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予想外の事態に弱いタイプ

 よっしゃ、俺にとっての初陣だ。しがないソルジャーではございますが、やってやろうじゃないか。


 味方の重装歩兵が、敵兵と接近する。もう弓矢で攻撃する距離じゃない。俺たちソルジャーも装備を剣に切り替え、敵兵に攻撃すべく、接近する。


 と言っても、死ぬのはやっぱ怖いので、無理に敵兵の中に突っ込んだりはしない。他のソルジャーたち、リチャード、バッツ、モゲロなんかも同じだ。


 集団で戦う。出来るだけ、2対1の状況を作って、攻撃にさらされずに、攻撃に専念出来る状況を作り出す。


 俺は、リチャードとコンビで敵兵に当たる。幸い、数ではこっちが多い。俺が敵に向かって剣を振って威嚇し、相手が俺に対応せざるを得ない状況にして、その間に、リチャードが素早く横から攻撃、リチャードの剣が相手の脇腹に突き刺さり、敵を討ち取った。


 1人、やっつけたぞ。直接やったのは俺じゃないけど。


 平和ボケした日本人だって、やるときゃやるんじゃ! 見たか!


「ナイスファイトでゲス。旦那」


 横で見ていたアドンからも、ありがたいお言葉を頂く。こいつ、完全に見物人状態だな。


 敵は、今度は騎兵を展開してきた。よく見ると、後ろの方には、大きさ3メートルほどのオーガ(おに)の部隊も居るぞ。頭に角が一本生えてる。


 それに対応するかのように、こちらは、ユニコーンナイトが前に出る。


「ユニコーンナイトっ、突撃!」


 王子がそう叫ぶと、我が軍の主力、ユニコーンナイトが、敵の歩兵や騎兵、オーガの部隊に、突撃を掛けた。


 ユニコーンナイトの突撃は、圧巻だった。接近するまでは、ユニコーンに乗った女騎士が、魔法で攻撃を行い、接近すると、ユニコーンの角、蹄、そして女騎士のランスで、蹂躙する。


 敵の騎兵との戦力の差は、圧倒的だった。遠距離からは魔法、接近したらユニコーンと女騎士の攻撃。こりゃ凄いわ。


 ユニコーンナイトは、オーガにも突撃した。3メートルの相手にも、全く怯むことはない。しかも、オーガを押している。


 オーガも、手に持つ大きな槍や、棍棒等で反撃しているので、ユニコーンナイトにも、もちろん被害はあるが、数で勝るユニコーンナイトが、敵をどんどん押し込んでいる。


 また別の場所では、ゴーレムとオーガが、激しいバトルを展開している。ゴーレムの拳と、オーガの武器が激しく激突する様は、ある意味ものすごい。ヘビー級同士の戦いを見ている気分だ。


 強え……強いじゃないか俺たちの軍!


「いける……! いけるぞ、俺達の軍……!」俺は叫ぶ。


「いや、分からんぞ。上を見ろ」


 リチャードが、俺にそう言うので、上を見てみる。と、上からグリフォンが落ちてきた。


 降ってくるように落ちてきたグリフォンは、地面に激突して、ドォンと音を立てる。


 上では、グリフォンと飛竜が戦っていたが、いつの間にか、飛竜がグリフォンを押し始めており、魔族も、もう地上への攻撃ではなく、グリフォンの援護のためか、飛竜を魔法で攻撃していた。


「え……? 何で? 数でこっちが勝ってたのに?」


「やはり飛竜は強い、グリフォンで当たるなら、もっと数が必要だったかも知れん」


 リチャードは、戦況を分かってなかった俺に、現状を伝えてくれた。


 それを聞いて俺が驚いていると、横でアドンが解説する。


「飛竜とグリフォンなら、飛竜の方が五割増しくらい強いでゲス。数で押すなら、2倍欲しいところでゲスよ。魔族が援護したとしても、現状は互角か、あー、でも敵の対空射撃もあるから、少し不利かって所でゲスかね。」


 えっ、そうなの? 空は結構きついんだ?


 一方、陸上では、我等ソルジャー、重装歩兵、ユニコーンナイトの連携と、ゴーレム部隊の攻撃で、完全にこちらが有利ではあった。これは流石に、俺でも見て分かる。


 ……有利なはずだった。新手の敵が現れるまでは。


 街の建物の影から、何かが立ち上がった。立ち上がったそいつは、高さ5~6メートルくらいはあるか、感覚で言うと、2階建ての建物くらいの大きさがある。


 ありゃあ、なんだ? 


 でかいトカゲに、頭が4つ、いや、5つ付いてる。


 しかも、何匹かいるぞ。


 あれ、どう見ても強いよな? やばいやつだよな?


「ありゃあ、ヒドラでゲスね。強いでゲスよ。やばいやつだから要注意でゲス」


 アドンが、俺に教えてくれる。うん、そんなの見りゃ分かる。こいつの言ってることは結局、俺の思ってる事と同じことだ。


「キシャアアアア!!」とか叫び声あげてるし。


 だからといって、逃げ出すにはまだ早い。ヒドラに対し、俺達の軍は対応を始めた。

 

 ゴーレムがまず先頭に立ち、ヒドラを足止め、そして重装歩兵がヒドラに槍で攻撃、ユニコーンナイトも、ヒドラに突撃を仕掛ける。


 俺達も、弓でヒドラの上半身、敵を間違って射てしまわないところを狙って、攻撃する。


 ヒドラは、激しく暴れ、その度に味方がなぎ倒されていく。うおお、怖い。マジで怖い。


「うおおお!」


 無意識のうちに叫びながら、俺も必死で弓を引き、矢を放つ。俺の放った矢は、敵の5つある首のうちの1つに突き刺さった。


 よしっ! 俺の攻撃も当たってる!


 ヒドラに、ゴーレムが拳を振るい、重装歩兵が槍を突き刺し、ユニコーンナイトが突撃してランスで突き、そしてソルジャーが弓矢で攻撃する。


 暴れ回っていたヒドラも、だんだん動きが鈍くなり、そして……


「ギャアアアア!」


 叫びながら、ゆっくりと体が傾いていく。ズシィィン、と地響きをたてて……やった、崩れ落ちた!


 ハリウッドも、裸足で逃げ出す大迫力だ。まるで、映画でも見ているかのようなワンシーンだ。


 周りの味方からも、「よっしゃあ!」とか、「やった!」とか、歓声が上がる。


 俺の隣では、リチャードがガッツポーズを決めている。


「ナイスファイトでゲス。しかし、何だか、陸上の方も押され気味の様子でゲスよ」


 アドンの言葉で、はっと正気に戻った俺は、辺りを見渡した。


 味方の数が、心なしか減っている。ユニコーンナイトの陣形も、崩れてしまっている。


 現れた何匹かのヒドラのうち、半分ぐらいは倒された様子だが、まだ暴れているヒドラもいる。


 味方のゴーレムが、もうほとんど動いてない。


 あっ……これ、ちょつとまずいかもしれない……


 あわてて、ザコッキー王子の方を見てみると、なんかアワアワ言ってる感じの様に見える。遠くから見てるだけだから分からないけど、どうも混乱してるようだな、これは。


 敵は、ヒドラとオーガ、それと、数は少なくなったが、騎兵とソルジャーでこちらに向かってくる。


 こちらは、ユニコーンナイト、重装歩兵、そして俺達ソルジャー。ゴーレムは、もう数のうちには入れることができないくらい減ってる。


 数は、まだそれなりにいるし、戦うことは出来ると思う。でも、勝てるかどうか分からないぞ、これは……


 何かしらの、作戦が欲しいところだ。


 引くか、攻めるか、どっちにするんだ? 特に指示が何にもないってことは、このまま戦闘継続……って事だよな? 良いんだよな、それで?


 指示が無いので、俺達の軍は、敵との戦闘を続けた。ユニコーンナイトの部隊のうち、半数がヒドラの残り、あと5~6匹に突撃し、残り半数でオーガに当たる。重装歩兵とソルジャーは、ユニコーンナイトの援護だ。ソルジャーは、ある者は弓でヒドラを攻撃し、ある者は剣や弓でオーガや敵の兵と戦ってる。


 俺達のユニットは、目の前に来たオーガ2匹と戦う。


 ユニコーンナイト2人と、重装歩兵1人、そして俺達ソルジャーのユニットは6人。ユニコーンナイト、重装歩兵、そしてソルジャーのうち3人は前衛で足止めをして、残り4人は弓で攻撃だ。俺は前衛で足止め役に回った。


「オーガの攻撃はソルジャーでは厳しい! 盾をしっかり構えて受け流せ!」


 後ろから弓で攻撃するモゲロさん(32歳・妻&子供一人)が、俺に向かって叫ぶ。


 俺は素直に盾を構え、オーガに盾を当てて、足止めする。オーガの振り回すこん棒が俺の盾に当たり、俺は何とか力を受け流したものの、それでも後ろに吹き飛ばされてしまった。3メートルの体だとパワーも凄いな……と感心しつつ、何とか起き上がる。腕はしびれているが、ダメージはそれほど無いようだ。


 ユニコーンナイトの放った魔法がオーガの顔に直撃し、ダメージもさることながら、オーガが目を閉じて顔をしかめた。その隙に、重装歩兵が敵の武器を持つ手を攻撃、オーガは、手に持つ武器を取り落とした。チャンスだ。


 ユニコーンナイトが突撃し、オーガの腹にユニコーンの角が深々と突き刺さる。そして、おお……凄い、そのままオーガを押し倒した。


 倒れたオーガに、一斉に攻撃を加えるソルジャーたち。剣がオーガに切りつけられ、オーガに刺し傷、切り傷を付ける。おれも、必死でオーガに剣を突き立てる。怖いとか言ってる場合じゃない。やらないとやられる。


 最期の力で腕を振り回し暴れるオーガの腕が、近くにいた重装歩兵に叩きつけられる。やられた重装歩兵は、首が変な方向に曲がり、吹き飛ばされた。その隙に、ユニコーンナイトのランスがオーガの首に突き刺さる。


 ……よっし! あれは決まった! ユニコーンの角での一撃と、この一撃で、オーガは動きが止まった。一緒に戦ってみて分かることだが、ユニコーンナイト、結構強いわ。


 俺たちはどうにかオーガを倒したが、こちらも、足止めをしていたソルジャーのうち1人と、重装歩兵が死亡した。もう一方はと見ると、ユニコーンがオーガの攻撃を受けてしまい、叩き潰されているが、残った女騎士とソルジャーで、何とかもう一匹のオーガも倒したようだ。しかし、もう一方と戦っていたソルジャーの数も、どうやら減っているようで、被害は大きいようだ。


 オーガ一匹倒すのに、こちらは2~3人やられている計算だ。


 この調子だと、まずいんじゃないか……?


 遠くを見ると、まだヒドラが2~3匹、生き残っているのが見える。という事は、ユニコーンナイトだけでは対応が出来ていない……倒し切れていない、という事なのか? 


 戦況は互角か、やや不利になりつつあるか? 数はこちらが多いが、ヒドラは下手をすると、こちらの戦力100人分くらいあるし、オーガはこちらの歩兵5~6人で、やっと互角と言ったところだ。ユニコーンナイトならオーガに対し1対2でほぼ互角か、ちょい有利、1対3なら確実に勝てる、と言ったところか。


 でも、俺のその計算だと、勝つには数が足りない。ちょっと厳しいか……


「これは、微妙でゲスが、ちょっと厳しいでゲス。旦那、逃げる事も頭に入れといて下せえ」


 アドンも、どうやら同意見のようだ。


 再び、ザコッキーの方を見ると、ちょうどその時、ザコッキーが慌ただしく命令を発した。


「たいきゃく! 退却だ! 全軍退却!!」


 くっ、やっぱり退却か。だとしたら、もっと早く退却の指示を出せば良いのに……判断が遅れたな。絶対あいつ、ヒドラが出てきたときに慌てただろ。あれだ、予想外の事が起こると頭が真っ白になるタイプだ、あの王子さまは。


 何か、戦力の差で負けたんじゃなくて、采配で負けたような気がする。


 全軍が退却を始めた。


 俺たちソルジャーも、退却を始める。最初は8人一組だった俺たちのユニットだが、今はもう5人だ。


 敵が、追撃を仕掛けてくる中、俺たちは敗走を始めたのだった。


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