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隙も見せずに勝つ

 あたり一面がチョコだらけのこの状況の中、よく見ると、前の方に空に浮く二匹の何かが見える。


 ドラゴンだ。色は……赤と銀色のやつだ。この状況でも、生き残っているようだ。


「……二匹、残っていますね。この位の熱では倒せない相手なのでしょうな。宙に浮いてるので、チョコの津波も届いていませんしね」


 ディオスも、二匹残っているのは気付いているようだ。


「銀色の方の背に、どうやらあの男が乗っている」


 リッカがそう言うのでよーく見てみると、銀色のドラゴンの方には、人が数人居るようだ。


「あのドラゴンは、冷気を操ります。高熱のチョコ雨を、あのドラゴンの魔法で防いだんだと思います!」


 メイファの情報で、もうこれ以上チョコの雨を降らせても無駄だと分かったので、取り敢えず、今出したチョコを回収する。このままにしてると、この辺りがチョコだらけになって不毛の地になってしまう。


「なるほど、分かった。それならチョコを回収しよう」


 俺が手をかざすと、目の前に広がるチョコがどんどん小さくなっていき、最後には一つの大きな塊に戻って、俺の手の前で消えた。これで、全部とは行かないけど、まあ半分くらいは魔力を回復させることも出来た。


 チョコを消したので、残るは大量の焦げた死体だ。さっき見てた大きなスライム、ご飯のおこげみたいになってる。動かないので、もう死んでるんだろうな。


 銀色のドラゴンは、何やら結界みたいなものを張って身を守っているようだ。赤い方は、何もしないでそのまま飛んでいる。熱に強いみたいだ。


 黒いドラゴンもいたと思うが……と近くを見てみると、地面に横たわって死んでた。あいつは熱に耐えられなかったみたいだな。


 周りにうじゃうじゃいた、あの虫たちは全滅している様子だ。さっき、ものすごくでかいハチの化物みたいな奴がいたが、かなり弱っていたみたいで、メイファが、「うわっキモい」とか言いながら、特大の氷の塊をぶつけて殺していた。


 前方にいる二匹のドラゴン、そして銀色のドラゴンの方に乗っている数人。


 どうやら、生き残りはあいつらだけになった様だな。


「クックックッ……さあ、仕上げです。行きましょう」


 ディオスはそう言うと、ゴーレムハイツを動かし、近づいていった。


 遠くにいた敵達も、こちらが近づいていくと、だんだん様子がよく分かるようになってくる。


 銀色のドラゴンは何ともないようだが、赤いドラゴンの方は……無傷ではないな。火傷を負っている。


 ただ、傷がもう回復し始めているな。さすがはドラゴンだ。


「あの二匹……まだやる気だ。ユータロー、ディオス、ブレスに警戒を」


「了解ですよ」


「うん、分かってる」


 3人でこんなやり取りをしてる間に……銀色のドラゴンが、防御を解いた。攻撃体制に移るつもりだ。


 二匹のドラゴンが、同時に動いた。


 赤い方は、巨大な火の玉のブレス。


 銀色の方は、極太レーザーみたいな、氷の波動っぽいブレスを吐き出してきた。


 よっし! チョコの盾でブレスも防いでやるぜ! 充分な量のチョコなら、ブレスも防げるのは実験済みだ! と思った瞬間。


 ディオスが叫んで、何かボタンを押した。


「ディオス砲、発射あぁぁ!」


 すると、ゴーレムハイツから、何やら波動砲みたいななんか凄いのが出て、二匹の吐いたブレスとぶつかり、ドゴオ!! と大きな音を立てて消え去った。


 え、何? 今の。


 ディオス砲って何?


「ディオス……さっきのは一体?」


 いつもの如く、俺の疑問を代弁してくれるリッカ。そんなリッカにディオスは得意満面の笑みで答える。


「こんな事にも対応可能なように、このゴーレムハイツに備え付けてあった武装ですよ! あくまでも、もしもの時のための物でしたが、役に立ちました!」


「こんな凄い攻撃が出来たんなら、さっき虫がたくさんいた時、これで早めに攻撃すれば良かったのでは……?」


 メイファが、恐る恐る突っ込む。


「何を言ってるのですか! そんな事をしたら面白くも何とも……」


 ディオスの言葉はとりあえず置いておいて、俺は前方にいる敵を見た。敵は今、攻撃を防がれて少し意外そうにしている。うん、すかさず攻撃をしてしまおう。


 俺は両手を二匹のドラゴンに向けて突き出した。そして出て来たのは、敵の2倍以上にもなろうかという、巨大なチョコのドラゴン。


 なぜドラゴンの形にしたのか? それはカッコいいからである。他には特に理由はない。


 さて、その二匹のチョコドラゴンは、それぞれ相手に向かっていった。逃げる隙? そんなものは与えません。


 チョコドラゴンは、赤いドラゴンと銀色のドラゴンにぶち当たり、赤い方は、悲鳴を上げてのたうち回る。体全部に熱々チョコがまとわりつき、火傷を負い始める赤ドラゴン。熱々チョコはドラゴンの口の中にも入っていく。


「あー、ありゃあ、内蔵までやっちまってるでゲスね、ケケッ」


 アドンの言うとおり、赤いドラゴンの方はもう助からないだろう。


 さて、銀色のドラゴンは流石というか、素早く、さっきみたいな氷の結界を作り、防御したようだ。


 丸い結界にまとわりつくように、俺のチョコがくっついている。熱で結界表面はシュゥー……とか言ってるが、崩れはしない。うん、見事だ。中の人もまだ無事だな。


 あのドラゴン、かなり強い。恐らくは、ドラゴンの中でも更に別格なんだろうな。


 しかし、その程度の結界では……俺の魔法は防げないよ。


 俺は、結界に対し、熱で攻撃すると共に、圧力をかけ始めた。俺のチョコは、ヘビみたいな形になり、結界を押し潰そうと、じわじわと力をかけて締め上げ始める。


 ビキ……ビキ……と、嫌な音が出始めた。銀色のドラゴンも頑張ってるんだろうけど、もう結界が破れるのは時間の問題だ。


 そして、結界の氷にヒビが入り始めた頃、中から叫び声が聞こえた。


「うわああっ! 分かった! 予の負けだ! 降参だ! サイタマ帝国はお前達に降伏する!」


 皇帝ケンイチの声であった。

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