を前に突き出し光の柱を受け止めた。
飛び込んできたルシアを見て、顔を強張らせるサリア。
「悪魔…っ!!」
「あぁそうだ、だから人の都合も天使の都合も無視してやりたいようにやる。だから…」
悪魔らしいルシアの言葉に怒りをあらわにしたサリアは盾を構えて剣を振り上げる。
「お前を助ける。」
サリアはその姿勢のままで、硬直して動かなくなった。
ルシアに続いて来たシアナが、背後で空色の四翼を広げて光を放つ。
黒い拳ごと、ルシアの身体が淡い空色に包まれる。
「要らない…そんなもの!誰も望んでない!!!」
叫びと共に剣を振り下ろすサリア。
左拳でサリアの剣を受けたルシアは右拳を振るう。盾で受けたサリアはその衝撃で後退する。
踏み込んで見るも、右手の剣を止めるには左拳を使わざるを得ず、右拳は左の盾に止められる。
故に、剣を潜り抜けるように屈みながらかわして左拳を振るった。
それを盾で防ぐサリア。
防ぐと同時に後退され、また距離を開けられる。
通常の打撃なら攻防を繰り返せば一撃狙うくらいは出来るかもしれないが、錬黒掌を放り込もうとすれば盾がそのままではどうにもならない。
全身を防御膜で覆っている彼女相手にただの一撃など意味がある訳もなく…
「錬!黒!掌!!!」
「何っ!?」
斜めから体当たり気味に突っ込んできたマスティが、盾をつけた左腕に側面から全力で掌底を叩き込んだ。
ルシアのそれとことなり、ただの爆裂魔法を使用した模造技。
打ち込んだマスティの左手が爆発で焼け裂け、血が噴き出す。
「このっ…」
「カウンターストライク!!!」
丸見えのマスティの背に向かって剣を振り下ろそうとしたサリア。
その腕に突進気味に突っ込んでただ斬撃を振りぬくカーク。
ルシアですらただの打撃では通らない彼女の腕に再び傷が重ねられ、その腕が止まる。
左腕を左に、右手を右にそれぞれ止められたサリア。
その中心に、真っ直ぐルシアは飛び込んだ。
サリアの鳩尾に吸い込まれるように叩き込まれるルシアの掌。
直後、弾けるようにサリアの身体中から光と闇があふれ出た。
静かに、ゆっくりと崩れ落ちる彼女を前にルシアはそっと掌を離した。
脱力したように動かない。
「殺して…」
俯いたまま、サリアは聞こえるかも怪しい声で呟いた。
「人を憎んだ…殺した。全てが同じでない事なんて、知っていたはずなのに。」
人間と言うだけで全てが同じ筈がない。そんな事が『学』としてわからない訳がない。
「許される訳がない。なのに…許せない…いや…怖い…っ…」
だが、自分でそれを口にしておきながら、サリアは自身の体を抱きすくめるように両手で肩を抑えて震えていた。
怖がりながら『殺して』と頼むサリア。
それはつまり、彼女にとっての『人間』が死より恐ろしいものであることを意味していて…
「ぁ…」
ルシアは、そっとサリアを抱えた。
ボロボロと流した涙で頬を濡らすサリアを見たルシアは、彼女を抱えたままで首だけ動かして眼前に来ていたシアナを示す。
「貴女に人も、人に貴女も傷つけさせません。」
シアナがそう言って微笑んでサリアの額を撫でると、彼女は声にならない声で泣きじゃくった。
消耗だらけ、無理矢理体内に感知された魔性の反応を叩き壊した事によるサリアの検査なども含めてフェインの元で休むことにしたのだが…
轟音と共に、ルシアは跳び起きた。
焦った様子で音のした部屋に飛び込むルシア。
部屋には、壁にめり込んだフェインの前で拳をバキバキと鳴らすマスティと、反対の壁で震えるサリアを抱きしめてあやしているシアナの姿があった。
「実験で人間がトラウマになったって言ってんでしょ。怪しい笑いで薬だの針だの取り出してじゃないわよ。」
「き、君仮にも僕の使い魔になったんだよね?いや、あんまり様子変わってないって言うかなんか余計に怖くなってるんだけど…」
トラウマで癇癪を起こしたサリアの暴走かと思ったルシアだったが、平和でもないものの大丈夫そうなので一息ついてサリアをなだめる事にしてシアナとサリアを見る。
「…大丈夫か?」
「わ、わかっ…わかってるんですけど…身体が…」
「はい、大丈夫ですから。ゆっくりいきましょう。」
「大丈夫じゃないのは僕なんだけど…君、魔法メインの癖に殴り飛ばさないでよ…」
壁から身体を外すように出てきたフェインが困ったようにつぶやき首を身体を慣らすように動かす。
「無限魔力の源は断たれたようだから倒せないって事はもうないだろうけど、トラウマは精神的なモノ、最大出力はその黒い四翼のサリアちゃんの才能。咄嗟に手が出たら危ないし、人前は避けた方が無難なんじゃない?」
何も気にしないように語るフェインだが、話を聞いたサリアの顔が曇る。
街中でその力を開放して光の柱で人の波を呑み込む姿を想像してのもので、寄り添うシアナも痛々しい表情でその顔を見る。
居場所がない。
いつもシアナやルシアが傍にいなければ、万一人の姿を見た時どうなるか…
「シアナ、全てが片付いたら言おうとしていた事なんだが…」
「はい?」
「俺はお前と人の輪を避けて生活するつもりでいた。それに彼女も連れて行こう。」
ルシアの言葉に、驚いたようにシアナはルシアを見る。
「ヴェノムブレイカーの…俺の名が『強制力』すぎる。お前が人の波で思うまま全力で動き続けたら、それを嫌う何かに間違いなく狙われ、それを避けるために俺がずっと控えればお前の望みをかなえないモノを強制排除するような世界になる。」
「強制…」
胸を抑えて呟くシアナ。
確かに、戦争を個人規模で力まかせに止める戦力などと言うものは、もはや強制と言うにふさわしい。
「この後の食料、住居なんかの問題とエルティアの闇の排除、無理に捕まっている堕天使達の開放要求だけ通して山奥にでもこもる事にしたい。」
「じゃあその交渉に君たちが言ってる間は僕が彼女を預かろう。エルティアなんか彼女が行ける訳ないしね、うん。」
「ひっ…」
ルシアの言葉にのっかってニコニコと告げるフェイン。
楽し気なフェインの言葉に肩を震わせるサリア。
二人を見比べたマスティは、疲れたように肩を落とした。
「私もここに残って、下手な事したらこの馬鹿を引き肉に変える役を請け負いますね。二人は安心して交渉周り片付けてきて下さい。」
「君、絶対僕より恐ろしいと思うんだけど…元人間だしさぁ…」
呆れたように呟くマスティにフェインですら引く中、シアナだけが一人苦笑いを漏らしていた。
ヴァルナートを伴って魔界を発ったルシアとシアナは、セインに向かって伝令だけ出すとエルティア王城へ向かったのだが、ヴァルナートがいるにもかかわらず兵士たちは誰一人止めず一同を王城へと招いた。
「よく来てくれた、ルシア、シアナ。無事で何よりだった。」
そして、エルティア王城に着くと、玉座には二人が見覚えのない青年の姿があった。
「ソルクレイヴか、貴様の変態親父はどうした?」
「そこまで言うか…いや、貴殿の怒りは当然か。更迭して余生を適当に過ごして貰う事にした。」
「兄ともども謝罪させていただきますよ。」
と、改めて現れた別の声。
聞き知った声にルシアとシアナが目を向けると、力の反応を隠すローブを着込んだセリアスが玉座の背後から姿を見せた。
「兄?」
「改めまして、シアナさんルシアさん。セルファート=エルティアです。偽り塗れで貴方方を利用しようとしていた事も含めて、改めて申し訳ありませんでした。」
深々と頭を下げるセリアス。
いきなりすぎる情報に頭がついて行かず目を瞬かせるシアナに対し、ルシアは納得がいったように小さく頷いた。
「えと…セリアス…セルファート…さん?」
「セリアスでいいですよ。どうせ非公式な存在なもので継承権云々はないですし。」
「父が遊び倒した堕天使との子供なんだ。他の事例を聞かないから珍しい筈なんだが…ともあれ、下手に話が出来ず、他者に明かしたのは初めてと言う訳だ。」
「王族関係者だった訳か…道理で妙な手管も融通が利くわけだ。」
ランヴァールまで含めて人を集めて橋を止めた手段について移動や金銭の融通が課題と思っていたルシアだが、馬や乗り物に融通が利くだけの権力があるならば不可能とまで言わない話だと察する。
「僕も驚きました。」
「王族なのは知ってたけど、堕天使との子供だから隠してたのは僕すら初耳だったね。」
と、三人の後から入ってきたフォルトとセインがにこやかに声をかけてくる。
「ふむ…手際のいい話だ。ここで済ませてしまおうと言う事だな。」
「あぁ、命に問題出そうな箇所だけ二人には突っ込んで貰う事にして、ここで後始末を全部着けてしまおうと思ってね。」
「そういう事だ。憎きエルティアへの来訪、歓迎…とまではいかないが、感謝させて貰う。」
玉座から立ったソルクレイヴが、セインを見据えながらも軽く頭を下げる。
世界を荒らすと言う選択を取ったセインへの威圧と、把握したエルティアの所業を踏まえた上で殺戮でなく交渉に応じてくれたことへの返礼。
張り詰めた空気に顔を顰めるシアナを伴って、ルシアは中心を外れる。
強制力。
ルシアが告げた、人の輪を外れた方が良い理由。
話し合いの方向性によっては色々と不都合や争いが生まれもするだろうが、それでも先に告げた通り命に係わる話以外には無理な口出しはしない方針でいる為に、二人は見分役に徹する事にした。
封印を解いた結果、徐々にではあるが数十年程度あれば土地の…グラムバルドの力も回復していくことが調査の結果から分かったため、移住したもののうち望む者はそのままに、故郷の復興を望む者達には、その拠点や活動の為の食料含めた資材の提供などを確約し、エルティアの王族が世界を殺しかけた堕天使の原因であると言う事実の封殺を条件とした。
魔法神術関連の実験に使われていた堕天使のみはその身分からは解放されることに決定し、ルシアとシアナに伴って人から逃げたいものは同行させることになったが、そうでなければ人々の意思に任せる事として、シアナは口を挟まないと決めていた。
だが、フォルトもセリアスも堕天使『だから』という理由で物扱いされている状況に関して否定的で、二人ほどではないがソルクレイヴとセインも同意見の為改善の方向に向かう事にはなった。
最も、いきなりの真実に開放を求めれば、『特に悪いつもりがない』堕天使の買い手達を無闇に罪科に晒す事になりかねない。
どうしても嫌ならルシア達が連れていくという条件も相まって、自分の意思で残るのならば厚遇されなくても仕方ないと言う決定から、緩やかに改善する方向になった。
侵略に対しての責任は、両国の治安維持にグランナイツを貸し出すと言う形で応じた。
基本的に壊滅させられたのは領主や将兵。その穴埋めとしては十分を超えて余りあるほどで、衣食住に関わる物での補填が出来ないグラムバルドから出来る最良近い提供だった。
そして、それから…
エリナは、エルティアの白翼騎士団が壊滅し、地竜騎士団からソルクレイヴが外れざるを得ない結果、厚遇でエルティアの正規騎士にスカウトされた。
堅苦しい色々に文句こそ言っていた彼女だが、参謀として着いたセリアスと共に国内外での問題に対処している。
セリアスは、その全てを明かすと問題にしかならないとあくまで一貴族としてエリナのサポートをする。
ソルクレイヴの信認篤い事もその知と弓術から疑問を持たれず、本人も王族にこだわりはないのかシアナの歌を歌いながら、呑気に過ごそうとしてはエリナに引きずり出される日々を送っている。
フォルトは、ランヴァール貴族が侵攻から全滅させられた結果ほぼ唯一の生き残りとなった。隠し子やそれを名乗るだけの権力欲しさの連中もいる上、フォルトが子供な事もあって上が一番まとまらない所だったが故…
フォルトはハルカとマスティを伴って自身で出撃し、兵を起こしたものを鎮圧しながら各地で説得を行っていった。
自身の身も戦いに晒して、並の人間では相手にならない剣士となったフォルトを人として認めさせ、各地での方針については親身になり、知識や即断の類がそこまで得意でない面もあったが、人心を徐々に動かし統一していくのには十分すぎる働きをしていた。
マスティは戦力としてしばらくフォルトに着く事を決めた。
魔性に浸食され人でなくなった身ではいずれ国の主要箇所からは離れないとならないとは認識しつつ、色々と一番荒れそうな場所で『人々を守る為に力を行使する』ルシアを慕った想いに従って。
そして…
三国の北の、静かな山中。
ルシアとシアナは、伴って逃げたいと言う数人の堕天使と共に田畑を作って過ごしていた。
状況の報告と思い出話とばかりに送られてくる手紙を閉じて、シアナは溜息を吐く。
状況報告故に特に荒れているランヴァールでの鎮圧等の話も載っている手紙。
「辛いか?」
「…言えませんね。行く意味なんて無いと言われるわけです。」
全ての死を止めるなら、全ての意思を制御するほどの事をしなければならない。
つまり、望む望まざるにかかわらず支配者のようなものに成ってしまう。
そんなこと意図していなかったシアナだったが、小競り合いの話全てに顔を出す事の意味を示されて、思い知らずにはいられなかった。
そして、やろうと思えば…ルシアが協力すれば、それが出来かねない状態で…支配者に力で成ろうとすれば、争いの再発に向かうに決まっていた。
「意味はあったさ。戦争一回分は…エルティアの壊滅までは止めた。…俺が救われた、って言うのはお前にはどうでもいいことかもしれないがな。」
「それは…意地悪です。」
ルシアの救いに意味がない等とシアナが言える筈がない。
分かっていて微笑むルシアに拗ねたように告げて微笑みを返すシアナ。
「ルシアー!!あーそぼー!!」
と、二人が見つめあっている所に声が響いた。
「…あんたは一体何回負ければ気が済むんだ。」
「ヴァルとルシアに勝つまでやるのー!!」
「俺は怪我したら遊びで済まなくてな、何分人間の中年だからな。」
「何処がだ人外の筋肉達磨。」
子供のようなマシュアと引率のようなヴァルナートの訪問に俯くルシア。
山奥にいると言うのに手紙の伝達すらなくてもその人外じみた身体能力で山を駆けて隣近所のように遊びに来る両親に、ルシアは心底疲れていた。
「マシュアさんはいつも楽しそうですね。」
「?…シアナは楽しいようにしてないの?」
「色々難しいですね。」
辛いと言う訳は決してないが、戦いの報告が届くたびに苦いものが廻るシアナにとってはマシュアのそれは悪魔を敵視しない今羨ましさすらあった。
「戦争止めたくて飛び出して、でもシハイが嫌で隠れてるんでしょ?どっちも好きに選んだのに楽しくできてないの?」
マシュアの問いに硬直するシアナ。
ヴァルナートがマシュアの肩を抱き寄せて笑う。
「子供のように素直にこんなことを言う所も中々面白くてな。」
「む、誰が子供だって?」
拗ねたような顔でヴァルナートを見上げるマシュアは、少しして微笑むとひょいと顔を近づけてヴァルナートに口づけした。
ニコニコと離れるマシュアは拳を握ってルシアに向かって構える。
好きなようにと言っても限度があるだろうと額を抑えて俯くルシア。
「あ、あのっ!」
と、唐突にルシアの横にいたシアナが上げた大声に、一同が一斉にシアナを見る。
直後、シアナはルシアの口に自身の口を重ね合わせた。
勢いあまって軽い衝撃があった口元を両手で抑えたシアナは、少しそっと離れる。
「よ、良ければ早めに片付けて下さい。そ、それじゃ!」
普段なら試合を見届けてから帰るシアナがさっさと家に引き返してしまったのを呆然と見送る三人。
「…早めに片付けるか。」
「『良い』からか?」
「うるさい。」
「…って!びっくりして流すところだった!誰が早く片付けさせるか!!!」
怒って腕を振り上げるマシュアを前に、唇を軽くなぞったルシアは静かに構え…
「…本当に早々片付けられたな。」
「ううぅぅぅぅ…」
獣の如き速さと反応に力が相まって強いマシュアだが、ほぼ全撃大振りのフルスイングでは今のルシアにそうそうあたるはずもなく、何度も繰り返したこともあってか手早く倒されたマシュアは、唸りながら岩肌の地面をぺたぺたと叩き続けた。
戦禍を断った青空と夜空の翼はその羽根を休める。
人には遠く天より近いその場所で…
総後書き
まずは、ここまで読んでくださった皆様ありがとうございます!
予防線張ったりだとか変に謝罪とかはあんまりしないべきと思っていて、作者自身は普段はその心づもりでいるんですが…
いや、今回はちょっとごめんなさいルシア君達。
と言うのも…実はこの話とその流れ、シミュレーションゲーム作ろうかなーと思って纏めてたりした色々なんですよね。
だから、本当の元々は特色や傾向程度はあったものの、やたらとネームドスキルなんて無かったし、登場人物自体戦力云々で増える予定だったりしたんです。
異空間云々も、『飛行歩行の区別なく戦闘可能』っていう所からなんですけど…
人数そんな同時に文章で動かせないわ掘り下げられないわ(元々エリナの部下がいたりフェインが戦線加わったりとかやってられない人数いました)各地からの移動日数とか正確に測ってたら問題なく動かせてるか怪しいとか(ゲーム時は主人公到着と共に話が進むからレベル上げしたりしても大丈夫なので気にしないもの)飛行と歩行の区別ない上に体術がまともに機能する『空間』ってどう描写すんの!?とか…
これ大変っすね…某シミュレーションの小説読んで違和感覚えた事なかったんですが、凄い事だったんだと思い知りました。
頭どうにかなるかと…(苦笑)
ただ、作者が毎回テーマと言うか理由と言うか、投稿するにあたってそういうのがある場合が多々あるんですが、本作もソレがありまして…
『偽善者、嫌い』ですね。
一般的には多分、偽善者『なんて』嫌いだと思い、傾向によってはやらない善よりやる偽善とか、色々と認識云々あると思うんですが…
作者の場合、『偽善者という言葉が嫌い』です。
善を『偽って』益を得ようとしている者…詐欺師でいいでしょう。
で、今回のシアナの願いのような手合いに向けられるものへの解が、善者かどうかは知らないが、想いが偽りな訳がない。って事です。
七夕の短冊に『世界平和』と書いて下げたって尊いと思いますもの。
そもそも何かを非難する場合、『それを上回っている』か『それに無関係』か『それの敵』かぐらいだと思われますが…
『真善者って誰だよ!』と『別にかかわる気ないならツッコむなよ!』と『善者っぽいの反対って悪者っぽいじゃねーか!』でどれもロクなもんじゃないって言う思いが常々…
テーマなので、これを理由に『偽善者』『嫌い』とタグに入れようかと思ってたんですが…多分一般的には嫌いどころかモロ該当じゃねーかと、検索して引っかかった方に誤解を招きそうで止めたって経緯もあったりします。
まぁ終末系ラスボスに非難する気になれない方がいる作者なので、作者自身が半端な偽善者で片付いて終了な話と言う気もするのですが(汗)。
ちなみに、後の人物紹介も、どのタイミングでどこまで載せていいやらと迷った結果、簡易設定にできず最後になったり…セリアスとか正体描かないと吟遊詩人の弓使いだし。
こんな緩い作者ですが、またどこかや何かで見かけましたら覗いて頂けると幸いです。
改めて、ありがとうございました!!
『主要人物紹介』
・ルシア=ストレイジ
孤児院で育った悪魔と人間のハーフ。孤児院の先生を慕いつつも悪魔として壁を作っていた。
孤児院が破壊され、先生が殺された後は修行しながらの一人旅で人助けをして回り、先生が自身を『偽善者』ではないと言い切った理由を知ろうとしている。
自身の悪魔としての特性である闘争欲求を抑えているため、感情が薄く見える。
・シアナ
戦乱による数多の死者を見かねて地上に降りた天使。
自力で戦争を止められると、ある意味思い上がっていて、何をしてもろくな結果が出ず、絶望しながらそれでも諦めない。
天使の光弓という光る魔力弓を扱う。
・フォルト=ルートブルグ
剣を収めるルートブルグ家の息子。
領地を壊滅に追い込まれ、追撃されている所をシアナに掬われる。
気弱な少年だが、剣の腕自体は確か。
・マスティ=ハーツ
魔術使いの少女。
両親が殺されたところをルシアに救われ、心酔している。
また、両親がお人よしの結果死んだ為お人よしを嫌っている。
・プレフィア=ストークス
孤児院時代のルシアの知り合いの少女。
神術で傷を癒すことが出来、ランヴァールでシスターをしている。
・エリナ
義賊『エセリアナ』首領女子。
戦乱等で職にあぶれたはみ出しものを抱え、生計をたてている。主に他の賊や評判の悪い悪徳商人を潰している。
身の丈程のバトルアクスを使う。
・セリアス
本名、セルファース=エルティア
放蕩の第二王子。
吟遊詩人を語りふらふらとついてくる。
堕天使の産み落とした者の為存在を隠匿されていて、公共に公表されていない。
・フェイン
知の悪魔
知識を集め、語る事を目的とした悪魔。
・アーセル=アガルトリア
先生。
人間ながらにして悪魔や堕天使を超える魔力を持ち、かつてヴァルナートと共に三英雄の一人に数えられていた。
しかし、堕天使戦後、封印やグラムバルドの衰退について調べている事を煙たがられ存在を抹消されることになる。
・マシュア=ストレイジ
魔界最強格の暴力少女悪魔。
黒の力を使い、破壊に長けるが、ヴァルナートと一日交戦した挙句敗北し、ヴァルナートが自身と戦える女として好意を持ってそのまま蹂躙する。
子供がごねるように文句を言いながらヴァルナートに敗北しては抱かれていたらいつの間にかルシアを身籠っていた。
・ヴァルナート=ストレイジ
ルシアの父にして、三英雄の一人。斧より重い長大剣を扱う。
地上最強の人間と知られ、他のグランナイツの二人が纏めて挑んでも勝てない化物。
普段は重装が過ぎる黒鎧を身に纏っているあまりにも不気味な黒騎士だが、矢傷のようなくだらない怪我を避けながら鍛える為の代物で、外装の要らない鎧をはいだ状態が最強の状態。
・カーク=ライトレイド
孤児院時代ルシアに突っかかっていた唯一の少年。
先生を慕い、ルシアを敵視し、その上で戦乱を終結させる為にグラムバルドに着く事を選んで剣を磨いた。




