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指揮官の王子さま登場

 兵士として街を警備しつつ、チョコを手から出してみる日々が、その後も、数日の間続いた。そんなある日、チョコを出す前にちょっと考えてみた事があった。


 チョコレートの"味"についてだ。


 今、俺はチョコを、どんなチョコを出すか、特に何も意識せずに出している。で、安定した味の、おいしいチョコを毎回出すことが出来ているわけであるが、それはつまり、俺の出すチョコには、ミルクと砂糖がちゃんと適量入っている、ってわけだ。


 だとすると、チョコを出すときに、ひょっとして……味の調整が出来るのではないだろうか? 砂糖とミルクの量を調整出来るのではないか?


 そう思った俺は、今回、昼休みにチョコを出すとき、ブラックチョコレートを念じながら集中してみた。


 すると……出てきたチョコは、何とブラックチョコだった。魔力の消費が、いつもよりちょっと多い感じだけど、これは新発見だ。


 他の味も、もしかしたら、出せたりして?


 非常に興味深い。どんなチョコまで出せるのか、いろいろ試してみたい。一日一個しか出せないので、少しまどろっこしいが、まあ、少しずつでも、いろいろな味を出すのにトライしてみよう。

 

 そして、その日の午後。


 俺達のいる街に、一人の将軍、というか、更にその上の王族がやって来た。


 ここ、俺が今いる街には、俺たち以外にも、たくさんのソルジャーが配置されている。そんな俺達に、その日、全員集合がかかったのだ。


 宿舎の広場に、運動会の整列みたいに整然と並ぶ俺達。


 いったい、どうしたんだろう? 俺の後ろに並んでいるリチャードに、ちょっと尋ねてみた。


「なあ、いきなり全員集合って、何があったんだろうな。リチャード、お前、何か知ってるか?」


「ああ、何でも、ここに将軍か王族が来るらしいぜ。で、俺たち、いよいよこの街から出撃して、次の街に攻撃に行くらしい」


 マジかよ実戦かよ。


「おい……アドン」


 こそこそ声で、アドンを呼び出す。ポン! と空中から飛び出してくるアドン。相変わらず、呼ぶとすぐ現れる。今までも時々、こうしてアドンを呼ぶことがあったが、いつもすぐ出て来てくれる。こういうのって、地味に嬉しいよね。


「どうしやした? 旦那」


 アドンは、他のやつから姿は見えないし、声も聞こえないのだが、なぜか、こそこそ声で返事をしてくる。


 うん、でも分かるよ。こそこそ声で話しかけられたら、何となく、こそこそ声で返事しちゃうな。


「なあ、アドン、戦争ってどんな感じ?」


「どんな感じって言われやしても……ユニット同士、戦うんでゲスよ。お互い、少ないユニットでの小競り合いから、殆どすべてのユニットをぶつけ合う大戦まで、いろいろでゲス」


「やっぱり、たくさん兵が死ぬよね?」


「そりゃあそうでゲス。種類によりやすがね。ソルジャーなんかは生還率低めでゲス。最前線で戦う、まあ言うなれば、将棋の歩、でゲスからね。ケケッ」


 ……笑い方がゲスいなぁ、アドンよ。リアルに「ケケッ」て笑う奴、初めて見たわ。


「まあ、勝ち戦なら、かなり生還率は上がるでゲスよ。味方が勝つことを祈るしかないッス。」


 まぁ、そりゃそうだけどな。


 ステータスを見れば分かるとおり、俺達は弱い。数を揃えなければ、戦力にはならないだろう。


 いざ戦となれば、他の強いユニットの活躍に期待するしか無い……かな。


 そんな事を考えていると、俺達の前に、何人かの人がやって来て、一段高いところに立った。そのうちの一人の男は、マントを着けていて、服装も、なんか高級感が凄い。


 後ろには、美女の騎士も一人付いている。周りに居る残りの数人は、こいつの護衛かな? 周りに人を侍らせて、フフンって感じでニヤけている。いかにもな感じのやつが来たな。


 リチャードに、また聞いてみる。


「おい、リチャード……あの偉そうにしてるのは誰だよ?」


 リチャードはあくまでもイケメンの雰囲気を崩さず、ヤレヤレといった表情で、俺に答える。


「お前、知らないのかよ、あの方は我がヤマガタ王国の王子、ザコッキー様だよ。ここに来たということは、今回の戦の大将だぜ」


「王子というのは、将軍の中でも、親族なので更に特別な立場って感じでゲスよ」


 耳元で、アドンも追加情報のフォローを入れてくれる。


 マジかよ、あれが大将かよ…… なんか、バカそう…… そんなことを思っていると、


「し ず ま れ えええい!!」


 いきなり、一人の大男が、でかい声を張り上げた。


 ザコッキー王子って奴の、隣にいた男だ。いきなりの大声で皆、びっくりして背筋を伸ばし、前を向く。


「今から、お前たちに、ザコッキー王子様より、お言葉がある! 心して聞けい!」


 大声を出した男がそう言うと、ザコッキー王子が一歩前に出て、俺達に向かって話し出した。


「おほん、私がこの国の王子、ザコッキーである! 我々は今から、隣の国、ニイガタ王国に攻め込み、そこにある街々を奪う! 皆、ここで手柄を立てれば、褒美は思いのままぞ! 存分に力を振るえ!」


 ザコッキーがそう言うと、横に控えていたさっきの男が、また大声で、「拍手!!」 と叫ぶ。


 慌てて、拍手をする俺達。ザコッキーは満足そうに笑うと、後ろに下がっていった。……なんか、あんまり大物じゃあなさそうだな……


 そんなこんなで、ザコッキー王子を大将として、俺達は駐留していた街から出て、進軍を開始した。


 進軍を始めて、もう3日経つが、目的地には、まだ到着していない。俺達、歩兵にあわせて、他のたくさんのユニットたちも進軍している。かなりの大軍だ。数千のユニットがいるんじゃないか?


 王族であるザコッキー王子の特殊技能は、機動力が上がるものらしい。王子を中心とした、ある一定範囲のユニットの移動速度が上がる、と言うものだ。


 今、歩いている俺達の横を通り過ぎたのは、ユニコーンに乗った女騎士の一団だ。なんか、凄い頼もしいな。強そうだしね。数も多い。うちの軍の主力の様子だ。


 空には、グリフォンっぽいのが飛んでる。他にも、翼の生えた人間みたいなのも飛んでいるぞ。


 俺達の前方と、後方には、大きさ3メートルくらいか、人間の二倍近くの大きさの……あれは、土で出来たゴーレムだよな? ゴーレム達も歩いている。ゴーレムの肩に乗っているのは、操っている魔法使いかな?


 アドンの話だと、ユニコーンナイトって言うのが、俺達の国、ヤマガタ王国のオリジナルユニットらしい。安い割にまあまあ強く、コスパの高い部隊らしい。他の国なら、騎兵といったところだが、騎兵より数段強い。


 あと、空を飛んでいる羽の生えた人は、魔族らしい。空から、魔法とか弓とかで攻撃するらしいよ。そんなのも雇えるんだな。


 こんな感じで進軍している間も、俺は魔力が回復し次第、チョコを出すようにしている。いろいろ試してみて、ストロベリー味のチョコを出すことに成功した。また、これは魔力をちょっと大きく消耗したが、ピーナッツチョコを出す事にも成功した。


 この時には、地味に感動した。ピーナッツ入りだよ? 凄くないか? だったら、麦チョコとか、マカダミアナッツチョコとかも出せるって事だよ。がぜん夢が広がってくるね。


 でも、砂や石が入っているチョコは出せなかった。あと、砂糖だけを出す事も出来なかった。どうやら、チョコに入っていても問題ない……と言うか、おかしくない物だったら、チョコと一緒に、という事で出せるようだ。


 そんな事をしてるうち、俺の魔力も増えてきたようで、チョコを1日2個くらいは、余裕を持って、出せるようになって来ている。


 俺が、この世界に来てから2週間くらいで、魔力が2倍になったという事かな。この調子でいけば、もっとチョコも出せるようになりそうだ……


 こんな感じで、俺達、ヤマガタ王国の兵は、敵の守る街へと進んで行った。


「なあ、ユータロー」


 不意に、進軍しながら、リチャードが俺に話しかけてきた。


「……俺、この戦いが終わったら、俺の彼女と結婚するんだ……」


 何を言ってるんだ、死にたいのか? それは言ったらアカンやつや、死ぬぞリチャード。


 そんな、リチャードの死亡フラグを回避するべく、横から口を挟んでくるのは、俺達のユニットの最古参、バッツさん(30歳、バツ1)だ。カッコいいあごひげが、彼のトレードマークだ。


「戦いが終わったあとの事を、今から考えてると、生き残れるもんも、生き残れなくなっちまうぞ? それに……」


 バッツさんは、アゴの無精髭を撫でながら、遠い目で空を見る。


「そんなになぁ、結婚なんて思ってる程、良いもんでもねぇぞ?」


 何が過去にあったんだろうな、バッツさんは。今度一緒に酒を飲む事があったら、聞いてみようかな。


「おいおい、若い奴の夢を壊すなよ?」


 そんなバッツさんを嗜めるのは、うちのユニットの2番目、モゲロさん(32歳、妻&子共一人)だ。声のダンディさには定評がある。


「まあ、リチャード、取りあえずは、今目の前にある戦いに集中しろ。ここで死んだら死にきれんぞ? あとな、バッツはああ言うがな、何だかんだ言って、家族ってのは良いもんだぞ?」


 モゲロさんのそんな言葉に、リチャードも、


「もちろん、目の前の戦いには集中してるさ。俺もこんな所で、死ぬつもりは無い。しぶとく生き残ってやるぜ」


 と、キリッ! となって答える。


 俺たちのユニットは、それなりに会話も有り、人間関係は概ねいい感じだ。


 皆、無事に帰還できれば良いが……なんて事を考えながら、俺達は歩き続け……そしていよいよ、敵の守る街が見えてきたのは、その日の、昼過ぎの事であった。


「全軍、そのまま歩きながら聞け!」


 あの大声オヤジが、声を張り上げる。


「これから、我等は敵の街に接近、そのまま攻撃を開始する! 各自、武器を確認せよ! 戦闘の際は、指揮、命令に従うように! わかったか!!」


「おう!!」と答える、俺達ソルジャー組。


 俺たちは、メイン武器として、剣と盾、そしてサブ武器としては、弓矢を装備している。状況に合わせて使い分ける感じだ。


 一応、今までの間に、訓練を受けては来ていたから、それなりに、剣や弓の扱いは出来るようになっているが、あくまでも、学んだのは基本的な事だけだから、まあ、俺はそんなに戦力にはならない……と自覚している。


 それでも、何か……いざ戦うとなると、気持ちが高ぶってくると言うか、ピリピリしてくる。


 味方が多いからかな? 


 いかんいかん、とにかく、死なないように気をつけて……ヒャッハー! みたいな感じで行ったら駄目だ。落ち着け。


 敵の街が近づいてきた。もう、残り数百メートルだ。


 騎兵を防ぐための柵があるのが見える。あと、あれだ。櫓みたいに、高い所から攻撃する場所もある。敵はもう配置に着いてるな……


 後ろから、馬車と言うか、指揮官用のローマの戦車みたいな奴……に乗ったザコッキーが、号令をかけた。


 この前は、バカっぽい……とか考えててごめんよ。良い指揮を頼むぜ……王子さま。


「ゴーレム部隊、前へ! 柵と櫓を破壊せよ!」


 味方のゴーレムたちが、前に出る。敵からは、弓矢での反撃が始まった。櫓からも矢が飛んでくる。でも、何かゴーレムにはあんまり効いてないみたいだ。火の玉も飛んできてるけど、そっちは……ゴーレムもダメージ食らってる感じだな。あ、でも、火の玉に当たったところ、修復してるな。ゴーレム、けっこう強いな。


「ゴーレムには、核となる玉が中に入ってるでゲス。それを壊すと、ゴーレムは無力化するでゲスよ。矢とか、魔法が、上手いことゴーレムに当たれば、動きも止まるんでしょうけど、あの様子じゃなかなか難しそうでゲスね、ケケッ」


 俺の左肩の上辺りにふわふわ浮いてる、アドンの解説を聞きながら、俺たちも進軍していく。


「魔族部隊、空から魔法でゴーレムを援護! グリフォンは、魔族へ攻撃してくる、敵の飛行部隊に反撃せよ!」


 ザコッキー王子が、再び命令を出す。


 おおっ……? なんか、まともな采配っぽくないか……? ここまで、何かいい感じじゃ……? 偉そうにしてるだけの事はあるのか? あの王子さまは。


 空から、翼の生えた、あの魔族と言われてたユニットが、魔法みたいなもので、地上部隊を攻撃する。


 すげえ…… 


 マンガの世界みたいだ…… かめ○め波みたいなんが、空から地上へと打ち込まれてる。 


 地上からも、対抗するように、魔法での反撃が行われている。対空砲みたいに、魔族へ、エネルギー弾的なものが飛んでいく。


 激しい撃ち合いだ。


 攻撃されている味方の魔族の被害も、少し出てきている。


 更に、敵も空を飛ぶユニットを出して来た。


 小型の、飛竜みたいな奴だ。


 そいつ等には、グリフォンが対応している。素早く接近していくと、爪や牙での攻撃を行っているようだ。こっちの方が数が多い。


 あっちでもこっちでも、激しいドッグファイトみたいな戦いが始まっている。……うおお、凄え……


「重装歩兵、前へ! ソルジャー部隊は、陸上部隊の援護!」


 号令と共に、重そうな全身鎧の兵士たちが、隊列になって前に出た。そして、そのすぐ後方から、俺達も続く。俺たちの鎧は、兜と胸当て、すね当てぐらいだ。重いは重いが、それほどキツい訳でもない。


 敵も、歩兵部隊を繰り出してきた。敵の中には、騎兵も居るな。


 俺たちソルジャー部隊は、接近戦になるまでは、弓で攻撃する。俺も力及ばずながら、弓矢で敵の歩兵を攻撃開始だ。


「弓引けっ! ……よしっ! 放てっ!」


 隊長の号令に合わせ、一斉に矢を放つ、俺達ソルジャー。


 本格的な戦が、いよいよ始まった。

 

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