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王を訪ねる

 あの三人が行方をくらましてから、二年が過ぎ去った頃。


 今はニイガタ王国であるが、元々はヤマガタ王国の王都だった街の郊外に、とある農家がいた。一人の若い男と、その妻らしき若い女の二人が、そこには住んでいた。


 畑を耕す若い男の仕事ぶりには、多少のぎこちなさがまだ残っており、その男が農家になってからそれ程経ってはいない事が見て取れる。


 しかし、その男の一心不乱に鍬を振るっている姿からは、熱心に畑仕事に取り組んでいる事が窺えた。


 男は今日も朝からずっと畑を耕し続け、そろそろ昼になったので少し休み、食事も済まそうとして、家に戻ったその時。


 その家に、訪問者があった。


 訪問者は三人。


 一人は、衣服の上に軽装の胸当てを身に着けた、金髪の白人女性。凛とした雰囲気の中に、優しい、しかし意志の強さを感じさせる目の持ち主だ。肩より少し伸びた金髪が、風になびいている。


 女の手には手綱があり、白馬がその手綱に繋がれていた。……いや、よく見るとその馬はただの白馬ではなく、額に折れた角の跡が残っているのが分かる。ユニコーンだ。


 もう一人は、黒い軍服とコートを身に纏い、縮れた髪を短く刈り込んだ、眼鏡をつけた長身の黒人の男だ。その視線は鋭く、どこまでも冷たく、どこまでも深く突き刺さるかのような錯覚すら覚える。


 この男の前では、何も隠せない。そんな雰囲気をこの男は漂わせていた。


 そして、最後の一人は、ゆったりとした茶色の衣服、片手には背丈よりも長い、輪っかのついた杖を持つ、ボサボサの髪を気にもしていない様子の風変わりなアジア系の男だ。


 そのぼんやりとした表情からは、何を考えているのか読み取るのは難しい。まるで世捨て人か、仙人のような雰囲気すらもその男からは感じられる。


 三人とも、年は二十代後半といったところか。


 訪問者の三人は、ちょうど家の前にいた、怪訝な表情で三人を見ていた農夫の前まで来ると足を止め、三人のうちのアジア系の男が声をかけた。


「……あんたが、元ヤマガタ王国の王子、ザコッキーだな?」


 農夫は、その言葉を聞いて体を一瞬震わせるようにびくっとさせると、恐る恐る口を開いた。


「あなた方は、いったい……?」


 金髪の女が、それに答える。


「恐れるな。我等は、元ヤマガタ王国の者。貴方を再び王にすべく、ここへ訪ねてきた。話をしたいのだが、構わないか?」


 それを聞いて、その農夫――ザコッキーは、力なく返事をした。


「確かに……私は、かつてはザコッキー王子などと呼ばれておりました。しかし今はご覧のとおり、ただの一平民の農夫に過ぎません。王などと言われても……」


 今度は、黒人の男が口を開いた。


「ふっ……確かに。今の貴方はかつての身分も隠し、名も変え、こうやってひっそりと町外れで畑を耕す、一人の農夫……」


「……その通りです。そして、もう今は父も母も、兄弟たちも死にました……部下も誰一人おりません。私はもう王族でも何でもないのです」


「ええ。その話も知っておりますとも。一年前に王族と元ヤマガタ王国の者たちが起こした反乱もね。そして反乱はニイガタ王国に鎮圧され、王族は皆処刑、そして貴方だけが見逃された。その理由は、反乱分子をおびき寄せるためのエサ……。こうやってあなたの元に言い寄ってくる者達を捕らえるため……」


 黒人の男のその言葉に、ザコッキーは訳がわからないという顔をする。


「そこまで知っているなら、何故危険を犯してわざわざここに……? 今、あなた方三人は監視されていますよ……?」


 白人の女が、今度は口を開いた。


「監視の者達なら、既に先程片付けた。この程度の数では、私達を捕らえるには足りぬな」


「な、何と……?」


「そういう事。リッカ……ああ、この女の人の事ね。この人の言うとおりだ。この辺りに潜んでいた奴等はすべて眠らせている。だからこの話を聞かれる事はない。安心してくれ」


 茶色のローブの男がそう言って指さした先には、眠っているのか、木の根本で倒れている男が見えた。


「あ、あなた方は、一体……」


そう言うザコッキーに、黒人の男がまた答えた。


「改めて申し上げます。私達は、貴方をまた王に戻し、サイタマ帝国を倒すため、そして貴方を大陸の王にするため、ここに来たのです」

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