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やっと来てくれた敵さん

「ふむ……」


 目をつぶっていたディオスが、すうっと目を開いてつぶやいた。


 ここは、移動用ゴーレムである"第二ゴーレムハイツ"の102号室。


 先程から移動を始めたこの大きなゴーレムは、確かにディオスの言うとおり、動いていても振動がほとんど気にならない。


 リッカは先程から、自室で休んでいる。そして、俺とディオスの二人はリビングで寛いでいるところである。


「ミカ氏より、帝国の軍がカワゴエを出陣したとの情報が入ってきましたよ」


 おっ、出陣したか。


「そうか、ようやく帝国と戦えるな。そいつら、早く来ないかな」


「クックックッ……気持ちは分かりますが、こちらもサカタを出発したばかり。しかものんびり進軍中……。相手が馬でこちらを目指しているとしても、出会うのに2週間位はかかります。まあ、のんびり致しましょう」


 そう言って、ディオスはまたリビングのソファに深く体を沈めた。


「私の調査によると、敵の将はステゴ・マーと言う男のようです。この男は確か……個の武勇に優れていたと記憶しておりますな」


 ディオスがそんな事を話していると、リッカが、ドアを開けて自分の部屋からリビングに入って来た。


「話は聞かせてもらった」


 そう言ってリビングのソファに静かに座り、足を組むリッカ。その所作は、洗練された騎士のそれだ。何と言うか……空気が乱れない感じ? とでも言おうか。


"話は聞かせてもらった"とか、ちょっと言ってみたいセリフだったな……等と思っている俺をよそに、会話は続く。


「敵の戦力はどのくらいか分かるか? ディオス」


 そう尋ねるリッカに、ディオスも、「少しお待ちくださいね」と答え、静かに目をつぶる。


 ディオスが目をつぶっている時は、ゴーレムが拾った音声や、見たものをディオスも共有してる時だ。どんな仕組みがわからないが、とにかく便利な事この上ない。唯一の欠点は、その時目を閉じて集中する必要がある、という事くらいだ。


「はい、分かりましたよ。カワゴエ近辺に放っている偵察用鳥型ゴーレム、"みえーる君"からの画像が入ってきました」


 あのカラスみたいな鳥型ゴーレム、みえーる君って名前なんだ……


「兵は騎兵がおよそ千、それと飛竜が百ほどでしょうか。陸と空からこちらに向かっていますね」


「ふっ……そうか、千人……私達三人と一頭相手に、千人か……」


 そう言って、優雅に足を組み替えるリッカ。ロングスカートだから足は見えない。けど何故か組み替えるときにリッカを見てしまう俺。何でだろう。


「クックックッ……そうです。私達相手に、たった千人……」


 そんな事を言いながら、メガネを指でくいっと上げ、ニヤリと微笑むディオスの凄い悪役っぽさに、ちょっと嫉妬している俺。


「まあ、戦力のテストにはちょうどいいかな。楽しみに待っていよう、敵さんがここまで来るのを」


 そう言いながら、俺はアドンを呼び出す。


「なあ、アドン」


「へい。こちらにおりやす」


 ポンと空間から飛び出てくるアドン。心なしか、少し嬉しそうである。最近あんまり呼んでなかったからかな?


「ちょっと確認だが、現時点で、帝国はどこまで勢力を伸ばしてる? 国はあといくつ位残ってるんだ?」


 アドンに最近ではあんまり聞くことも減ってきたが、世間の一般情勢等を聞きたいときは、やはり重宝している。


「へい、あくまでも話せる範囲でお答えしやす。サイタマ帝国は大陸の南側と中央部を完全に支配、北側にも大分勢力を伸ばしておりやす。北側でまだ帝国に臣従してないのは、ヤマガタ王国以外ではもう片手で数える程になっておりやす」


「そうか、じゃあもう殆どこの大陸はサイタマ帝国に支配されてると言うことになるな」


 アドンの言葉に、リッカが答える。


 アドンに、「リッカとディオスたちにも見えるように出来ないのか?」と聞いてみたところ、出来ると言う事だったので、リッカ、ディオス、それとついでにロッキー2世にはアドンが見えるように姿を表してもらい、そして話も出来るようにしてもらっている。


「へい、そうでゲス。現時点で帝国に喧嘩を売っている国は、ヤマガタ王国ただ一つでゲスね」


「そうか、分かった。それなら帝国は全力でこちらと戦えるな。負けたときの言い訳も出来ない、という事だな」


「クックックッ……それに、敵の兵が全部こちらに寄って来ます。手間が省けて全く好都合……」


 そうだな。ディオスの言うとおりだ。


「アドン、ここから先は、俺の横でずっと消えずに見ていられるんだったよな? 色々面白いものを見たいって話だったよな?」


 俺がそう言うと、アドンもニヤリと笑い、嬉しそうに顔を綻ばす。相変わらずゲスい笑顔だ。


「へいっ、神様から許可は頂いておりやす。ここから先は旦那に付きっきりでOKって事になっとりやす!」


 アドンのやつ、他にも仕事があるのに、あのジジイ神にお願いしてずっと俺のそばに居てもいいと許可をもらったらしい。野次馬根性丸出しである。


「旦那……あっしは嬉しいでゲスよ。マハールにやられちまってから苦節三年、旦那の魔力はあの時とは比べものにならない程強くなりやした! この反撃の日、待ってたでゲス!」


 そう言ってくれると嬉しいねえ。


「アドン、まあ見てろ。スカッと帝国に勝利してやる」


 フッと不敵に笑い、俺はアドンに答えた。俺が不敵に笑ってもどうもいまいち決まってないが、まあ良い。


 そんな感じで、俺達がのんびりジョギング程度の速さで進軍する事、一週間後の、とある午後。


 ちょうど、リッカがディオスに、なぜロッキー2世の小部屋が101号室で、大きい方の俺達のメインルームが102号室なのか、そんな事を聞いていた頃。


 敵の一団が、ようやく俺たちの前にやって来てくれたのであった。

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