表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/60

決戦前

 その女性は、朝もだいぶ遅くなった頃にベッドからゆっくりと起きた。


 酒場での仕事は、どうしても客が帰るまで店を閉めるわけにはいかないので、夜遅くまでの勤務時間になりがちだ。だからといって、その分昼まで寝てても良いわけでもない。


 職場は、一階で酒場、二階では宿屋を経営しているので、宿屋の仕事もこなす必要があった。


 その女性は、大きく伸びをすると、寝てる間に少し乱れた髪を手でまとめながら、部屋から窓の外を見た。


 二階の一室が、住み込みで働く彼女の部屋になっている。


 窓には、植木鉢が置けるように、少しスペースが設けてあるが、そこに一羽のカラスが止まっていた。


 しかしよく見ると、このカラス、色がやや茶色がかっている。それに、動きはカラスだが、目玉が動いていない。


「おっ……来たね」


 彼女はそう言うと、カラスのすぐ近く、手を伸ばせば届く所まで歩いて近寄るが、カラスは逃げない。


 カラスの近くまで行くと、彼女はカラスに向かって話をし始めた。


「……帝国は、もうすぐ出陣するみたい。酒場の客の話だと、今度はマハール、そして、皇帝も直々に出るって話よ。兵はかなり前の戦でやられてるけど、今回は残りの戦力の殆どを投入するらしいわ」


 その女性の言葉を聞くと、その奇妙なカラス――偵察用ゴーレム、みえーる君は、羽ばたいて朝の空に消えていった。


 そして、その女性――かつて、リチャードの妻であったミカは、またベッドに倒れ込み、仰向けに寝転がって天井を見つめた。


「もうすぐ……もうすぐよ、リチャード。もうすぐ仇をあの人たちが取ってくれるわ」


 以前のふんわりとした感じは鳴りを潜め、そこにいたのは、少しやさぐれた感じの、冷めた目を持つ女性であった。


 ミカは、この酒場で働きながら、帝国の様子をみえーる君を通し、ユータロー、リッカ、ディオスの三人に伝えていたのであった。


 帝国にどうにかして仕返しをしたい、そんな気持ちで引き受けたこの仕事も、決戦が近づく事により、もうすぐ終わりを迎えようとしていたのである。


 帝国の様子は、ミカの情報を含め、多くのみえーる君が集めてきた画像や音声となって、逐一ディオスに送られている。


 移動用ゴーレムである、第二ゴーレムハイツ102号室のリビングでは、リッカとメイファが、冷蔵庫から持ち出してきた酒を酌み交わしながら、カウンターの所で話をしていた。


 少し耳を澄ますと、二人はどうやらお互いの事を話しているようで、メイファが、「あたしは、チュウゴクっていう国で生まれたんだ……」とか何とか、少し酔った口調で言ってるのが聞こえてくる。


 リビング中央のソファには、俺とディオスが座っており、ディオスが戦闘用ゴーレムに名前を付けようとしているのを、俺が反対しているところである。


「あのさぁディオス、もう少しカッコいい名前にできないか? その名前はあんまりだろう……」


 そう言う俺に、あくまでもにこやかな表情で返事するディオス。


「良いではないですか! ぶっころ君で! 敵をぶっ殺して回るのですから!」


「ぶっころくんって……それはちょっとなあ……」


 このままだと、どうやら俺の反対も押し切られそうな雰囲気になっていたその時、ディオスが話を中断した。みえーる君から、なにか新しい情報でも手に入れたようだ。


 良かった……。取り敢えずは、名前をつける話は中止だ。


 目を静かにつぶり、動かなくなるディオス。そして、少し経つと、スッと怖い感じで目を開け、ニヤリと微笑む。


「クックックッ……どうやら、いよいよ敵は決戦を仕掛けるつもりのようですね……楽しい事になってきましたよ」


 ふむ、帝国に新しい動きがあったんだろうな。さあ、どうなる?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ