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出撃

 ここは、復活したヤマガタ王国の町、サカタ。


 その町のとある家の一室にて、俺達三人はのんびりとテーブルを囲み、ソファに座っている。俺とリッカは、先程俺が出したピーナッツチョコを口に入れたりしながら、目をつぶっているディオスの方を見ている。


 ふと、今まで目を閉じて何かと交信していたディオスがすうっと目を開け、言葉を発した。


「先程、私が遣わしたゴーレム君が、ケンイチのいる王宮に入ったようです。今頃はもう騒ぎになっている事でしょうな」


 椅子に深く腰掛け、鋭い目をメガネの奥で細め、口の端を少しばかり上げて微笑むディオスの笑う顔は、何というか、こう……悪役感がもの凄い。


 ディオスのちょっと怖い笑顔を受け、それに微笑むリッカの笑顔はこんなに優しいというか、正義の味方感が半端ないのに、何で同じ笑顔でこんなにも違うのだろうかと、ある意味感心する。


 リッカの事を、リッカさんともう呼ばなくなって、もう結構な月日が経つ。


「そうか……では、我々もいよいよだな。サイタマ帝国に向けて出撃しよう」


 椅子から立ち上がろうとするリッカの横で、俺はディオスに尋ねる。以前からディオスに任せていた事があって、その件だ。


「なあ、ディオス、サイタマ帝国まで進軍する乗り物の事だが……」


「ええ、分かっていますとも。準備は万端です。この私のゴーレム研究の成果、とくとご覧に入れましょう」


 そう言って、ディオスは俺とリッカの二人を先導するように、町の外れにある空き地まで先に歩いて案内する。


 空き地には、やたらでかい何かが置いてあった。


 これは、何と言うか……大きなクモ? カニ? みたいな物だ。デカい。とにかくまずデカい。平たい、言うならばシーチキンの缶詰みたいな形の"胴体"の部分は、直径20メートル位はあるんじゃないか? その胴体の高さは5〜6メートルくらい、二階建ての建物くらいの高さか。側面には窓やバルコニーらしきものが見える。


 そんな胴体部分に、カニとかクモみたいなデカい脚が八本付いて、その胴体を支えている。前方と思わしき部分には、何やらカニのハサミみたいなものも付いているな。脚やハサミも、10メートルくらいの長さは有りそうだ。材質は何だろう? 金属っぽくもあるし、粘土っぽくもある。


「これは……?」と、呆けた顔のリッカの口から質問が漏れるのを待っていたかのように、得意満面でディオスは説明を始めた。


「クックックッ……。これこそ、今回の遠征用ゴーレム、"第二ゴーレムハイツ"です!」


 第二……ゴーレム……ハイツ……だと……? 何だ、その新しいパワーワード的な何かは? 


 新手のアパートか、何かの名前か? それと第二って事は、第一もあるのか? 


 頭の中がまだ整理されていない俺と、同じくまだよく分かってないであろうリッカ。


 そんな俺達に、ディオスの説明は続く。


「さあ、こちらの102号室からご案内致しましょう。あ、ちなみに、101号室はロッキー2世君の厩舎となっております」


 ディオスが何かすると、八本の脚に支えられ、浮いているようになっている胴体の下から、ウィィィィン……と床が降りてくる。


「既に、ロッキー2世君には部屋にお試しで入って頂いております。さあ、お二人はこちらへ」


 102号と書いてある表札の扉を開けると、そこには玄関があった。タワーマンションによくある様な造りの、それ程大きなものではないが、おしゃれな感じと言うか、ちょっと高級感があると言うか、清潔な感じの玄関だ。


 玄関を抜けて更にドアを開けると、そこには大きなリビングルームみたいな部屋があった。


「いかがです? 面積の制限は有りますが、リビング、応接室、客人用の寝室、そして我々三人分の個室まで、しっかり確保致しましたよ!」


 ディオスの説明は、更に続く。


「シャワー、トイレも一階と二階の両方に完備! キッチンも機能性を重視しつつ、食材の保管用のスペースまでをしっかりと確保! 会話も弾む対面型キッチンを採用しております! 周辺の空気中の水分を集めて浄化するシステムを採用し、空調ともリンクさせる事により、快適な住空間の湿度調整を実現!」


 ディオスよ、俺達にはキッチンで会話が弾む必要があるのか……?


「一階には一面に大きな出窓を配置する事により、周辺の異常事態や敵襲にもいち早く気付けますし、ここから快適な采配、指示も可能! 二階にも、ぐるりと取り囲むようにバルコニーを配置! 更には屋上にも上がれますから、全方位への反撃を可能としておりますよ!」


「快適な……采配……?」


 ポツリとそう呟くリッカの言葉を完全にスルーしつつ、どこかの怪しい不動産会社の回し者の如きセリフを吐きながら、俺達二人を案内するディオス。


 リビング? にある窓の一つを開けると、その窓の向こうにはユニコーンのロッキー2世が居た。「ブルッ!」と俺達に顔を向けて、どこか満足そうな、ロッキー2世。


「このように、隣の部屋、101号室にいるロッキー2世君とは、窓一つ開ければコミュニケーションが可能です! ロッキー2世君の食事やおトイレ等は、自動的に給餌、清掃されるため心配不要! 気になるニオイがもし有っても、空調により気流をコントロール、厩舎の空気は部屋には入って参りません!」


「おっ、おう……」としか答えられない俺。


 二階への階段を登りながら、だんだん説明のテンションが上がっていくディオス。


「快適さを確保しつつも、十分な防御能力、機動性を実現! 八本の脚が生み出す、敵の騎兵も追い付けない移動スピード、魔法攻撃にも十分耐える装甲、そして損傷の自動回復機能も搭載! まさに動く司令塔! そして、激しい動きにも関わらず、室内の遮音性、免震性能も抜群! 集音マイクで聞きたい音は聞き、うるさい騒音はシャットアウト! 振動にも強く、激しい戦いの最中でもグラスのワインをこぼす事なく楽しめます!」


 ディオス……お前は戦いの最中にワインを飲んで過ごすつもりなのか……?


 二階のホールまで歩いて来て両手を広げ、くるりと回ってこちらを向くディオス。


「この私の開発したゴーレムハイツは、サイタマ帝国首都・カワゴエまでの快適な旅を、皆様にお届けする事をお約束いたします!」


 ディオスよ……今度は、どこかの旅行代理店の人か、航空会社の回し者の様なセリフも吐いているな。


 それに対し、「あ、ああ……」 「そ、そうだな……」等と、二世帯住宅を作りたい親に、無理矢理モデルルームに連れて来られてしまった若夫婦の様な対応しか出来ない、俺とリッカ。


 移動用のゴーレムを作るって言ってたから、てっきり馬型のゴーレムを作ってくれると思っていたが……完全に予想と違うのが来た。


 色々聞きたいことはあるが、まあ、先は長い。時間はたっぷりある。一つ一つ、ツッコんでいこう。


 ディオスの説明を受けた後、俺達はまた外に出て、出撃を見送りに来てくれた、モゲロさんの元奥さん、と言うべきか、未亡人となってしまったナイアと、その小さな子供に挨拶を済ませる。


「じゃ、かるーく仇を討ってくる。吉報を待っててね」


 俺が二人にそんな感じで挨拶しても、ナイア親子は目がゴーレムハイツに行ってしまっており、俺の言葉が入ってきてない様子だ。


「あんた達……凄いのに乗って行くんだね……」


 ナイアは、モゲロさんが死んでしまって以降、孤児院で働くようになった。ナイアの子供もそこに一緒に居る。


 孤児院には、たっぷり俺特製のチョコを置いていっているところだ。俺達が復讐を終えて帰って来る頃には、もう無くなっているかな? その時にはまたチョコを寄付しよう。


「では、行って来る。王や、ヤマガタ王国の将兵の皆にも宜しく」


 ザコッキー王には、サイタマ帝国に使者が着き次第、俺達が出撃する事は既に伝えてある。


 彼……ザコッキー王は、俺達が準備した王の椅子に、「私でも良いと言うのであれば……」と、何とか座ってもらえた。今は取り敢えず元ヤマガタ王国の兵や家来達が、少しずつ戻ってきている所だ。王は、俺たち三人の力を目の当たりにして、それ以来信頼してくれている様だ。


 リッカの元同僚達、ユニコーンナイトの皆さんも戻って来てくれつつある。俺達がここを離れても、問題無いように手配もしてある。ま、大丈夫だろう。


 リッカの挨拶の言葉を最後に、俺達三人と一頭は、この何か色々と凄い移動用ゴーレムに乗り込み、サイタマ帝国首都、カワゴエへ向かって進軍を始めたのであった。

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