出発は朝、コッソリと
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「これでよし、と」
食料、飲み水、薬箱──ポーチの中身を確認し終えたユイは、魔法使いの母から譲り受けた三角帽子とマントを身につけ、家を出た。
朝。
村のみんなが午前の仕事に勤しんでいる時間帯。
門番に一声かけてから、村の外に出る。
目指すは近所の森。
そこに最近、それはもう大きなドラゴンが棲みついたらしい。
ユイの目的は、そのドラゴンを倒して契約し、自身の従僕とすることだ。
坂をしばらく登って、振り返った。
山に囲まれた故郷が見える。故郷は盆地の中に作られていた。まるっきり自然の要塞だ。
時折ドラゴンの鳴き声が響いてくるのは、自分とその故郷に住む人々が、古来よりドラゴンと共に生きる人種、竜人族だからだ。
ドラゴンは家畜や番兵として村に利益をもたらしてくれる。代わりに竜人族は彼らの生活を保証する。
人と竜は、そうやって共生関係を築いている。
ゆえにドラゴンとの魔法的な契約は竜人族にとって一人前の証だ。
そして、ユイはまだ契約したことがない。
「ふふ……くっくっく……!」
そんな半人前が巷を騒がせているドラゴンを突然従えて戻ってきたら──周りはどんな反応をするだろう。きっとものすごく驚いたあと、ものすごく褒めてくれるに違いない。
「あーっはっはっは!」
想像しただけで笑いが止まらなかった。笑いすぎて「はっは──げぇほ、おぇ……こほっ、うう゛ん」ちょっとむせた。
むせたついでに、そういえば、と思い出す。
森の中には『転生の神殿』があったはずだ。そこにいる女神に祈りを捧げれば望み通りの転生者が現れるというが……ステキな恋人とかももらえちゃったりするのだろうか?
「……ま、いいか! 今はドラゴン探しですね! 待っててくださいよー、まだ見ぬ私の契約竜ちゃん!」
意気揚々と、声高らかに。
ユイリール・ドラグナーは、森へと入っていった。