見た時から
俺達が飛んでこの戦場までやって来るのに、正確には20分程かかった。
その後、ここで戦闘して、およそ2〜30分程経過している。ちょうどそんな時に、ヤン・メイファの乗った氷の円盤はやって来た。
「ほう……思っていたよりは速いですね。後を追って着いてきているのは気付いていましたが……」
「そうだな。俺達より遅いけど、それでもまだ飛竜より速いって事だよな?」
俺がそう言うと、リッカが、
「そうだな。ユータロー、もしお前が同じ様にチョコで円盤を作って、それに乗って飛んだら、どのくらいの速さになるだろうかな?」
なんて言ってくる。
「自分で乗って操作するのは、あんまりやってはいないからなぁ……分からないな」
多分もっと出せそうだが、速すぎて危ないかもな。いや、強がりではなく、本心で。
目で見える位置まで近付き、こちらの様子をうかがうかのように静止している、ヤン・メイファ。
と思っていると……ん? 近付いて来た。手には……白旗?
「何だ? 降参?」
俺がそう言うと、ディオスが答える。
「チッ……。殺してしまいたいですが仕方ない。まあ、先に話を聞きますか……」
そして、五分後。
最初はバルコニーで話していたが、長くなりそうだし、相手に戦意は無いようなので、リビングで話をすることになって、ソファに座っている俺達。
対するは、同じくソファに座っているが、両手を前で拘束されているヤン・メイファ。
三年前会った時と、あんまり変わってなさそうだ。紺のローブで身を包み、髪は相変わらずお団子にして左右にまとめている。
年は俺達よりちょっと上っぽいから、だいたい30かそのくらいかな?
拘束されていても落ち着いているところは、さすが王の側近ってところか。
「……と言う事は、我々に寝返りたい……そういう事で間違いないか?」
リッカがそう問うと、はっきりとした口調でそれに答えるヤン・メイファ。
「その通り、あたし、あんた達に寝返りたいの。あたしなら戦力になれると思うの」
「……そう言われましてもね……信用出来ないですよ? 側近の貴女が寝返る理由は?」
「……理由はいくつかあって……まず、皇帝ケンイチの政治が、弱者にちっとも目を向けてない事……」
何でも、ケンイチは実力主義っぽい考え方をしてるせいで、貧しい者や、役に立たないと判断された、いわゆる弱者を見捨てていると言う事らしい。
「でも、ただそれだけじゃ、あたしは裏切るまでは出来ない。力も無いのに裏切っても、ろくな事はないだろうから。だから、今までは大人しくしてた。でも、あんた達の戦いを見て分かったのよ。あんた達の強さなら、皇帝に対抗できるって」
「ん……じゃあ、要するに俺達の強さを見て、寝返るのを決めたって事?」
俺がそう聞くと、
「力無き正義は、無力って言うでしょ。三年前からあんた達を気にはなっていたけど、強くないと、そりゃあやっぱりだめよね」
現実的だなぁ。
リッカは、とりあえずこっちに付いてくれるのが本当なら、受け入れる考えだ。ディオスは、ヤン・メイファの言っていることが本当だろうが嘘だろうが、敵は皆殺しで殺してしまおうという考え。そして、俺は今迷っている。そんな感じ。
ディオスが、まだ聞きたい事があるようだ。
「……三年前、私に注意を促した時……あれは何だったのでしょうか?」
「ああ、あれは……その……あたし、あんた達を殺してしまうのは、反対だったのよ。でもケンイチがそう決めたから、仕方なかったの。だからせめて、ケンイチに逆らう事は出来ないけど、生き残って欲しいと思って……」
「ふむ……。で、なぜあの時、わざわざ私に? リーダーのリッカでなく、なぜ私に声をかけたのですか?」
「あ、あれは……その……あんたなら話しを聞いてくれそうと言うか……気になっていたと言うか……」
ん……? 何だろう、この感じ。
「えっと……ディオスが話しかけやすかったのかな?」
俺が軽くフォローを入れてみると……
「そ、そう! そうなの! 話しかけやすかったの! 背が高くて、凛々しくて、知的な感じで、メガネをクッと上げるとこに、ビビっときたの!」
と、分かるような、分からないような事を言ってる。
うん? 何だろう……? それはもしかして……
L O V E ……なのでは?
まさか、まさか……あの面会の時に一目惚れしてた、とか……?
「ほう……」と言いながら、ニヤリと笑うディオス。
ディオスも馬鹿じゃない。気がついてるよな……きっと。メイファの好意に。
それを気がついている上で、あの怖い笑顔……
どうするつもりなんだ……ディオスは。




