やってやった
数分後、戦いはまだ始まったばかりだが、俺達の気は変わり始めていた。
ゴーレム15体では、彼等はやられはしないものの、戦線等を維持する事はできない。敵はゴーレム君達を超えて、俺達の居るゴーレムハイツを取り囲み始めていた。
「包囲されて始めている事だし、私達も戦おうか?」
リッカが、そんな事を言い出した。恐らくは外で作業しているメイファの安全性も考慮しているのだろうと思う。
「そうだな。俺が魔法で援護しよう」
俺もそれに賛成する。ゴーレム君達の力は充分分かったからな。
「ふむ……そうですな。これだけの数、流石に15体だけでは時間がかかりすぎますな……」
何しろ、敵の獣、魔物は、周りを埋め尽くすほどの数がこの場所に集められている。
先程から、ドラゴンが次のブレスを吐こうと準備している様子なのも気になる。もうそろそろ次のブレスが来るんじゃないか? あれは結構脅威だ。それに、段々近づいてきているものすごく大きいあのスライム、気になる。
「よし、決まりだな。私達は戦いを見物したい訳ではないのだ。速やかにユータローの魔法で攻撃してくれ。あのドラゴンと巨大スライムは嫌な感じがする」
そのリッカの言葉で決まった。よし、やったる。
「久しぶりに、全力で行くぜ」
「旦那……全力で行くんでゲスね……。あれをまた見れるんでゲスね……」
「あれでいくのか、ユータロー」
「全力……まさにこの場にはあれが合っておりますね。すごい景色が見られそうです」
よし! 全魔力を出すのは久しぶりだ。たまには全部吐き出さないとな! チョコを何個か出して魔力を使い切ってた頃が、なんだか懐かしい。
俺は、バルコニーの窓の前に立つ。室内からでも問題ない。外はよく見えている。
そして、すべての魔力を打ち出した。
空中に、チョコの塊が出てくる。そしてそれは、大きくなりながら空に登り、そして広がり始めた。
敵も、ある程度賢い奴らは攻撃をやめ、空に広がる俺のチョコをぽかんと見ている。
チョコは、雲が地を覆うように、どんどん広がっていく。さっきまで晴れだったのに、チョコが空を覆っていくので、段々周り一帯が薄暗くなってきた。
そして、遂には、周り一帯、見える範囲全てにチョコの雲が天を覆った。
「よし……行くぞ、黒い稲妻、最大バワーだ」
俺がそういうのと同時に、天からチョコの雨が降り注ぎ始めた。
500度の高熱を持った、溶けたチョコの雨だ。それが、帝国の人間、魔物、虫、鳥、全ての生き物を襲った。
「うわっ! あぶない!」
メイファが、慌てて室内に戻って来た。まあでも、メイファなら氷の殻で、自分一人位は身を守れそうではあるけどな。
チョコの雨が、敵に降り注ぎ、叫び声、鳴き声が周り一帯に聞こえる。
敵は、高熱の雨を浴びて次々に倒れて行く。所々、枯れ草が発火したのか、火も上がっているようだ。
敵の中には、生き残る奴らもいるかも知れない。しかし、これでかなりの敵を倒せるはずだ。
チョコの雨は、まだまだ続く。血に降ったチョコの雨は、今度はスライムのように動き始め、周りに居る敵を襲い始めた。
敵の大きなスライム、何かチョコにまとわり付かれて、ジュージュー音を出して煙が出ている。あれは……そうだな、鍋に火をかけすぎて、料理が焦げ付いていくのに似ている。
地を這う虫たちも、空を飛ぶ鳥たちも、皆死んだようだ。今はもう飛んでいるのは、俺達の味方、見えーる君だけになってしまった。
同じチョコで出来ている彼らは、何もダメージは無いどころか、かえって魔力を補給できて元気になってる。
もちろん、ゴーレムハイツも問題ない。
地に落ちたチョコは、段々一箇所に集まり始めた。そして、とてつもない大きな塊となる。
チョコの雨が降り続ける中、今度は地面に落ちたチョコが、津波のようになって敵に覆い被さり始めた。
防御魔法などで、何とか降ってくるチョコの雨をしのいでいた者たちも、この津波には耐えられず、チョコの波に飲み込まれていく。
その光景はさながら、聖書に出てくる、ノアの方舟の時の洪水の如しだ。
前後左右、どこを見てもチョコの雨、そしてチョコの波。ある者は焼かれ、ある者は窒息し、ある者は押し潰されて息絶えていく。
そんな光景を見ながら、俺は思っていた。
生き残ってるのを期待してるぞ、ケンイチよ……と。
もうすぐおしまい




