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空色の双翼  作者: 黒影翼
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第10話・傷だらけの逃亡




第10話・傷だらけの逃亡



一人たたずむ…そのはずだったザーヴァ。

だが、すぐさまそれが間違いだと知ることになる。

ザーヴァが手先を光らせると、何処からともなく鳥が飛来した。


鳥は、足や腹の一部が腐り解けていた。


「っ…なんだこいつら!!」


飛来する腐った鳥を片手間に振るった斧で両断するエリナ。

ルシアも両手に作り出した黒弾を交互に打ち出し、数羽の鳥を落とす。


「魔物を制御できるのか…」

「グランナイツ…彼らは正々堂々と最強の位置に立つ者達でして。私はまぁ裏方として所謂卑怯な手を使いまくるのが仕事でしてね。」


暗に『対を為す同域の存在』であるかのように語ったザーヴァは、指先一つ慣らす。

と、山にあるわずかな道を、ぞろぞろと歩いてくる人の形をしたものの群れがあった。


「ゾンビもか…ん、この服装…」


死体が魔力を帯びるなどで発生するゾンビ。

ザーヴァが自力で作っているとして、その素材は、こんな人気のない山で決まっていた。



グランナイツに殺された、エセリアナの一員…エリナの仲間のなれの果て。




「て、てめえぇぇぇっ!!!」




叫んだエリナは、危険な足場であることも無視して斜面を駆けだす。

だが、ザーヴァに放たれた雷撃がエリナの眼前に落ちて、エリナは足を止めた。


「いいからそこでかつての部下を撫で斬りにしてなさい。」

「く…っそぉ…」

「エリナ…別の出口からアイツらをエルティアに連れていけ。アイツは俺が引き受ける。」


ザーヴァを見上げて歯噛みするエリナの傍に寄ったルシアがいきなりだした命令。

当然賊のそれも首領であるエリナが他人の命令じみた言葉などいきなり聞くはずもなくルシアを睨む。


「あの野郎はあたしが」

「怪我をした仲間とあの男とどっちが大事だ、ましてあっちには俺とお前がいなければ指揮役も戦力もない。どのみち向こうに跳べるのは俺だけだしな。」

「ぐ…」


徐々に迫ってくるゾンビを見ながら顔を歪めるエリナ。

その傍らにいるルシア。

二人を崖を超えた先の斜面から眺めているザーヴァは、盛大に笑う。


「ははは!そんな位置からどうやって」

「知れた事…はああぁぁっ!!!」


跳躍と共に全身から黒い力を吹き出すルシア。

全身故に薄く揺らめく程度だが、常人以上でもあり得ない跳躍でザーヴァの側の山脈にとりついた。


「っち…くそっ!任せたぞ!!」


同じことが出来ないと悟ってかエリナは洞窟の出入り口付近に来ていたシアナ達と合流する為に引き返した。


「ふむ…破壊の悪魔が持つ『黒の力』…素晴らしい研究材料ですね。」

「貴様…」


ルシアの力を目の当たりにして尚微笑んで岩山を背に立つザーヴァが指を鳴らすと、その傍らから、人影が現れた。


黒い翼の、遺体。


「堕天使を材料にしました、魔法も人間より使えるのでまぁ頑張って下さい。」

「お前は…っ!」

「あぁ、頑張ったら豹変するんでしたっけ?あはははは!」


ルシアが噛み締めた歯を鳴らすのをまるで合図にするかのように、堕天使はその手を振り上げた。













向かってきたゾンビを斧でなで斬りにしたエリナは、ぐらついて何とか踏みとどまる。


「くそっ…平地なら何でもないってのに…」


普段は殿や遠征の突撃役を担っていたエリナ。

遠心力を伴う大型武器と言う事も相まって、他の団員と違って道無き山での戦いは不慣れだった。

それでも怪我人や遠距離武装主体のシアナ達と違って近接武器を持っているエリナは先陣を切り開くしかなかった。


一方、怪我人の列の中ほどに位置しながら魔法で近づいてきた敵の姿勢を崩す事で山から落として片付け続けていたマスティ。

ふと、光に誘われるように後方に視線を移すと弓で襲来する鳥の魔物を射落としているシアナの姿が映った。


「ふらついてた癖に何やってんのよ!あんたは守られときなさい!」

「っ…ですが、彼らを死なせる訳にはっ…」


どこか頼りない足取りのまま光の矢を放つシアナ。口は酷いが休むよう促しているマスティ。

それらを見て、エリナが軽く笑みを浮かべる。


(吹けば飛ぶようなお花畑思考の癖に、根性だけはあるじゃないか、あの天使様。)


現実と称する部分を受け入れられていないまま、這ってでも進もうとするようなシアナに、役人や貴族は馬鹿にしそうだと思いながら好感を抱くエリナ。


他人様がエセリアナの怪我人の護送に全力を尽くしているとあれば情けない事は言っていられない。

決意新たに駆けだしたエリナは、近場の邪魔な木や飛び出した岩などを斧の一撃や力任せにどけ落としながらひたすらに進む。


申し訳程度にかかったボロボロの橋を先行するエリナ。

次いでマスティが抜け、橋の先から魔法で鳥を落としつつ怪我人の列が橋を渡るのを見送る。


「っち…鳥ならそりゃ何羽でもいるでしょうけど、村破壊した時から準備してたとなると陰湿な奴ね本当に!」


消耗から連射を渋るマスティだが、鳥の魔物は相も変わらず襲撃を続けている。

逃げ切れば全部落とす必要はないと橋の対岸を見ると…


膝をついたシアナを抱えるようにしてフォルトが寄り添っていた。


「あの馬鹿…」


二人が渡れば終わりの現状だが、明らかに憔悴しきっているシアナの足取りはもはや足に怪我を負った者と大差ないほどになっていた。


一瞬。

マスティが空ではなくシアナに目を向けている一瞬。



その間に、一羽の鳥が上空から橋を渡る二人目掛けて突っ込んでいた。




「シアナさん!!」



フォルトが、シアナを庇って剣を振るう。

片翼を切り落とした反面、肩に嘴が突き刺さったフォルトは…



そのまま、ボロボロの橋の縄の隙間から落ちていった。




「ぁ…フォルト…さ…」


自身を庇って谷底に落ちていったフォルト。

シアナはまともに意識も保てていない身でその先を呆然と見下ろす。


「フォルト…くそっ!」


再び迫る屍鳥を凍らせて落としたマスティがシアナに近づき、橋の中央でふらついているシアナの襟をつかんで橋を引き返す。


「ぁの…マスティさ」


橋を渡り切るなり、何か言おうとしているシアナの言葉を断ち切るように、平手打ちの乾いた音が響いた。


「アンタがくたばったらアイツ無駄死にじゃない!いいから動けこのクズ!!」

「っ、は…ぃ…」


マスティの叫びに反応してか、動き出そうとはするシアナ。

様子のおかしさに引き返してきたセリアスが、二人といないフォルトを見て大体を察する。


「私が肩を貸します。」


足取りのおぼつかないシアナに肩を貸して歩き出すセリアス。

尚も飛来する鳥を見上げ舌打ちしたマスティは短剣を抜く。

完全に魔力が尽きたわけではないが、先にままならなくなったシアナを目の当たりにして緊急に備える事にしたのだ。

飛来する鳥から目を離さず、逆手に握った短剣を振るうマスティ。

直撃とはいかなかったが翼を捕らえた刃が鳥を飛べなくして墜落させる。


「使い方こそグラムバルドの連中じゃ話にならないけど…力がなきゃどうしようもないってのに…」


岩場に落ちた鳥をフォルトと同じ山の下方に蹴落として、マスティは振り切るように視線を崖から外した。







「私の研究成果である屍天使相手にこの地形で飛べもしないのに凌ぐのは素晴らしいですが…いつまで続きますかな?」


ザーヴァと魔物に堕とされた堕天使…屍天使が高所から連続で魔法を放ってくる中、ルシアは黒い拳でそれらを描き消すので手いっぱいだった。


折を見て単発で黒弾を打ち返すも、ザーヴァも迎撃の一撃で黒弾を掻き消し、ふわふわひらひらと舞う屍天使はあっさりと直撃コースを外す。


(くっ…全力で…だが、今そんな事をすれば…)


狂ってから一日も経たずの交戦で再び、それも珍しく怒りに満ちている時にそんな事をすればあっさりとタガが外れる。

それが分かっているルシアは必要以上に力を抑えて戦っていて、ザーヴァもそれが分かっているから嫌らしい笑みを深め…



ルシアは空に、人影を見た。



「はっ!!!」



影は声と共に剣を屍天使に突き刺した。


「は?」

「な…」


ザーヴァとルシアがその異常事態に目をやる。


落下を始めた屍天使の背に、剣を突き刺したカークの姿があった。



「ルシア!」


剣を引き抜きながら屍天使を踏み台のように跳躍して近くの岩場に衝突するカーク。


「はっ!!」


落下しながら体勢を整えようとしている屍天使に黒弾をぶつけるルシア。

翼が折れ、岩場に叩きつけられた屍天使は、そのまま山の下方へ落ちていく。


残るはザーヴァ一人。

ルシアが油断なく見据えると、カークが傍らに歩いてきた。


「おやおや…貴方はヴァルナート子飼いの騎士ではありませんか。まさか裏切りとは」

「馬鹿か、村を破壊したのは貴様の仕業だろう、その後始末だ。何もかも許されるなどと思うなよ…」


剣を構えるカーク。

当然直接武器が届く距離などではないが、ルシアの黒弾と剣の投擲両方を捌く事になる。

屍天使がいて安全を確保していたようなものであるザーヴァは、肩を竦めて首を横に振ると立ち上がり…



「さすがに術者一人で貴方方纏めて相手にする気にはなりませんので、これで失礼しますね。」



跳んだ。

一気にその体がルシア達の手の届かない山中下方へと吸い込まれるように消えていく。

と、唐突にその軌跡が変わった。

落ちてはいるようだが、緩やかに遠くに移動するような軌跡に。


「何…」

「滑空は出来るのか…元から逃亡も計算に入れていたようだな…」


並んで、もはや追えないその姿を見送ったカークとルシアは、やがて互いに向かい合い…


「さて…いくぞルシア。」


息をするように当たり前に、カークはルシアに剣を構えた。


「お前は…」

「アレはお前を追ったついでだ、本来の目的を放り出すわけが無いだろう。」


迷いなく躊躇いなく告げるカーク。

『ついで』で、この普通に登るものすら死に追いやる高峰の上空から空を飛ぶ敵に目掛けて飛び乗る…外したら必死確定の選択をあっさりやったという事実。

あまりの荒唐無稽に…そして、死なない限りずっとこのままだろうと察し、頭を抑えるルシア。


「…分かった、そこでやるぞ。」


さすがに平地と呼べるだけの場所もないが、出来るだけ開けたスペースがある場所を探して指さすルシアに、剣を収めたカークは頷いた。


(奇襲の一つも仕掛ければいいものをこいつは本当に…)


さっきまで歪みばかりのザーヴァに苛立っていたはずなのに、歪みとは程遠いカークの姿も褒められず、ルシアはひたすらに疲れた気分のまま歩を進めた。







「はぁっ!!!」

「っ…」


場について構えたのも束の間、掛け声も何もなしに駆けだしたカークが剣を振るう。

一息での三撃。

黒い拳でならあっさり受けられるが、両手で受けるのがやっとの速さにルシアは目を細める。


(容易に掴める『速さ』を超えたか…)


元から一本の剣の速さに両手で応じているルシア。カークの剣が速いとは認識していた。

だが、断ち切る事すら捨てたのか完全な脱力による柔らかさと速度に徹底した切り返しは止める事すら容易では無かった。


後退したルシアは、両手から黒弾を連続で放つ。


「いつまでもこんなもの!!」


左右からの二発だったにもかかわらず、あっさりと切り返しの連撃で黒弾を断ち切るカーク。

だが、そこまではルシアも予定通りだった。

脱力から、一息での連撃。

振り切れば、一拍置かなければ連撃を連発する事はできない。


通常の斬撃に対して片手を添えながら、もう片手で打撃を放り込んで終了させるつもりだったルシア。

だが、剣の間合いを過ぎてもカークは動かず、仕方なしに振るった左拳の一閃が、カークの腹部を…


掠めて通り過ぎた。


「何…」


回避に全力を注いだ。

ただそれだけなら、崩れた所に黒弾なり打撃なりで追撃にも入れたはずのルシアだが、見誤れば直撃するほどのギリギリで回避したカークは…


「一閃!!!」


逆に拳を振り切ったルシア目掛けて剣を振り下ろした。


「っ!!」


咄嗟に、ルシアは拳を振るった勢いのまま駆けた。

左肩からなりふり構わない形で突っ込んだルシアによってそのまま岩壁まで押されるカーク。

振るえなかった剣を手にしたまま岩壁に押し付けられたカーク。

その超至近距離のまま、腰の回転で勢いをつけたルシアは、右拳をカークの腹部に叩き込んだ。


「ぐ…ふっ…」


岩壁を背に全く衝撃を逃がせない状態で下手をすると死にかねない強打を腹部に受けて崩れ落ちるカーク。

離れたルシアは、結局無傷の自身と死んでいないのが不思議なカークを比べて、肩を落とす。


「だから…俺はお前たちとは違うんだ…」

「黙れ…っ…お前と言い、プレフィアと言いっ!!」


去ろうとしたルシアの背にカークの声が届く。

声に振り替えると、カークは剣を岩の床に突き立てて立ち上がっていた。



「天使に付きまとって答えを欲しているお前が…俺に何が無茶苦茶だと言えるんだ!」



死に体の筈の身体、しかし生きた瞳のままに、カークは駆けた。

そして、ダッシュの勢いそのままにただ剣を振り下ろす。

突進の勢いを乗せた渾身の袈裟斬り。

だが、まるわかりのそれを黒い左手で受けたルシアはそのまま踏み込んでカークの顎を右の掌底で跳ね上げた。

足が岩から離れるほどの一撃を受けて倒れたカークを見下ろしながら、ルシアは左の掌を見る。


「悪魔だから俺は…シアナに答えを貰うしかないんだ…」


小さな痛みを握りつぶすように掌を握りしめたルシアは倒れたカークに踵を返し…

再び振り返ってカークを見る。


高峰の、人によっては高山病を起こしそうな高さの現在地。

気絶するレベルの強打二発を受けて倒れて動かないカーク。

荷物の類は見当たらない。食料含めて。


「くそっ、こいつは毎回毎回……」


シアナが気がかりではあったが、同時にそのシアナとの約束で安易な理由で死者を出せないルシア。

カークを適当に担いだルシアは、そのままランヴァール側においてくる為に駆けだした。








山脈の麓にあるエルティアのゲート村。

人ならぬ山脈の山頂では天使と言葉を交わす事ができる聖地と呼ばれていて、聖地巡礼の準備を可能とする門の役割をする為、ゲートと名付けられ、登山準備が出来るような乾物や宿などが完備されていた。

減って十数人とは言え、まともに部屋として借り受ける設備はなかったが、大衆用の集会所を借り、怪我人を寝させることはできた。


「ふいー…ならず者の集まりとは言え、一応国とかから依頼は受けてたんだ。グランナイツとの交戦関係の話も必要だし、後は騎士待ちかな。」


同じ集会所で寝る事になったエリナは乱雑に足を投げ出して座ると、所内を見回してセリアスがいないことに気づく。


「あん?あのセリアスとかいう弓持ちどこ行ったんだ?」

「やる事があるとかでしばらく離れるらしいわ。」


エリナの適当な問いに傍の壁にもたれて座っているマスティが応える。

隣に視線を移すと、同じ壁にもたれて目を閉じて微動だにしないシアナ。

顔色こそ悪くないが、今にも消えそうなほどその存在に力を感じない為、調子が悪い事はよく知らないエリナですら分かった。


「シアナも寝てっから…後はお前か。」

「何よ?詰問ならお断りよ。」

「ただの世間話だよ、なんでも喋れなんて言わねぇって。」


雑なエリナの様子に策謀めいたものが感じられず、渋い顔をしていたマスティも息を吐いて力を抜く。

その様子を承諾と見たエリナは、片手でシアナを指さした。


「実際のところ、どう思ってソイツについてってんだ?」

「どうって…私はルシア様についているだけだし…」

「じゃあ戦争終わらせられると思ってるかどうか。」

「グラムバルドを潰すなら出来るんじゃない?話して止まるとは思えないけどね…」


対話で戦争を終わらせようとしているシアナ。

状況他そんなことは不可能事間違いないが、手段を選ばずなら話が変わる。

でも、その手段も結局天使シアナは取らないだろう。


「んじゃついて回ってたら無駄死にじゃねぇか。」


だが、出来ないと思いながら危険に首を突っ込み続けるのはそういう事になる。

無意味に危険など、命あるものの選択肢としては異常もいい所だ。


「私はルシア様についていくだけよ、今更行く場所もないし…」

「あん?アンタほどの魔法使いなら引く手数多だろうに。」


マスティにとっては結局のところルシアについていくの一言に尽きた。

だが、行く場所がないという言葉には引っかかるエリナ。

それも当然で、その辺の正規兵や騎士相手なら立ち回れる程度の魔法は扱えるマスティが行く当てがない実力な筈がない。


「その引く手数多の戦争屋どもの中に天使様に付き合って人助けしてるルシア様みたいな場所はいくつあるってのよ。」


だが、その数多をマスティは一蹴した。

ルシアと違い、そんな連中には力を貸したくないと。


「へぇ?アンタ、シアナ嫌ってるんじゃないのかい?」


ルシアが天使様に力を貸している所は拒む選択じゃないという意味にもなるのではとつつくように問いかけるエリナ。

マスティは隣で目を閉じて動かないシアナに視線を移し…


「…叶うなら、叶った方が良いわよ。叶わないって分かり切ってるから…」


誰にでもなく、悲し気にそう呟いた。

散々言ってきたマスティですら、今はシアナの願いを汚いと憎んでいる訳ではなかった。

ただ、叶わぬ願いに歩を進めている様が…


「ははっ、可愛い奴。」

「っ!どういう意味よ!」


怒るマスティを前にしてもへらへらと笑っているエリナ。

息まいても無駄だと思ったマスティは顔をそらして目を閉じた。


(シアナ本人にも好きに思った事をして欲しいんだろうな、人の為に命運全て投げ売り続けるんじゃなくて。)


マスティがシアナに怒り続ける理由の中に混ざってはいるだろう気持ちを感じて、素直になれない子供っぽさを微笑ましく思って笑ったエリナ。

話せばわかる…感じる事もある。得体のしれない旅の一行であるマスティの事を感じられて満足したエリナは、隣で微動だにしないシアナに視線を向ける。


「しっかし…金持ちに飼われてる堕天使も天使なんだよな…」

「ん?当たり前でしょ?堕ちた天使なんだから。」

「いや、あたしらも根無し草の集まりだからさ、ガラの悪さがあったって人間は人間だって分かってんだが…」


元より一般の職に就けないあぶれもので構成されていたエセリアナの首領だったエリナは、罪人だろうと良し悪しの傾向程度ならずれても同じものであることを身を以て知っている。




「堕天使も天使で『変わらない』なら、アイツら人を救おうとか思ってないよな。シアナは何で戦争を止めようとしてるんだ?」

「…え?」




そんなエリナ故の『堕ちた天使』とシアナの違いへの疑問は、ただ何気ないもので…


そんな事の答えを持たないままで救済気取りの天使様への怒りを投げ続けていた事を自覚したマスティは、呼吸もできずにシアナを見た。


「いい加減無理も分かりそうなものだってのに、何で帰らないのかね。」

「そう…ね…」


背中を走る嫌な感覚。

マスティは天使シアナと言うものの前提としていた部分から覆りかねないそれを否定するように目を閉じた。






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