あっさり
3メートルを超える大きさの、人間型ゴーレムの突進。
騎馬で編成されたサイタマ帝国の兵には緊張が走り、馬たちには恐れが広がる。
「恐れるな! 銃と魔法で迎え撃て!」
将軍、ステゴ・マーの号令で、訓練された精鋭の兵たちは、各々銃や魔法での攻撃を開始した。
突進してくる15体のチョコレート・ゴーレムに向けて放たれる、千の兵からの攻撃。圧倒的な兵力差の前に、ゴーレムたちはあっという間にやられる……と、ステゴ・マーも、その兵たちも思ったかも知れない。
しかし、そうはならなかった。
銃弾が当たっても、まるで何とも無いかの様に走ってくるゴーレム。
攻撃魔法が当たり、ゴーレムの体にえぐった様な傷跡が出来ても、直ぐにその傷跡は消えて元に戻り、何事も無かったかのように迫ってくるゴーレム。
この程度の攻撃ならかわす必要もないと言わんばかりに、ゴーレム達はあっという間に接近し、その拳で兵を一撃。
スピードの乗った強力な打撃は兵の体を直撃し、口から血を吐きながら馬の上からふき飛ばされた兵は、その後ろにいた別の兵にぶち当たり、その兵もまた、馬から落とされてしまった。
魔力で凍って固まっているゴーレムの拳を受けて吹き飛ばされた兵の胸当ては、まるで粘土に鉄の玉を落としたかの様に、大きくへこんでいた。
また、別の所では、ゴーレムの両手が伸び、近くの兵の腕を掴んだ。すると……
「ぎゃあああ!!」という叫び声と共に、ゴーレムに掴まれた兵の腕からは、ジュゥ……と皮膚が焼けた音がする。
これもまた、魔力により熱せられたゴーレムの腕による攻撃。
最大500度程度まで、このゴーレムたちは体を熱くすることができる。枯れ草や紙なら、発火し始める程の熱さである。
ゴーレムの腕は、まるで溶けたチョコレートの様に兵の腕から、肩、首へと覆っていく。その間、わずか2〜3秒。叫び声も、すぐに聞こえなくなり、その後少し経ってチョコの腕が兵を解放したあとには、所々皮膚が黒く焦げた、一人の人間の死体が残された。
兵たちによる銃も、魔法も、或いは決死の突撃も、全く効果は無し。
ゴーレムの攻撃により、帝国の兵たちは次々と倒れていく。
空から飛竜が援護すべく攻撃してくるが、ゴーレム達から放たれる、熱々チョコ弾を受け、悲鳴を上げながら次々と落ちていく。
うむ、これは完全に圧倒している。今回が初めての実戦投入だったが、これなら問題ない。
よし、ここはあのセリフで決めよう……そう俺が思った時、一緒に横で見ていたディオスが口を開いた。
「クックックッ……圧倒的ではないですか、我が軍は!」
はぁうッ……! 言われたッ……! 先に……言われた……ッ!
それを言いたかったのに……。
激しく動揺している俺にリッカが気付き、大丈夫か尋ねられたが、「あ、ああ……いや、何でもない、何でもないんだ……」としか答えられない俺。
謎の敗北感に包まれている俺をよそに、あっという間に敵兵を取り囲み、殲滅するゴーレム達。
何か、いつの間にか相手の将軍も死んでた。
生き残りは、逃げた数匹の飛竜のみ。陸の騎兵たちは逃げる事も叶わず、何も出来ずに敵さんは全滅した。わずか数分の間の出来事であった。
横で見ていたアドンの、「瞬殺でゲスね……ケケッ」と言う声だけが、静かにバルコニーに響いた。




