もう二度と無いかもしれないチャンスだった
「……申し訳ないです……」
マハールに手傷を負わされて戻って来たメイファは、俺に回復魔法をかけてもらいながら、俺達三人に謝った。
さて……傷は深くないな。このくらい、俺の回復魔法なら数秒で傷は塞がる。
「ケケッ、ドンマイでゲス」
馬鹿にしてるのか、慰めてるのか微妙な感じの言葉をアドンが掛けている。
そんな中、ディオスがニヤリと笑いながら、メイファを見下ろすよう彼女の前にに立った。メイファは、そんなディオスに目を合わせる事が出来ないでいる。
うむ……ディオスのこの顔は、言葉でメイファを責める時の顔だ。
「よし、終わったぞ。傷は塞がった。しばらく休んでれば大丈夫」
治療を終わらせ、俺がそう言うと、ディオスはそれを待っていたかのように喋りだした。
「まったく……自分から言い出して行ったくせに、おめおめ負けて帰ってくるとは……」
「ご、ごめんなさい……ディオス様に良いとこ見せたくって……」
「あんなザマで帰ってくるとは……これは、後でお仕置きが必要ですね……」
「ああっ……あたし、駄目だったからお仕置きされてしまうのね……」
お仕置きって……? そんなことしてるって知らなかったぞ? 何してるんだ? ディオスの奴……。
そして、微妙に嬉しそうにしているメイファ……何だこの二人……?
そんな瞬間、ふと俺は気付いた。今があのセリフを言うチャンスであることに。もうお仕置きの事はどうでも良い。
そう! メイファじゃ無いけど、今がまさにその時!
よし! 言おう!
そして、俺が口を開こうとしたまさにその時。
ディオスが一瞬早く、口を開いたのである。
「クックックッ……あんなにあっさり負けて……」
えっ……? まさか……! まさか、まさかぁっ!
「まあ、貴女は私達四人の中では一番の下っ端……。仕方無いとはいえ、我等リッカ団の恥さらしですなぁ」
ううっ!
言われた……ッ!
言われてしまった……ッ!!
あれ程言ってみたかった、『奴は我ら四天王の中では……』の下りをッ!
不覚ッ! 圧倒的不覚ッッ!!
ディオスに先に言われたァッ!!
「うあああああっ!」と叫びながら、崩れ落ちる俺。そして、驚くみんな。
「な、何かあったのですか? ユータロー……」
珍しく動揺しているディオス。
「ど、どうした……? 大丈夫か、ユータロー」
いきなりの事で、リッカも驚いているようだ。
「す、すいません、ユータロー様……。あたしが負けてしまったせいで……」
そして、微妙に誤解しているメイファ。
そんなメイファに、俺はかろうじて返事をする。
「いや、メイファ……メイファはよく頑張った……。むしろ素晴らしい結果だった……。これ以上は無いと言っていい状況を作ってくれた……何だったらもう一度負けて欲しいとすら思うほどに……」
「えっ……?」
メイファが、何それ? みたいな顔をしている。
自分でも言ってる事が意味不明になっているが、仕方ない。
「と、とにかく……もう大丈夫だ……皆、もう心配ないから……」
「おいコラ! さっさと次の奴は出てこいや! 怖気づいたかお前たち!」
タイミング悪く、突然掛けられたこのマハールの言葉に、普段は温厚な俺もこの時ばかりはカチーンときた。
「うるせえこの野郎!! 次は俺が相手だ! そこで待っとけ!」
哀しみを怒りに変え、俺はバルコニーから飛び出したのであった。
チョコで足場を作り、地面に降り立って歩きながら近づいていく俺。
心の中は、こいつ、どうしてやろうか……と、あの名セリフを言えなかった無念の気持ちがこじれ、八つ当たりの気持ちで一杯である。
いかんいかん……こいつは、あの時の実行犯だ。冷静に冷静に……。
仲間の仇だ。きっちり仕留めないとな……。
深呼吸をして、少し落ち着いた俺は、マハールをキッと鋭く睨みつけた。
「待たせたな……次は俺だ。あの時の借り、今返すぞ」
「ほほう、今度はチョコ野郎のお前か……さっきのサラダから、いきなり今度はデザートってか?」
マハールは挑発してるつもりなんだろうけど、別にどうでもいい。
あの時の事……砂で生き埋めにされた時のことを、俺は思い出していた。
エレン……見ててくれ。今、仇を取る。




