王としての覚悟
ここは、国境線に近い平原。
街道が通るのみで、近くに集落はない。
そこに、ザコッキー王子、いや、今は王となったザコッキーが佇んでいた。
王のもとには、ユニコーンナイトを中心とした兵士たちが控えている。そして、チョコレートで出来たゴーレムが5体。
ディオスの話では、このチョコレートで出来たゴーレムはまさに一騎当千、いや万夫不当。対空、対人、全てにおいてオールラウンドな性能を発揮するとの事。
しかし、それでも……これから攻めてくるはずの帝国軍一万は、ザコッキーにとって脅威であった。
敵は、もうかなり近くまで接近している、との情報が入ってきていた。
まだ何も見えない平原の向こうを見つめ、ゴクリとつばを飲み込むザコッキー。
あの三人に重ねて請われ、望まれて王に戻った。
自分にはそんな器は無い、王など務まらないと言ったが、三人の意志は決まっていた。
ここまで、何とかあの三人、そしてまた自分の元に集まってくれた、元ヤマガタ王国の兵たちの気持ちに報いたい、そんな気持ちで王として政務を頑張ってきた。
自分の欠点は、人の話に耳を傾けるのが遅い事、そして判断が遅い事である……ザコッキーには、もうそれはよく分かっている。
敗戦、滅亡、そして敵からの嘲笑と侮りの視線。無能だからと平民として開放され、農夫として生きる事を選んだあの時。
これらの事を全て経験し、ザコッキーは思っていた。
今度は、せめて同じ失敗はしない。
自分には、相談できる部下もいる。こんな自分でも信じて付いてきてくれる、仲間がいる。
これからここで起こる戦いは、激しいものになるに違いない。死傷者も多数出るに違いない。
戦う前に降伏してしまえば、無駄に兵を失う事は無いのではないか……? そんな思いがザコッキーを襲う。
しかし、それでは駄目だと、もう一人の自分が心の中で言う。
自分の心の中にいる、リトルザコッキーだ。
皆の期待に答えろ、と。
王としての精神を示せ、と。
勇気を出して戦え、と。
リトルザコッキーは、ザコッキーの心の中で叫んでいた。
拳を握りしめ、決意を込めた目で、キッ! 前を見据えるザコッキー。
彼の覚悟は、決まっていた。
―――
俺たちを乗せた第二ゴーレムハイツは、しばらくもしないうちに敵に追いついた。まだ戦闘は始まってなかったので、都合が良かった。
乱戦になってたら、魔法をぶっ飛ばすと敵味方なく攻撃してしまうからな。
と言う訳で、俺は空から一発、デカいチョコ隕石を降らせてやった。クラスター爆弾のように分裂しながら、敵兵の頭上に降り注ぐ、熱々のチョコレート弾。
白い煙を上げながら地面にチョコの流星が降り注ぐ様は、まさに、黒い稲妻と言ってもいい。
俺は、それを眺めながら、チョコ鉄砲で攻撃する魔法に"ブラックサンダー"と名付けていた事を思い出していた。
「まさか、今になって名前に実態が追いつくとはなあ……」
そんな思いで、地面で起こる惨劇を見つめていた。
「こりゃあ、壊滅状態でゲスね、ケケッ」
もう叫び声も聞こえなくなってしまった戦場に、アドンの言葉が虚しく空に響いた。
近くまで出陣していたザコッキーの近くまで飛んでいき、敵兵に壊滅的打撃を与えたから、生き残りを始末するか、捕虜にするかしといてくれるよう頼むと、ザコッキーは何故かポカーンとしていた。
「では、あとの処理はよろしく頼む、王よ!」
リッカがそう伝えても、ザコッキー王は、
「あっ……はい……」
としか答えなかった。
戦いで活躍する機会を逃して、残念だったのかな? まあゴーレム5体もいれば、かなり有利に戦えたはずだろうけど、まあそれでも、味方が被害を受けないのが大事だしね。
こうして、この戦いは、ユータローたちの完勝であった。
そして、ザコッキー王の悲壮な決意と覚悟も、あっけなく無駄となったのであった。
しかし、そんな戦の終わった戦場にいる三人に向かって、急速に近付きつつある"何か"がいた。
帝王ケンイチの側近の一人、ヤン・メイファが、氷の円盤に乗り、飛行モードの第二ゴーレムハイツの後を追ってきていたのであった。
スカッとあっさり勝つのを書きたかったので書いておりますが、感想などあればよろしくお願いします。有り難く読ませて頂きます。




