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宣戦布告

 その日のサイタマ帝国首都、カワゴエの王宮は、少しばかり慌ただしかった。


 今や、大陸の南側だけでなく、北側も支配しつつあるサイタマ帝国。このまま行くと、大陸の覇者はサイタマ帝国でほぼ決まりであろう。


 北側の残った小国たちも、降伏してサイタマ帝国の傘下に入るのは時間の問題、そのような時のことであった。


 北側のニイガタ王国が、反乱により滅ぼされ、嘗てニイガタ王国に滅ぼされたはずのヤマガタ王国が復活したのである。


 何でもその反乱は、電撃的な速さの作戦により、被害はほぼ無しという見事な手際であったとの事。


 しかし、ただそれだけなら、サイタマ帝国にとってはただの外国で起こった事件であり、面白いニュース程度の事でしか無い。


 それでも、そのヤマガタ王国から使者がやって来たとなれば、これは一体どうした事であろうと、少しばかり王宮もざわつくのも無理は無かった。


 そんな中、帝王ケンイチは、一人泰然として、いつもと変わらぬ様子であった。


 ケンイチが先程言っていた言葉は、「どうせ、我が帝国との友好関係の樹立とか、傘下に入りたいとか、その様な話であろう」といったものである。


 ケンイチに取っては、北側の一小国が挨拶に来た程度、そのような認識であった。


 さて、ヤマガタ王国からの使者が謁見の間に入りケンイチの前に現れると、ケンイチはその使者を見た。


 使者は一人。若い青年のようだ。少年と言っても良いかも知れない。その若者が、ケンイチの前で跪いている。


 長く時間を取るのは面倒くさいので、ケンイチはすぐ要件を聞いた。


「で? 復活したヤマガタ王国が、何の用だ?」


 使者は、頭を上げ、それに答える。


「はい、まずは、こちらにあります映像をご覧下さい」


 そう言うと、その若者は目をクワッ! と見開き、顔を壁に向ける。


 そうすると、若者の両目から何やら強い光が出て、壁には何やら光景が映し出された。


 どよめく文官。剣に手をかける騎士。


 帝王ケンイチ、そしてその両脇で見ているマハール、メイファは、特に動揺もなく、特にケンイチは、「ほう、プロジェクターか」等と面白がってすらいる様子。


 壁に映された映像には、三人の人が写っていた。


 そのうちの一人の女性が話し始める。


「映像にて失礼。私はリッカ。以前そちらの帝国に世話になった者です。そしてこちらは同じく、ディオス、そしてユータロー」


 呆然と見ている帝国の者たちの前で、映像は続く。


「我らはこの度、ヤマガタ王国の将軍になった。そして、王の命により今からお前達帝国に対し、攻撃を開始する。と言うことで、これは宣戦布告だ」


「俺も一言言わせてくれよ」


 映像の中の、一人のアジア人が今度は話し始める。


「どうも、以前あんた方に殺されそうになったユータローです。今度はこっちからと言うことで、今から帝国を滅ぼしに行きまーす。真っ正面から堂々そっちに行くんで、頑張って抵抗してみて下さい」


「そういう事でございます」と、今度は、三人のうち黒人の男が話し出す。


「攻め込むのは、私共三人だけでございます。帝国の全武力を、力で捻じ伏せてご覧にいれる所存ですので、精一杯の抵抗を期待しております。あ、そうでした」


 そう言うと、黒人の男は一頭の白馬……いや、角が途中から折れたユニコーンか、それを画面の中に連れてくる。


「彼も、貴方方にひと蹴り食らわさないと気が済まないという事ですので、連れて行こうと思います。逃げたければご自由にどうぞ。どうせどこに隠れていても探し出して捕まえますので。では」


 そこで、プツンと映像は切れた。残ったのは、今まで目から光を出し、この三人の声で話していた、一人の若者。もはや、この若者が人間ではなく、ゴーレムか何かであろう事は皆分かっていた。


「以上です。尚、映像はこの後消去されます」


 使者の若者がそう言うと、若者は見る間に崩れ落ち、後には何やら茶色の物……チョコレートの大量のかけらが残っていた。


 呆気にとられて一部始終を見ていた者たちは、我に返ると、口々に怒りの言葉を発し始めた。


「何だこの無礼な映像は!」


「我々帝国に対して、事もあろうに滅ぼすだと!」


 そんな喧騒も、皇帝ケンイチが王座から手を振ると、すっと鎮まる。その両脇でニヤニヤしているマハールと、あくまでも無表情でたたずむメイファ。


 あくまでも不敵な態度のケンイチは、余裕の笑みを浮かべた。


「ふっ……どうやら、あの三人は余にユニコーンを一頭献上しに来るようだな」


 そのケンイチの一言を聞くと、一瞬、間があったが、その後王宮にどっと笑いが起こった。


 そんな中、ケンイチが再び手を降ると、また周りは鎮まる。


「さて……わざわざこっちまで来てもらわなくても、誰か適当にあのユニコーンをもらいに行ってやれ。ついでにアイツら三人は手足を切り落として連れて来い。余が謁見の名誉をくれてやろう」


 ケンイチがそう言うと、一人の将軍が進み出た。


「でしたら、この私、ステゴ・マーが奴等を連れて参りましょう。愚か者の体に、礼儀を叩き込んでやります」


「うむ。お前に一部隊預ける。行け、ステゴ・マーよ」


「はっ!」


 ケンイチの命に答えると、サイタマ帝国将軍、ステゴ・マーは、速やかに王宮から退出した。


 ここに、ヤマガタ王国の三人と、サイタマ帝国との戦争がはじまったのであった。

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