手加減
さて、マハールに少しはチャンスを与えようか。
「おい、お前、先に攻撃してきて良いぞ。きっちり仕留められるように頑張れよ? 次は無いからな」
俺がせっかくマハールに攻撃のチャンスを譲ってやろうというのに、相手は頭に青筋を立てて、顔をヒクつかせてる。怒ってるな、あれ。
「そうだな……30秒やる。その間は手を出さないでおいてやるから、全力で攻撃して来い。よーし、始めるぞー」
さて、じゃあぼちぼちカウントを始めますかね……
「貴様! 舐めてるのか! ふざけるな!」
マハールの奴、怒る暇があるならさっさと攻撃してくれば良いのに……
「そうだよー。舐めてるんだよお前を。分かったら早く来いよ。じゃあいくぞー、い~ち、に〜」
「この野郎……! 死ね!」
マハールは、両手から砂の槍を出し、地面でボーッと立っている俺を攻撃してきた。
ふむ……このくらいなら避けなくても良いか……
俺が目の前にチョコの壁を音も無く作ると、砂の槍はそこにぶつかって止まった。
一応、念のため厚さ3メートル位の壁を準備したが、そのくらいで問題ないみたいだ。
「ごー、ろーく……」と、俺のカウントは続く。
マハールのために、わざとゆっくりカウントしてやってるのだが、相手はこの優しさに気付いてくれているだろうか。
「この野郎……! 殺す!」
やっぱり分かってくれてないか、俺の気遣いは。
「うおおおおっ! 喰らえっ!」
今度は、マハールは砂の槍を目一杯作って、それを四方八方から打ち込んできた。数は……どのくらいだろうか。数えるのが面倒くさいと思う程には多い。
まあ、全部見えてるので、俺は壁を作って対応する。俺の周りに、デカいルービックキューブみたいな、縦横3メートル位のチョコの壁……と言うか、チョコの塊、と言ったほうが近いか? それを何個か作り、それで砂の槍を防いだ。
「きゅー、じゅー、じゅーいち……」
飛んでくる砂の槍は、全部チョコの壁に当たって崩れていく。
「うおおおおーっ!」
これでもかと言わんばかりに、砂の槍を大量に飛ばし続けてくるマハールの様子は、某漫画の、ピンチになったときに気功弾を一杯撃ってくるアレに、何かよく似ている。
残念ながら、いっこも当たらん。
今は数字を数えているから何も言わないが、もし何か言えるなら、「なんだお前の技は? ホコリを撒き散らすだけの技か?」くらい、言ってやりたい。
「じゅうきゅー、にじゅー……」
はあ……面倒臭くなってきた。30も数えなくて良かったかな……
「はあ、はあ……おのれぇ! 岩斬龍掌破!」
おおっ? 何か出すのか? と期待していると、マハールは両手を構え、そこから砂の龍みたいなのを出して飛ばしてきた。まあまあ大きい。
俺も真似してチョコで龍を作って、その砂の龍に向けて飛ばしてみた。ちょっと大きく作りすぎたみたいで、マハールの砂の龍は、俺のチョコ龍に当たってバラバラに崩れて落ちてしまった。
何だか、悪い事をしたみたいで気不味いなぁ……なんてな。
「へっ……ふざけやがって……だがなぁ……」
マハールがなんか言ってるけど、こっちは数えているので返事出来ない。ごめんな。
「にじゅーごー、にじゅろーく……」
「魔力が強いだけじゃ、俺には勝てん!」
そう言うと、マハールはこっちに手を向けた。すると、先程からの攻撃で近くに落ちていた砂が、一斉に俺に覆い被さってきた。
うん、なかなか良い攻撃だな。
俺は、素早く周りにチョコの殻を作った。チョコの殻に砂が纏わりつくが、俺には届かない。
そのままチョコを増やして、俺は逆に相手の砂をチョコで覆ってしまった。
「にじゅーきゅー、さんじゅー……っと。はい、じゃあ終わりな」
俺がチョコの殻の中から出てくると、マハールは呆然としていた。
「ばかな……あれも防ぐだと……」
いきなりだと悪いから、ちゃんと言ってから攻撃してやろう。
「よーし、じゃあ俺は今からお前にチョコの弾を一発撃つからな! いいかー? いくぞー」
そう言って俺は、目の前でチョコを凍らせて弾を作り、相手に飛ばした。
「ぐうっ……!」
マハールは、攻撃を防ごうとしたが、出来なかった。防ごうとしたと言うか、俺の攻撃を見ようとしたが、見えてなかった。
俺のチョコ弾は、マハールの左太ももをあっさり貫通した。あー、結構出血してるな。
まあ、マハールもしっかり見ようとはしていたのだが、俺のチョコ弾、本当の銃弾並みに速いからな……。見て防げる速度じゃないのよね。
「おいおい……ちゃんと防げよ……。いいか? もう一回行くぞ? 今度は先に言っておくからな! お前の右手を狙うぞ! はい!」
今度は優しくも、攻撃する位置も教えてやった。
「く、くそおっ!」
マハールも、今度はちゃんと砂の壁を作ったな。
でも駄目だ……。はぁ、駄目だろ、それじゃ。前からの攻撃しか防げないじゃないか……。
俺のチョコ弾は、壁を避けるようにマハールの横に飛んだ後、そこから軌道を変えてマハールの右腕に当たり、そのままマハールの腕を貫通した。
俺のチョコ弾、軌道を変えられるからねぇ……壁を前だけに作っても駄目なのよね……。
まあ、分かっていても俺のチョコ弾は見えないだろうから、防ぐなら殻みたいなのに閉じこもるしか無いと思う。
「うぐうっ! 痛え、痛えっ! ちくしょおっ!」
あーあ……マハールの奴、砂の円盤の上で、うずくまってしまった……心が折れてないと良いけど……
がんばれ、マハール!




