マハール来た
リッカと、カウンターで大人っぽい会話をした、次の日の昼。
ゆったりとした午後のひと時。
ディオスが、ちょうど試作品である第一ゴーレムハイツがどうなったのかをリビングで皆に話している時のこと。
俺とリッカは興味が無いので、あまり話を聞いておらず、メイファだけが目を輝かせてディオスの話に聞き入っている、そんな時、ついに敵がやって来た。
気持ちは、いつ敵が来るかの方にいっていたので、正直ディオスの話は聞いてなかった。ごめんな。
「ふむ……来ましたね。もうすぐ見える位置までやって来ますよ、帝国の軍が……」
みえーる君の画像を受け取ったディオスが、俺達に知らせる。
「ついに来たか……せっかくだ、バルコニーから見よう」
リッカにそう誘われて、俺達はバルコニーに出る。メイファや、アドンも一緒だ。ロッキー2世も、何処からかともなくバルコニーに来ている。
アドンの姿は、メイファにも見えるようにしてもらってる。
さて……敵さんの様子は……? と見てみると……
ん……? 見えないな……まだ遠いのかな?
そんなふうに思っていると、何やら空を飛んで近付いてくる者がいる。一人だけだ。
円盤だ……。メイファみたいに、円盤に乗ってこっちに来る。
あれは……マハールだな。ふわふわと宙に浮いている、砂の円盤の上に座っている。
「何だ……? 一人で来たのか? 交渉か何かだろうか?」
リッカが、そう言いながら、マハールの方をじっと見ている。
「メイファは俺達を殺すのに反対してたみたいだから、まあ許したけど、あいつは許したくないな……」
「当然でしょう、彼は実行犯なのですから。降伏は認められませんねえ」
俺とディオスでそんな事を話していると、マハールが大声で叫んだ。
「お前ら久しぶりだな! 俺だ! マハール様だ! 勝負しに来たぞ!」
ふむ……交渉じゃ無かったか……
「皇帝であるケンイチ様の手を煩わせることも無い! お前らは俺が倒す! そしてそこにいる裏切り者のメイファ! お前も同じだ!」
「裏切り者って言われてしまいました! ディオス様! あたし悲しいです!」
メイファがそう言いながら、ディオスの服の袖を掴む。
「まあ、実際その通りですがねぇ……」
そう言いつつ、メイファの手を振りほどくディオス。
「ううう……。惚れてしまったんだもの、仕方ないじゃない……」
そんな事を小声でつぶやくメイファは気にせず、俺達はマハールの方を注目する。
「一騎討ちと行こうじゃねえか! 誰でもいいからかかってこい! それとも誰も一人じゃあ何も出来ねえか? どうしたコラ!」
おお……一騎討ちと来たか……。
「ふむ……あいつ、一騎討ちを所望か……どうする? ユータロー、ディオス」
リッカが、皆に尋ねる。
「いいね、やろう一騎討ちを!」と答える俺。
俺は、こういうのは大好きだし、行く気マンマンである。
「あんな馬鹿の言う事など無視して殺しましょう。相手に合わせることも無いでしょうから」
ほら、こう言うと思った。ディオスは絶対乗ってこないよな、この手の話は。
「私は……あいつを憎く思ってはいるが、武人としては少々気骨を感じる所もある。……受けよう、一騎討ちを」
「よっしゃ決まりだ。良いよなディオス?」
俺とリッカがそう言うので、やれやれといった顔で首を振るディオス。
「全く、しょうがありませんねぇ……ではせめて、サクッと終わらせてくださいな」
よし、じゃあ俺が行こうか……そう言おうとした時、他の者が先に名乗りを挙げた。
「では、あたし! メイファが行きます!」
おお? メイファが行くのか……? それは考えてなかったな……
「メイファ、勝てるのですか? ユータローが出た方が間違いは無いのでは?」
ディオスがそう言うが、メイファは引かない。
「確かに、あいつとあたしは互角の強さですが、この辺りで何か手柄の一つも立てなければ、いつまで経ってもディオス様に認めてもらえません! それに……私には分かる……! 女には、ここぞという時には、戦わねばならない時がある……そして、今がその時……!」
「ふっ……分かった。メイファ、任せよう。無理はしないようにな」
リッカがそう言うので、俺もメイファに先を譲る。
「ディオス様! 見ていてください! 見事マハールを討ち取ってみせます!」
そう言うとメイファは、氷で円盤を作り、その上に飛び乗って行った。
「こりゃあ……どうなるでしょうかね……目が離せねえでゲスね」
「そうだな……どっちが勝つかな」
アドンの言うとおり……俺も分かんねえ。どうなるかな、この勝負。




