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空色の双翼  作者: 黒影翼
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第12話・天使の罪



第12話・天使の罪





シアナは腕に抱えたままに、マスティをゆっくりと地面に立たせるルシア。

その様子を眺め、パンドスは歯噛みしていた。


「ぬ…ぐ…主力はソルの奴にヴァルナート対策で任せているとはいえ…まさか二人にここまで…」


マスティが時計塔にあっさり来られたのは警戒主体が広場だった事と、対象がルシア中心だった事が原因と考えていたパンドスだったが、そのルシアがいつ来たのか台の反対側にいたとなると話が変わってくる。

最悪彼が首狙いであれば、相打ちか殺して逃げられるかしてしまっている距離と戦力だったと、パンドスですら理解していた。


だが…


「全員一斉射!!騒動の元凶を討て!!!」


ルシアが二人の『救出』に来たのならば、これで避けえないとも判断した。

全員ではないが既に立ち上がっている兵達が、号令と共に弓を魔法を放つ。


ルシアは、シアナを真上に投げた。



「散爪塵!!!」



両の手に黒い力を湛えたまま、柔らかく開いた両手を振るいながら一回転するルシア。

散弾のように散った破壊の力が、降り注ぐ飛び道具の悉くを止め、抜けて命中した兵士の幾人かが再び地面に転ぶ。


その間にも落ちてきているシアナ。それを左腕を掲げて触れたルシアは、さしたる衝撃音もなく、落下したシアナに合わせて腕を下げて衝撃を殺し、その体を再び抱えなおした。


「あ…が…」


趣味こそ悪いが仕事をしていないわけではないパンドス。

騎士の訓練視察、能力の把握なども多少はしており、少なくとも音もたてずに人を柔らかく受けるのが力任せでない事は理解していた。


出力は悪魔のそれ、技は当人の修練のもの。

この場の騎士全員に決死の突撃をさせても殺せるか怪しいと、彼にも分かった。


「マスティ、走れ。」

「…はいっ!」


単調な指示だが、ルシアからという事で素直に聞いたマスティは兵のルシアが崩した脇道目指して駆けだす。

近場の兵が捕らえようとするも、ルシアが右手で放った黒弾が足元に着弾して動けなくなる。


「ル…シア…人は…」

「分かってる。」


一通り眺めたルシアは再びの飽和攻撃が来る前にとマスティが向かった方へ駆け出し、民家の傍に来ると跳躍してその家の上に乗った。

屋根をベランダを壊さないように駆けるルシア。

そんなものを追える訳もなく、騎士達は唖然としてそれを見送る。


「お、おのれ…本当にあの女の救出だけに来たというのか…ヴェノムブレイカー…」


自身が無事であることに安心しつつも、悪魔に関わらず行動理念が読めないルシアにパンドスは歯噛みした。






「は…はぁ…」


無理が過ぎて魔法も乱発できるか怪しいまま走るマスティ。

まともな騎士一人にでも捕まればどうなるかと思う反面、町の人は特にマスティを捕らえようとはせず遠巻きに見ているだけだった。


広場一面が燃えた。

台を粉砕した轟音。


それだけが伝わった街中で、一般人が厄介ごとに関わろうとするはずもなかったのだ。


しかも、屋根から飛び降りてきたルシアがマスティに並ぶ。

平然と家の屋根を跳び駆け、人一人抱えてロクに音もたてず着地するルシア。

もはや兵士すら一人二人で見かけた所で戦う気になれず町の人を庇って武器を構えるのがせいぜいだった。


そんな二人が行く先国用の馬小屋に、斧を杖のように突いて暇そうにしているエリナの姿があった。

周囲には、倒れた兵士と諦めてか縛られて動けない兵士が数人適当に放置されていた。


「よぉ!遅かったな!!」

「エリナ!?あんた何で…」

「お前について来てたんだよ。一緒に突っ込んで斧ブン回しても良かったんだが、途中であったルシアに馬の用意を頼まれてな。大方そのお姫様が死人を喜ばないからだろうけど。」


軽口をたたいてルシアが小脇に抱えたシアナを指さすエリナ。

だが、一切答えずルシアは一頭の馬に飛び乗った。


「っておいこらルシア!一言位あってもいいだろ!」

「急ぎだ。」

「ごめん同感!」


さっさと馬を走らせたルシアに、腕の怪我も処置せず続くマスティを見て、エリナも少しむくれたものの適当に一頭拝借して二人を追う。


さすがに見張り台や物陰から弓や魔法の奇襲程度はあったものの、力の位置が分かるルシアが迎撃して止まらずに町の外に突っ切る。


やがて建物もなくなるような道にまで出た所で、ルシアは川を目指した。

比較的綺麗な川を見つけ…


ルシアはシアナを川目掛けて放り投げた。


「ってえええぇぇ!?ちょ、ル、ルシア様!?」

「待ってろ。」


ついて来れていたマスティがいきなりすぎる所業に混乱するのも流して、ルシアは川についていくように飛び込む。

飛び込んだ方がいいのかと考えたマスティだったが、待ってろと言われた以上意味がなさそうで…


「ったく…根性ないな、いいだろ別に斧位。」


斧を持ったまま馬に乗ったため重量の関係で遅れたエリナが、乗ってきた馬の後頭部を軽く小突く。

疲れからか逆らう気力もないのか、大人しくされるままだった馬をエリナが近場の木につないだ所で、川からルシアが上がってきた。


「うお!?お前何水遊びしてんだ!?」

「ルシア様、あれだけ消耗したアイツを溺れさせて何を…」

「は?何!?シアナも水中なのか!?」


エリナとマスティが揃って驚く中、意にも介していないのかルシアは水から上がって…



シアナを…黒い四翼を背にした少女を引き上げた。



誰も、何も言葉を発さなかった。

ルシアはシアナを地面に寝かせると、その前髪を、顔を、翼を撫で、撫でた掌を見る。


「わかってはいたが無理が過ぎたな、まだ足りない…」


意識を取り戻す事すらないシアナを見て珍しく顔を歪めるルシア。

少なくともルシアに黒い翼への動揺がないその様子に『コレ』が問題のない事象だと判断したエリナは、問いを捨てる事にした。


「…色々聞くのは落ち着いてからにするが、セリアスが渡し舟準備してあるからゲート村東の森に来いっつってたぞ。」

「何?」

「アイツ…どっか行ったと思ったらそんな事してたの…」


少しの思案の末、ルシアは再びシアナを持って馬に乗る。


「やれやれ。ほら、お前ももーちょっと頑張ってくれよ、これやるから。」


自分の乗ってきた馬に持っておいた人参を差し出すしたエリナは、乱雑にそれをかじった馬を見て満足げな笑みを浮かべる。


「まんま『あねさん』って感じね、本当。」


腕の傷口を適当に縛ったマスティは、肩を竦めて二人に続いて馬を走らせた。






馬をゲート村に置いて東の森を進むルシア達。

シアナを背負っているにも関わらず悪魔の身体能力故か先頭を走るルシア。

エリナもマスティもそれなりの体力を有している為、動けないシアナを連れてとは思えない速さで森の奥に辿り着いた。


森の奥、夕陽に照らされた湖を背に、セリアスは近場の石に腰かけ笛を吹いていた。

ルシア達の誘導か練習の一環か、ルシア達が顔を出すとそっと演奏を締めくくって目を開く。


「お待ちしていましたよ…っと、あまり芳しくないようですね。」


シアナを連れずに背負ってきたルシアの姿に状況が悪いと察したのか、すぐに湖に結んで止めてある舟のロープをほどくセリアス。

ほどいている最中なのも無視して乗り込むルシアに、続くようにマスティとエリナも乱雑に乗り込む。


「ってちょっと、私を置いてく気ですか!」


手漕ぎの小舟のオールを手にしたルシアをみて、セリアスは殆ど飛び乗るようにして離れ始めた舟に乗り込んだ。




慌しく乗り込んだセリアスは、一息ついた所で黙々と舟を漕ぐルシアを見る。


「それで次はどうします?エルティアよりましとは言えランヴァールでも領主たちを放って出てますし、グラムバルドはそもそも敵。一体どこへ」

「魔界へ行く。」


端的な返しだったが、人間に過ぎない一同は驚きを隠せなかった。


地獄の門と呼ばれる湖中央の島。

その所以が、魔界に繋がる『門』があるという事だった。

しかし、行って帰って来た者などそうそういる筈もなく、人々には半ば伝説のように伝わっていた。


「安心…までは出来ないが、俺とシアナがいれば多分大丈夫だろう。」


未知の地への…しかもおどろおどろしい口伝ばかりの場所への移動の不安を拭う為か、一度行った事があるルシアが大丈夫と告げる。


「それより…セリアス、あんたに聞きたい事があるんだけど。」

「はい、何ですか?」


先頭で渡し舟を漕ぎ続けるルシア。その背後に座らされて目を閉じて動かないシアナ。

二人を背にして、後方にいるセリアスを見ながら、マスティはその手をセリアスに向けた。


「どうして騎士団が村に来た時ピンポイントでいなくてすぐに顔出したの?その法衣もそうだけど、舟まであっさり用意できる理由は?…湖の魚の餌になりたくなかったら答えて貰うわ。」


下手な子供なら泣きそうな殺気立ったマスティ。

だが、セリアスが答える前にエリナが斧を上げて壁にするようにマスティの前に翳した。


「どうどう。コイツはエルティアのボンボンなんだってよ。ウチの連中の扱いと言うか根回しみたいなのはコイツに頼んだんだ。でなきゃあたしもついてこれてねーよ。」

「む…」


エリナの言う通り、慌しく出てはきたもののゲート村に馬を置いた際にも集会所付近で騒ぎが起きた形跡はまるでなかった事をマスティも見ている。

否定できない言葉に取り合えずはマスティは手を下ろした。


「ついでに明かしてしまえば、私が吟遊詩人を名乗って放浪していたのは、故郷を守る為に対グラムバルドの戦力として貴方達に協力を願えないかと思ったからでして。褒賞の類で動く方々ならこの法衣がそれを払える身である証明になると思っていたのですが、天使シアナに同行している上に貴方方の人となりが読み切れなかったので。」

「はなからルシア様を利用しようって腹だった訳ね、どいつもこいつも…」


現段階の騙し討ちは無いと判断したマスティだったが、同時に金だの頭だので動いている連中にロクな奴がいないと汚物を見るような目を向ける。

セリアスは苦笑いしつつ両手のひらをマスティに向けるセリアス。


「まぁそう言わないで下さいよ。天使シアナが何を訴え、何をしてきたのか知っている筈なのに、罵声程度ならまだしも、堕天使の罪を着せた挙句手籠めにしようなんて変態じじいには愛想が尽きたからまだ同行しているのですし。」

「わざわざ鞭で破れる薄着にしてる辺りな、重税だの弾圧だのは聞かねぇとは言え…なぁ…」


苦しそうなシアナに目を向ける一同。

黒く消えないその翼は確かに堕天使のものではあるが、白き翼のシアナを知っている一同は、彼女を裁く事と堕天使を裁く事がイコールで繋がらなかった。





降り立っても、端から端まで見えそうな程度の島。

門があると言う話こそあれ、そこにらしきものは見えない。

だが、迷うことなく歩を進めるルシアに従って、一行もついていく。

やがて足を止めたルシアは、シアナをおぶって結んだままで左手でマスティの右手を取る。

離れない為と察して、マスティはすぐにセリアスと、セリアスはエリナと手をつないで一同は出来るだけ寄り集まる。


今更確認を取るでもなく、黒い力を展開して手をかざしたルシア。



直後、世界が『ズレ』た。



地面なのか空なのか、足場があるのかないのか、それもよくわからない空間。

人にしてみれば完全に意味不明だった。


「な、なんだこりゃぁ!?」

「いいから離れず手を離すなよ。」


魔法等の異能に一番縁がないエリナが騒ぐが、ルシアの言葉を無視したほうが危険なのはわかるのか、エリナが手の力を強める。


「いだだだだ!エリナさ…骨が、手の骨が潰れ…」

「あぁわりぃわりぃ。」


異常事態とは思えない空気に呆れて溜息を漏らすマスティ。



やがて、その奇妙な空間を抜けると、その場は変わり果てていた。

赤黒い色を基調とした岩に、紫や青まで混ざった植物、空は黒で覆われ、白い月が浮かんでいる。


「奇妙っちゃ奇妙だけど…地獄だの魔界だの言われてる割には普通だな。どっちかってーと変な画家の絵みたいだ。」

「そりゃそうさ、ようこそ魔界へ人間さん方。」


周囲を見渡して感想を述べたエリナに同調するように声がした。

誰もが構える中、地面がパカリと開いた。

地面を模した蓋。その下から梯子を上って顔を出した少年然とした顔立ちの者。

だが、当然こんな場所にいる以上、『人』の筈もない。


「下らない問答は後だ、フェイン。シアナに受肉したい、食料と安全な休憩場所を。対価は治ったシアナと俺からの採血。」

「それと君の力のデータかな。」

「シアナが本調子になるまで修行する、それはその時勝手にとってくれ。」

「了解。それじゃ人間さん方、下手に毒入りのもの食べたりしないうちにおいで。」


ひょいひょいと手招きしていなくなるフェインと呼ばれた少年。

ルシアがシアナをおぶったままであっさり飛び込む。


「ちょっと君ね!梯子あるんだから」

「急いでいるんだ。」

「そりゃ見ればわかるけどさぁ!ったく…こっちだよ。」


勝手知ったると言った様子で消えたルシアに置いてけぼりを食らった三人は、戸惑いながらも後に続くほかなかった。






内部は、『図書館』と言うべき様相だった。

本本本。

見渡す限り本。飾りは地図と図面程度。


「勉強家…って、ますます悪魔のイメージが変わるわね。」

「全くですね、コレ全部まともに読んでいたらいつまでかかるか…」

「ふふん、まぁ君たちは短命の人間だからね、それも仕方なしかな。」


辺りを見回していたマスティとセリアス、見回すのすら嫌になったように壁にもたれて目を閉じていたエリナ。

そんな三人の元に、本だらけの部屋の端の扉を開いてフェインが姿を見せた。


「とりあえず自己紹介と行こうかな、僕は知の悪魔…『識る者』フェイン。君たちの自己紹介は結構だから、そこでゆっくりお話と行こうじゃないか。」


言いつつフェインは部屋の隅にあるテーブルを指す。

ルシアが姿を見せないままだが、それも含めて『聞く事』になる。


三人は頷いてテーブルについた。


「ありゃ、僕の隣は男なんだ。どーせなら君の爆乳ちょっと弄って見たかったけど。」

「堂々としたものですね、まぁそれは大変同感ですが。」

「アンタら焼き殺すわよ…」

「あはは、ここで炎は本当に勘弁して欲しいな。それに、悪魔がどういう感じかわかりやすいでしょ?」


最低な意気投合を見せるフェインとセリアスを前に掌に火球を作るマスティ。

慌てて謝罪態勢になったフェインに鼻息一つ慣らして、マスティは火球を握りつぶすように消した。


「悪魔が分かりやすいって…つまり、悪魔は変態って事かい?」

「『欲求に素直』なのさ。それで僕は知の悪魔。背徳感とか倫理って奴?はあんまりないけど、血の雨が常に降って人を喰ったり殺したりが日常って程狂っちゃいない…どう?分かりやすかっただろう?」


エリナの白い目に対してもまるで動じず掌を背後に聳え立つ本棚の群れに向けてかざすフェイン。

知の悪魔等と自称する通り、ただ知識があるようにしか見えないこの場に、悪魔と呼ばれるものに抱いていた禍々しさはなかった。


「天使の方は僕たちの反対、秩序や祈りの塊で、本来の役割は死者の魂の浄化、輪廻への還元。つまり天使に身体なんてないんだよね。飲食が害とか聞いてたと思うけど、正確には食事なんて『奪う行為』なんてしたら天に帰れず『堕ちる』訳だ。」


窃盗、姦淫、人殺し。

おおよそ人の世で言われる罪の類いは、天使達には成立しないと思われるものばかり。


『罪を犯し、天に帰れない天使の罪人』等と人々が笑い、見捨ててきた堕天使。

飼われたり、最悪魔法神術の類いの実験台にされている堕天使。

当たり前と言って、その実その罪の詳細を、誰一人知らなかった。


それがまさか、『飲食をしたら』等と誰が思うだろう。


「それで今気になる堕天使シアナの体調についてだけど、四翼の天使の強めの力を利用して、飲まず食わずでずっと地上活動してた訳だね。独断活動で呼吸してればどのみち天に帰れなくはなるけど、一気に黒に染まる事はないからって粘りすぎて、肉も水もないまま力もなくなりかけだった…って、ま、そういう訳さ。」


あっけらかんと語るフェイン。

だが、その言葉を聞いた一行にはとても同じような空気になどなれる筈がなかった。


「『高い所から救世主を気取ってる偉そうな清らか様』なーんて…思ってた人もいたりするのかなぁ?」

「っ…」


フェインのわざとらしい言葉に肩を震わせたのは、俯いているマスティだった。


実際、さっさと帰ればいいのに無関係の身でやってきて、他人様の事に上から目線で喋るだけの存在だと思っていたマスティ。


それがまさか、降りた時点で不退転…既に帰れない事がほぼ確定していて、堕天することを分かった上で天使のうちにと補給…飲食の類を一切せずに、灯のような力を使って賊すら助けて…


その果てが、人間による裁きの拷問。

シアナが何をしに、何を捨てて来た結果か、それを考えると、いたたまれないでは済まないものがマスティの心中を焦がす。


「別に気にしなくてもいいんじゃない?間違えてるのは彼女だけなんだ。」

「間違え?」

「死ねばいいと自分たちで殺しあってるのは人間、普通の天使は天界で仕事中、僕ら悪魔は知ったこっちゃなく傍観中。自分達で死を願ってる人間を、助けに来るなんて間違いをしてるんだ、彼女の不幸も当然だろう。」

「…道理だけなら納得できますが、それに頷くと人間が死ぬ事も当然になるので私としては頷き難いですね。」


フェインの言葉は、人間、天使、悪魔に三分した場合の正解。

『人間皆助かって』が間違いなら、『適当に死に散らしておけ』が正しい。

シアナの言を否定することはすなわちそう言う事になる。

人間の一同は、自分とその周囲だけが特別であってほしいと願い、シアナにとってそれは…



「気にするな、俺のせいだ。」



セリアスですら渋い表情で、マスティに至っては顔を上げる事が出来ないほどに力をなくした様相の所に、ルシアが姿を見せた。


「やぁルシア。彼女のお尻弄るのは楽しかったかい?」

「妙な言い方をするんじゃない。」


フェインの弄りを否定はしないルシア。

嘘はつかない事を常としているルシアが否定しなかった為、何をしていたのかとルシアに視線が集まる。


「水と血肉に変わるものが足りてないと言う話は聞いたか?衰弱しきったシアナを起こして大量に食わせる訳に行かないから固めた食料を下から押し込んだだけだ。」

「病人用固形栄養剤は僕が作ったものなんだから僕がやっても良かったのに、ルシアがどーしてもって言うから」

「実験狂の知らない悪魔の男にそんな事をさせたなどとシアナに言えるか。…それだけが理由なのにこんな言いたい放題の性悪だと言う事も含めてな。」


性悪と言い切られたフェインは、それで楽しそうにくすくすと笑い、席を立つ。


「さて…と、真面目君をからかうのはこの辺にしておこうか。天使、堕天使については話しておいたから、後は君自身の話だろう?僕は君たちの食料を調達してくるよ。君たちじゃ食べても大丈夫なものの判別できないだろうしね。」


ひらひらと手を振ってこの場を去ったフェインは、一人梯子を上って外に出る。

空いた席に変わるように座ったルシアは、対面にいるマスティに向かって深く頭を下げる。


「え?ル、ルシア様?」

「済まなかった。お前の願う姿と違うシアナを追い続けて、ロクな話もせずに。」

「そ、そんなの私が勝手について来たんですから!」

「だが…それでも謝らなければいけないんだ。俺は、お前の望む姿が想像できていながら、真実全く関係のない俺を追わせ続けていたんだからな。」


ルシアの言葉の意味が分からず戸惑うマスティ。

だが、マスティは小さく首を横に振ると、ルシアを見る。


「良ければ、ルシア様の話を聞かせて下さい。きっと…謝る事なんてないと思いますけど、胸を張って言うにも、出来るなら貴方を知りたいです。」

「俺が自分の事を語るなんて皮肉な話だが…少し付き合ってくれ。」


マスティは勿論、エリナもセリアスもうなずいたのを確認した上で、ルシアも小さく頭を下げる。


「俺は昔…孤児院にいた。」


そして、ゆっくりと口を開き、シアナに付き従い今尚力になろうとする訳を…自らの過去を語り出した。



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