思い出
私、リッカは、ロッキングチェアに揺られながら、以前の事を思い出していた。
この大陸がヤマガタ王国によって統一され、ザコッキー王が大陸の王となってから、早いものでもう50年になる。今日は、その記念式典が行われた日だった。
あれから皆、年を取った。
サイタマ帝国が降伏したあと、元帝王のケンイチは、その能力が害虫駆除に非常に有益である事が分かったため、その後、大陸中の害虫を奴隷となって駆除した。もちろん、ディオス特製の、強化された隷属の首輪付きで。
最近死んだと聞いている。
ザコッキーは、真面目に王としての仕事に取り組んだ。
周りの人間の話をよく聞き、相談し、決断した。常に謙虚な姿勢を忘れなかった。
人を引っ張っていくカリスマ性などは無かったが、民からは、「耳の王」と呼ばれ、平民にも気さくに接するその性格が、皆から慕われた。
私と、ディオス、そしてユータローは、国を支える臣になった。
ディオスは宰相、私は将軍、そしてユータローは、農政を担当した。
ユータローのおかげで、多くの街や村の農業が復活した。食料が足りない地域には、ユータローのチョコが送られたため、大陸で飢え死にする人はほとんどいなくなった。
孤児や、一人暮らしの老人にも、チョコが送られるようになり、ユータローはよく自ら孤児院を訪問し、子供にチョコを手渡して笑っていたのを覚えている。
ユータローの魔法は、本来、戦うためのものではない。戦いにも使えるが、本当は、飢える人、寂しい人を慰めるための魔法であると、私は常々思っており、そしてそれを正しく使うユータローは、素晴らしい男であったと、私は思う。
私とユータローは……結局どうなったのか、私から話すのは野暮であろうと思う。
メイファは……あれから、その、色々あり……結局ディオスと一緒になった。本人の強い希望により、専業主婦となったが、ディオスやユータローの要請で、度々日照りの地域に赴き、水を出してあげていたと記憶している。彼女も素晴らしい働きをした。
「あたし、もうあの人とじゃないと駄目なの」等とメイファは時々私に話していた。
メイファは、ディオスと結ばれたあとも、何故か度々お仕置きを受けていた。ゴーレムを使ったプレイ……等と言っていたが、私はそのようなもの知らないし、詳しく知りたいとも思わない。
あの二人の様子も、人とは違うかもしれないが、一つの愛の形なのであろうと理解している。
私達は、4人とも10年ほど前に引退した。そのうち私、ディオス、メイファの3人は今でも健在であるが、ユータローは、7年前に惜しまれつつ亡くなった。
最後の際には、私も駆けつけた。
ユータローの最後の言葉は、「我が……生涯に……いっぺんの……」であった。その後も何か言葉を続けたかったようであったが、言うことはできずそのまま意識を失い、帰らぬ人となった。
最後に彼は、何を私達に伝えたかったのであろうか。それは分からない。きっと大事な事だったに違いない。
私も、だんだん年を取ってきた。引退してからは、特に体の衰えを感じる。しかし、これは悲しい事ではない。自然な事なのだから。
最近、夢にバッツがよく出てくるようになった。夢の中の彼は、ずっと若々しい、ちょっと悪そうな、あの時のままだ。
ずっと若いなんて、ずるいと思う。私はこんなにお婆ちゃんになってしまったのに。
あの世に行った時、ちゃんとお婆ちゃんの私に気付いてくれるだろうか。
そんな事を思いながら、私は静かに目を閉じた。
よく分からないけど、私が私の体から抜け出るような奇妙な感覚がした。宙にふわりと浮いているような気がする。
そのまま私は、ふわふわと空高く飛んでいった。行った先には、きっとバッツが待っていてくれる、何故か私はそう感じていた。
次でおしまいです 夜に投稿予定




