戦闘開始
サイタマ帝国軍将軍、ステゴ・マーは、個の力を最重要と考える男であった。
若くしてサイタマ帝国に召し抱えられ、その後、度重なる武功により、23歳で将軍の地位を与えられたのが、去年の話である。
その後も、戦争の際には先陣を常に切る活躍を見せており、配下にも腕自慢の猛者を何人も抱えていた。
圧倒的な個の力の前では、雑魚が何人集まろうが意味はないと考えていた彼は、今回も素早い移動で敵に迫り、先手必勝で攻撃を仕掛けるつもりであったのだが……
―――
敵の接近については、偵察用鳥型ゴーレム"みえーる君"により、俺達は予め分かってはいた。ただ、思ったよりもずいぶん早い進軍で感心した。
第二ゴーレムハイツが、小さくプシューと音を立てながらゆっくりと停止する。別に移動しながらでも戦えるのだが、今回は最初の戦いでもあるし、相手と少し話したい。
騎馬で接近してきた敵の将軍らしき男、恐らくあいつがステゴ・マーであろうと思う男を見つけ、取り敢えず二階のバルコニーから出てくる俺たち。
どこをどう通って来たか分からないが、ロッキー2世もバルコニーに出てきた。バルコニーは、ユニコーンでも立てるほどのゆったり設計である。
ロッキー2世のやつ、だんだん角が伸びてきたけど、途中で折れてるのが痛々しいな……
「さて、では二人共良いな? 私が代表して話すということで」
「俺はもう敵兵は全滅で良いと思うんだがな……」
「私など、敵兵どころか敵国民皆殺しでも良いと思っておりますがね……」
リッカは優しい。
リッカが敵とみなし、復讐の対象としているのは、皇帝ケンイチ、そしてあの時俺たちを生き埋めにしたマハールの二人だけだ。残りの奴らは、降伏するなら助けても良いと考えている。
それに対し、俺とディオスの考えは以下の通り。
俺:サイタマ帝国の軍が復讐の対象。一般市民には恨みはないが、兵が降伏してきても許さない。
ディオス:サイタマ帝国に属する全ての者は、一般市民も含めて復讐の対象。元が別の国の者であれば、降伏するなら許す事もあるが、元から帝国の人間だったら無抵抗の市民であろうと殺す。
という風にそれぞれの復讐観は違うのだが、結局、三人で話し合いをして、「お互いに邪魔をしない」みたいな結論になった。
もし、俺が目の前にいるサイタマ帝国の一般市民を許したら、ディオスはそれを尊重する。
逆に、もしディオスが一般市民を殺しても、俺やリッカはそれを咎めない。
何か、そんな感じで決まった。と言うことで、今回は最初にリッカが降伏勧告をするのだ。それをさせないという事までは、俺達もしない。
さて、俺達の前には敵がすでに接近しつつあり、もう声も届く距離だ。
そこでリッカが、敵に向かって大声で話しかけた。手には何やら訳のわからないメガホンみたいな道具を持っている。ディオスが発明した物で、それで話しかけると声が大きくなる。理屈は知らんけど。
「サイタマ帝国の軍だな? 我々はヤマガタ王国軍である! 大人しく降伏して捕虜になるなら命までは取らない! 武器を捨てよ!」
まあ、リッカは優しいのは分かるけど、敵さんは向こうから来てるんだし、会っていきなり降伏するなんて無いだろうな。
うん、向こうの将軍っぽいやつ、何か怒って叫んでるし。
「よーし、もう良いよな? リッカ。相手は降伏しないみたいだし。そろそろやっちまうぞー」
「私の方も準備は完了です。さあ、行きましょう」
俺とディオスに言われて、仕方ないという顔で頷くリッカ。リッカだって、向かって来る敵まで許してやるつもりは無い。
さて、やりますか。まずは俺から。
俺が手を前に出し、集中すると、その前の空間から大量のチョコレートが出てきた。その量は、大きさで言えばこの第二ゴーレムハイツとほぼ同じ位だ。それが、目の前の宙に浮いている。
「クックックッ……今日もいい感じでは無いですか……。ユータローの魔力が満ちているこのチョコレートなら、良いゴーレムが出来ますよ……」
そう言うと、ディオスは両手一杯のゴーレムの核を、チョコレートの中に放り込んだ。
チョコレートが、ゴーレムの核の数に分裂し、そして地面に落ちる。落ちたチョコレートは、だんだん人の形を取り始め、そして数秒のうちに、ゴーレムとなった。
チョコレート・ゴーレムだ。
「ふむ……上出来ですぞ。一騎当千の兵どもの誕生です」
そう言うディオスの目の前には、大きさ三メートル程の茶色のゴーレムが、ええと……15かな。15体、並んでいる。
「よし、じゃあリッカ、仕上げを頼む」
「了解だ。では……」
今度は、リッカの番だ。リッカは、指揮官としてこの三年で物凄く成長した。そこだけを徹底的に高めたのだ。
「兵たちよ! 私の号令の元、敵を滅ぼせ!」
リッカがそう叫ぶと、ゴーレムたちの目の辺りが、ピカーンと光る。リッカの号令により、強化されたのだ。
「クックックッ……。ユータローの魔力が満ち溢れたチョコレートの素体を使い、私のゴーレム核で強力なゴーレムを作る……そして、リッカの強化により、能力のみならず、知性、判断能力までもが強化されたこの子たちは……まさに不死身かつ無敵ッ……!」
ディオスのやつは、完全に悦に入っているな。
「攻撃開始!」
リッカのこの声で、15体のチョコレート・ゴーレムが、騎馬を超える程の、信じられないほどの速さで敵に向かって走り出したのであった。




