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空色の双翼  作者: 黒影翼
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第17話・目覚める翼



第17話・目覚める翼




マスティ達にグラムバルドの進軍に対しての時間稼ぎを任せたルシアは、シアナと共にランヴァールから北の山脈に入った。

軍単位で移動すればさすがに補足もされるだろうが、少人数で山脈を移動する分にはグラムバルドに入っても見つかりづらいだろうと言う考えからだった。


山脈移動の為、足場が悪い所はルシアがシアナをおぶるなり持ち上げるなりしてその身体能力を以て無理矢理超える。


下手な馬旅並の速さで山脈を進む二人だったが、さすがに平地を馬車でと言う訳にもいかず、山中の洞窟とすら呼べないような穴に二人で入って並んで座る。


肩を預ける距離…と言っても、他意がある訳ではない。

野生生物に奇襲されてすら危険なシアナを身体から離して休息をとるのが山中では危険だと言う実利からの選択だった。


「…完全に足手纏いですね、すみません。」

「気にするな、と言った所で無理なんだろうな。」


そんな距離で同じ布をかぶっている為、小さな声は勿論身じろぎすら伝わる。

無言の行程を感じたルシアは、一息吐いて覚悟を決める。


「お前に使われたい。」

「え?」


それはシアナにとって不可解すぎる一文だった。

使われたい等と言う欲求は意味が分からないし、それを悪魔が天使にだ。


通常の悪魔とは一線を隔する存在である事は分かっても、意志の強い者の言葉としても誰かに使われるのを望むのは異常で、訳が分からない。


「お前と同じだ、俺は悪魔を疑っている。いや、今尚と言う意味ではお前よりも。」


懺悔のように言葉を紡ぐルシアの顔を見つめるシアナ。

ルシアはシアナを見ずに俯いていた。


「俺が何かの行動を起こしても、それはきっとこの破壊衝動を満たす為に使われるだろうと、この力に染まる為だけに動かされる傀儡になるだろうと、極力何も願わないようにしてきた。」


冷めた口調で語るルシアだが、それらを聞いてシアナは言葉を失っていた。

いつから?

生まれ、物心ついてからだろう。今呑まれて変貌していないのだから。


ずっと笑わず、傍らにいたマスティにすらロクに語りをしなかった今までは、自身の悉くを封殺してきたから。


「フォルトに先導者の責を負え等と言っておきながら自分はこのざまだ、ふざけているにも程がある。結局俺は、先生のようでありたいとも、その力になりたいとも口にできずに、天使を利用して何も自分で決めずにここまで来た。」

「ぁ…」


利用。

一見悪魔らしいその言葉は、自分を封じ込めるためのもので…



『悪魔である自分など出てこなくていい』と抑えるもので…



「シアナ…俺を使ってくれ。俺はそれでいい…それがいい。」

「っ!!」


シアナは俯いて喋っていたルシアに覆いかぶさるように抱き着いた。


「お、おい?いきなり何を」

「ルシア…貴方が私を助けたい理由は何ですか?」

「それは力にのまれて狂わない為…」


ルシアが答えている最中にその体に回した腕に込める力を強めるシアナ。


「だから、狂わない…先生や私の望まないような方向に進みたくない理由は…何ですか?」

「それ…は…」


丁寧に問いを重ねられ、ルシアはついに言葉に詰まる。

そこで、少し腕を緩めたシアナは、ルシアの背中をゆっくり撫でた。


「…言わなくても、いいです。ただ、『ソレ』をちゃんと見て、大事にして下さい。全てを塞いで、『ソレ』まで見えなくなってしまったらダメです。」


シアナは耳が触れる程にくっついて抱きしめていて、互いに顔は見えない。

けれどその声色が微笑みと共に告げられる柔らかさを孕んでいることはルシアにも分かって…



ルシアは目を閉じる。


『貴様に出来る事が俺に出来ない筈がない!!』

『私達は、必ず何かに助けられています。君達や私達の見ているものや、見えていないものまで。ですから感謝するんですよ。』


散々な差の中で繰り返されたカークの強がり。

暗躍の果てに殺されすらしたくせに先生が告げていた光。

いい加減で滅茶苦茶だと思った。言えてしまう事が凄いと思った。


『ルシアは好きな人に少し控えるみたいにずっと着いて、その様子を伺って、困ってたら手伝ったりするくせに自分は悪魔だってぴったりはつかないんですよ。』


自分をずっと見ていたプレフィアの、からかいの言葉。

でもそれは…


(嘘では…無いんだよな…)


おどけてからかってはいたつもりだろうが、それはきっと本心。

つまり…


「好き…なんだな。」

「…え?」


誰にでもなく、振り返ったルシアは呟いていた。


「お人好しの先生も、無茶苦茶なカークも…」

「ぁ…あぁ、そうですね。」


不意打ちのように呟かれた『好き』の言葉が先生についての問いの後だった事を思い返して、密着したまま強張った身体の力を抜くシアナ。


(どうしようもないほど優しい馬鹿な天使…も…)


最後は言葉にしないまま、ルシアはまどろみに沈んだ。












「マスティさん…本気でアレを使う気なんでしょうか…」


翌日、山道を進みながら、マスティが手にしたグリムネクロスを思い返したシアナは表情を陰らせる。


もうすぐ山脈は抜けることが出来る。

となるとマスティが告げた『合流できる』という言葉を実行することになる。

その手段は転移術。

ただ、その辺の人間がほいほい使える代物ではなく、拠点に陣を作り魔力を込め目印となる対象のなにかが認識できる状態でないと使えない。

当然、必要な出力も異常。

ページが進むほど魔力を増し、自身を喰われる魔書を読んで合流しようとしているマスティを思い返すと、シアナは不安と申し訳なさを抱かずにはいられなかった。


「フェインに乗せられてとはいえ、マスティが自分で決めた事だ、どうしようもない。」

「ルシアは強いですよね…」

「俺の強さは淡泊を続けただけの偽物だ。心配するお前のそれは優しさ、大事にしてくれ。」

「ルシアの強さは私が使っていいからですか?」


はげましたつもりがシアナに微笑みかけられて、ルシアは少しだけ驚くと顔をそらす。


「とりあえずは戦争を終わらせるまでだ。」

「そうですね、全てはそれから…」


傍にいるのが当たり前のようなシアナの物言いに、バツが悪そうに顔をそらすルシア。

だが、ルシアの回答をシアナも当然と思っていた。


(戦争が終わって尚、交渉にまでヴェノムブレイカーとして名前が知れたルシアをまるで神輿のように担ぎだして平和なんて言ってられる訳がない…交渉とか、作物作りとか、何が出来て何に必要かわからないけれど、本当の問題解決にはちゃんと私がこの身の動く限り自分で当たらないと…)


『先生』を望むルシアを平和になってまで戦力のように担ぎ出すのも、脅迫用にその名を使うのも間違っているしルシアもそんな平和望まない。

問題の解決までは動き回るつもりでいるシアナだったが、戦いが終わってまでルシアを担ぎ出すのは違うと考えていた。



「…人の力?子供か?」

「どうしましたルシア?」

「微弱な力を感じる…」



黒に染まった翼のせいで消すこともできず、元持っていた能力も使えなくなっているシアナにはわからない人の力を感じたルシアが、山道下の木々の中を見つめる。


山の終わりも近いとはいえまだ山中。

子供であれば一人でうろついているのはおかしいし獣でも危険。

既にグラムバルド国内故に人に見つからない方が侵入として成立はするのだが…



「行きましょう。」



迷いなくそう言うシアナに頷いて、ルシアはシアナを抱きかかえ山の斜面に身を落とした。

適度に斜面を蹴り、滑るような角度で斜面を下ったルシアは、木々の隙間に飛び込んで着地する。


ただのぼろ布のような服を着た少年が、目の前に降りた二人を呆然と見た。


「ぁ…え…」

「どうしました?」


黒い翼を背に、優しく問いかけるシアナ。

顔と背の翼とルシアを見て戸惑う少年だったが、少しして口を開いた。


「む、村に兵士が来て…俺、追い出されて…」

「兵士に…なんで?」


シアナが疑問をいだいている間に、木を蹴って登っていくルシア。

数回の跳躍で木の葉を超えたルシアは、周囲を見渡す。


煙が上がり、小さな影が空を飛ぶ方角を見つけた。


殆ど直接に近い形で数本の枝を踏み抜きながら飛び降りたルシアは着地してシアナが駆けだしている事に気づく。


「片付けておく!ゆっくり戻ってこい!」


呆然としている少年にそれだけ告げて、ルシアも駆けだした。

出来たての肉体に、力を失ったという二重の枷に囚われたシアナだが、人々を救う為ならば何であろうと。と言う意思がその体を突き動かしていた。

呼吸が異常な事になっていても走るシアナに追いついたルシアは、シアナを止めず、片腕で抱えて走り出す。


「は…ル…ルシア…先に…」

「軽い!」


怒りか好意かも分からないものに振り回されるように、ルシアはシアナを持ったまま走った。

彼女の言う通り、ルシアだけで行って戦った方が良いし、完全な足手纏いの筈のシアナを戦闘に巻き込む理由が無い。

それでも、止まらない汗に顔色が変わるほど走ったシアナを置いて人に被害が出ている地に先行するという選択が、ルシアには出来なかった。



村に着くと、幾人もの兵士が武器を構えていた。

だが…


(大した『力』がない…精鋭は前線送りだからか。)


自国の村を抑える程度の力なら大した戦力はいらないだろう。

だが、それをした理由は…


空を見上げ、黒い翼の杖を持つ人影を見つけたルシアは、顔を顰めた。


「屍天使…」

「アレが…」

「そう言う事です。それでは堕天使と悪魔の処断と確保と行きましょうか。」


山側から村の裏門まで来た二人の前に、門の影から姿を見せる老人の姿があった。


「ザーヴァ…」

「それではルール説明と行きましょうか、この村の家々にはそれぞれ自分の家に避難して貰っています。」

「ルール?」


遊びでも競技でもないのに、相手の作ったルールなど聞く理由がどこにあるのか。

陰湿な笑みを見せるザーヴァに二人は揃って嫌なものを感じ…




「屍天使、『周囲を気にせず全力で』悪魔ルシアを殺しなさい。」

「っ!貴様あっ!!」




二人が理解を整理する間もなく、屍天使は杖から火炎弾を打ち下ろした。


着弾すれば村は勿論、傍のシアナも巻き添えを食いかねない。迷いなく跳躍から火炎弾を殴り砕いたルシア。

だが、それはつまり傍にいたシアナを一人残す事になり…


「さ、死にたくない事を理由に私の手伝いに集まった皆さん、安心しなさい。彼女は殴っても犯しても貴方達を殺しはしませんから。捕らえて皇帝から褒賞を受け取ると良いでしょう。」

「っ…」


シアナが気づいた時には、その周囲には兵士達の囲いが出来ていた。

じりじりと迫りくる囲いを見てシアナは…



迷いなく弓を速射して、村内の兵士の一人の足を射抜いて駆けだした。



(どこまでも私の願いに付き合ってくれているんだ、簡単に捕まれない!)



たとえそれが罪だとしても、自分の全てが黒だとしても、それでも誰も死なせたくないのだと言い張って、それにどこまでも寄り添ってくれた『仲間』の姿を思うシアナ。


無論、そうであれ何があっても自分の手で人の命を奪う事はありえないが、その理由に自分の翼の白を保つ必要がなくなった今、罪過を呑み込みながら進む程度は選ぶ覚悟はあった。


震える手を弓を握る力を増すことで抑えて村の閉所に逃げるシアナ。


「おやおや…取り押さえる腕力はないからと適当な兵を連れてきましたが、これなら魔法で抑えた方がよかったですかね?」


天使としての力を失った少女に弓引かれて逃がした兵士に呆れながら、それでも狭い場所目指したシアナはいずれ捕まえられると、ザーヴァは焦らず残りの兵士が走る後に続いて歩き出した。



家屋を離れたいルシアだったが、下手にそれをしきれずに屋根の端や煙突などに立ちながら、黒弾を放って屍天使の魔法を相殺する。


「くそ…っ…」


幸か不幸かサタナス相手に力のぶつけ合いをやっていたばかりだったので屍天使如きなら相殺までは出来たが、如何せん一発でも流れ弾が家屋にまともに着弾すれば中の人がただでは済まない状況は不利極まりなかった。

自国の民を自分で殺そうとしているのだから『敵』ならば知ったことではないのかもしれないが…


(シアナが見逃す訳がない事を知ってか、子供一人を山に逃がして感知させたことまで含めて…くそっ、作戦としては有効だな。)


ザーヴァの徹底して心を逆手に取った陰湿極まりない手立てに歯噛みするルシア。

苛立ちを冷静さに抑えさせて力に狂うのを避けるが、今度はそれで黒の力が強く出せなくなる。


それでも戦っていれば、狭い道を走るシアナを集団で追いかける兵士が見えた。



「っ…散爪塵!!」



飛び込むような跳躍から、辺りの兵士を纏めて上から黒の散弾で叩き伏せるルシア。


わざわざ跳躍したのは、上空の屍天使に斜め下に撃たせても家屋に直撃させない為で…


兵士の群れを幾分か戦闘不能に追い込んだルシアは、身動き取れないままに放たれた雷撃を直撃して吹き飛ばされた。

シアナの前を、兵士達を超えて村の柵の外に通り過ぎたルシアはそのまま地面に落ちる。



「ルシア!くっ…」


狭い道に逃げ込んだのは、周囲ではなく直線状に相手を見る為で、シアナは弓を引くとまだ向かってくる兵士の足元を狙って矢を放つ。


だが、その矢はいきなり盛り上がった土の壁に止められた。


壁が砂のように晴れると同時に迫ってくる氷の雨。

咄嗟に腕を交差させて受けたシアナだが、別段強い力でもないのに攻撃用の魔法を直撃して立っていられる訳もなくそのまま転ばされる。


「っ…ぅ…」


起き上がる間もなく、シアナを囲むように槍が突き出されていた。


「はいはいそこまでですよ、堕天使のお嬢さん。」

「っ…貴方は…っ!自分の国の村まで巻き添えにして目的を為そうなんて」

「それはそうでしょう、お嬢さんのような愚か者にはわからないのかもしれませんがね。計画は達成してこそです。」


兵士たちに並ぶようにして姿を見せたザーヴァが、笑みを浮かべたままでシアナを見下ろす。



「中身もなく、意味もない。存在している事が無意味な偽善者。それが今の貴女です。何、悪い様にはしませんよ、この国の役に…人の役に立つ材料にしてあげますから。」



陰湿で澱んだ笑みで放たれるザーヴァの言葉は、心中を抉るに特化しているが故に否定もできないもので…



「…違います。」



一息、呼吸を整えたシアナは、自身を囲む槍を身体と弓で跳ねのけながら立ち上がった。

槍の刃に叩きつけられた弓が割れて地面に落ち、刃が触れた肩や腕が切れ、血が流れ出す。


「おや、随分威勢のいい。偽善かどうかを堕天使の貴女が決められるとでも?」

「嘘はつかないルシアに偽善者じゃないと言われ、その理由をずっと考えていました。たとえ願いであっても、嘘ではないのだと。その理由を…」


ルシアが何処か『願う』ように、根拠も何もないままに断言したそれに応えられないかと、シアナなりに考えていた解。

天使としての役割を放り出し、個々の望みや可能性の有無を振り切ってただひたすらに人を救うと言いながらここまで来た自分を偽善者でないと称する何か。それに応えるための解。


「無意味で無力な悪党なのかもしれない、でも…」


自身を悪と称したシアナは、それでも迷いなく真っ直ぐに目を開く。



「私が皆を救いに来たのは!『偽り』なんかじゃないっ!!!」



『善者』を否定したシアナは、それでも偽りではないと断言した。


それは、嘘を嫌うルシアが名乗る『悪魔』から見つけた答え。

その行為の善性が皆無だったとしても、その心に偽りなどないのだと。


槍のはねのけ、全身を傷つけ尚、皆を救いに来たと告げるシアナを前に、前線を避けた兵士達はたじろいだ。

力を失った上、ルシアやヴァルナートのような威圧感のない少女相手に気圧される兵士達を見て呆れたザーヴァは深く溜息を吐く。


「やれやれ…屍天使。」


そして、ルシアを墜落させた屍天使に向かって…




「あの子供を殺しなさい。」




門の側から向かって来ていた、先の少年を指さし宣言した。

それは、シアナへの全否定の為。その無力を思い知らせ立つ力そのものすら砕くため。


ただ、自分の話を聞いて一も二もなく助けにと動いた二人を追ってきた少年。

そこに、火球が落ちる。




死ぬ。




デルモントがフォルトが目の前でそうだったように。

戦いの最中見た、倒れ行く、倒れている人々のように。





理由も理解もなく、シアナは弓を引いた。





子供に着弾するはずだった火球は、唐突に霧散した。




光り輝く一閃が通り過ぎ、貫かれて霧散した火球。

ルシアの黒ではない。そんな事、誰もが放たれた光の元を見ればわかる事だった。

消えた火球を眺めていたザーヴァは、恐る恐る振り返る。



「もうあんなものは嫌だ…だからここへ来た。」



ボロボロと、涙を流す瞳があった。

その手に壊れた弓とは別の弓があった。

その背に黒い翼はなかった。



「死なせない…絶対に!!!」



空色に輝く翼を背にしたシアナは、涙を流しながら弓を引いた。






少し離れ、シアナの叫びを聞いたルシアは、自分を嗤った。



(あぁ…馬鹿な話だ…)



シアナが叫んだあまりにも単純な解答。


先生が子供たちを助け、孤児を集めて養っていた理由。

偽善者と言われ不正解と笑いながら告げられた理由。

ルシアならすぐにわかるだろうと言った理由。



(方法論じゃない、効率じゃない、可能性じゃない、結果じゃない。)




全てがたった一つで片付く理由。




(ただそうしたかったという、それだけの事なんだ。)




魔法の直撃程度で沈んでいる場合じゃない。

ルシアはマヒしていた身体から黒い翼を吹き出した。


黒の力の浸食。

それに抗い全力を出す方法。

こんな簡単な答えに辿り着いたと同時、ルシアはそれにも気づけた。


その瞬間に最大威力を出す事を目的に編み出した錬黒掌のみ、『その一瞬全てを込める事』に集中していた。


ならば、話は簡単。

衝動を封じ、心を抑えてではなく…






「はあああぁぁぁぁぁぁっ!!!」




黒の力が、ルシアの全身から迸り空に舞う。

直後、跳ね起きたルシアは村の柵を木の葉のように散らしながら戸惑う兵士達の元に飛び込んだ。


一瞬。


それで、数人の兵士が鎧を砕かれのたうち回る。


「ルシア!?」


強大な力。

一瞬暴走を疑ったシアナだったが、すぐにその黒の異変に気付く。


空を塗りつぶすように舞い上がる力はしかし穏やかだった。


その証拠のように、倒れた兵士達も悶えたり痛がってはいるものの、重度の怪我や血しぶきの類はない。


「ありがとうシアナ。」

「え?」

「もう大丈夫だ、俺の願いも思い出も…こんなものに負けやしない。」


ルシアが辿り着いた、黒き力の制御方。

それは自らの心を出さない事ではなく、抱え募った思いの力で、勝手に湧き上がる衝動を『超える』事。


シアナは数瞬ルシアの言葉に目を瞬かせた後、微笑み返した。




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