気になるけど、メイファは後回しにした
「うひょ……こりゃあ、完全に焦げちまってるでゲスね、ケケッ……」
俺が出したチョコ魔法を消した後、残った死体を見て、アドンがまたゲスいことを言っているが、そんな事は気に留めず、俺たち三人は別の方角を見ていた。
「あれは……ヤン・メイファで間違いないよな」
俺がそう言いながら指差す先には、結構遠くに、大きさ2メートル程の、宙に浮くガラスの円盤みたいな物に座って乗っている、一人の女が見える。向こうもこっちを見ているようだ。
しかし、こちらに何かしてくる様子は無い。じっと、ただこちらの様子を見ている。
「偵察……のようだな……。味方が全滅しても助けようともしないとは、徹底したものだ」
リッカは、少し気分が悪いようだ。まあ、それもそうかも知れないな。リッカであれば、目の前で味方がやられていたら、助けようとするからなぁ。
「彼女の能力は、すでに把握しております。確か、水や氷を操る能力ですな。ユータローのチョコを操るのと、割と似ているかと」
「そうだな……」と、ディオスの言葉にうなずく俺。確かに似た感じだ。どのくらい強いのかな、あの人は。
「……あちらが手を出してこないというなら、予定通り、王都に向かっているもう一部隊の攻撃に移ろう。ディオス、頼む」
「ええ、そうですね。では、今から早速追いかけます。皆様、中へどうぞ」
そう言われて、第二ゴーレムハイツのバルコニーからリビングに移る俺たち。
皆がリビングに戻り、ロッキー2世も自室に戻った所で、ディオスが部屋のスイッチの一つを押した。
「今から、この第二ゴーレムハイツは、飛行モードに入ります。でもどうぞ安心してください。揺れは最小限になるよう設計してあります」
飛行モード……? 何それ、今初めて聞いたんですが。これ、飛べるの?
リッカの顔を見てみると、リッカも何それ? と言わんばかりの顔をしている。
「なあ、ディオス、これ……飛べるのか?」
「もちろんですとも! 飛行速度は飛竜の五倍! 敵軍に追い付くまで、恐らく30分もかからないことでしょう! これぞ長年の研究の成果です!」
なら、なぜ最初から飛んでサイタマ帝国に行かないのか? そこを聞きたい。と言うか問い詰めたい。
「すまない、ディオス、ちょっと聞きたいのだが……。飛べるなら、なぜ最初からサイタマ帝国まで飛ばないのだ?」
リッカも当然、同じ疑問を抱くよな。そりゃそうだよ。全くそりゃそうだ。
「何をおっしゃいますか! そんな事をしてしまえば、面白くないではありませんか!」
うむ、ある意味ディオスらしい回答が返ってきたぞ。
「サイタマ帝国には、徐々に迫り来る恐怖、焦燥感、そういったものをぜひ味わってもらわなければ! 敵がやって来るのにどうしようも出来ない、そんな気持ちを味あわせる必要があります!」
ディオスの話は続く。
「それに、私達がいきなり空からサイタマ帝国に行ってしまうと、帝国の全軍をいきなり相手にする事になり、ちょっとだけ苦戦するリスクが発生いたします! それより、こうやってのんびり陸路を行き、敵をおびき寄せ、虫を潰すように敵を叩きながら行けば、敵の消耗を招き、合理的でもあります! スローな旅でこそ、敵が徐々に不利になる、その醍醐味が味わえるのです!」
旅行会社の営業マンの様なディオスの台詞に、「お、おう……そうか」とか、「な、なるほど……」しか言えない、俺とリッカ。
そんな話をしているうちに、蜘蛛みたいな形の第二ゴーレムハイツは、脚が引っ込み、代わりにドローンのプロペラみたいな物が出てきた。そしてキュルキュル……と小さな音を立てて、プロベラが回りだす。
かと思うと、第二ゴーレムハイツは、すごい速さで空の移動を始めた。
うおお……速い。なんか、胴体からジェット噴射みたいなのも出てるな。
「さあ、いきますよ! リッカ! ユータロー!」
フ○ーザさんの様なディオスのその声と共に、俺たちを乗せた飛行モードの第二ゴーレムハイツは、敵部隊を目指し、高速で飛行を続ける。
まあ、色々とツッコミどころはあるが、これなら敵がヤマガタ王国に近付く前に追いつけそうだな。
追いついたら、素早く攻撃でも仕掛けるか……俺は、そんな事を思っていた。




