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この世界と自分を理解する

 チョコレートを出すのが俺の能力だとっ……!? 何それ……一体何の意味がッ……


 しばらく愕然としていた俺であるが、頭を切り替えて、素早く立ち直った。ていうか立ち直るしかないよね。


 まあ、何も無いよりはマシと思うしかないな。いざという時、餓え死にしそうなときなんか、役に立つこともあるかも知れないしな。うん、そう思おう。


 取り敢えずいつまでも膝から崩れ落ちてる場合じゃないので、俺は膝に手をついて、立ち上がった。


 アドンが、心配そうな、憐れむような、残念な人を見る時のような、微妙な表情で俺を見つめる中、俺は手に付いた土を払いながら言った。


「まあ、いいや……どうせやり直しなんか無しだよな? だったらこれで行くしかないだろ。気を取り直して行こうじゃないの。で、アドン、他にも説明有るんだろ? この世界の事、色々説明頼む」


 あ、そうだった みたいな顔をして、アドンは我に返った。


「そうでゲシた……それじゃ、説明を続けやす。まず、この世界は、一つの大きな大陸になってやす……」


 ふーん……なるほど……


 それから俺は、アドンからこの世界の基本的な事柄を、いろいろ教えてもらった。


 話をまとめてみると、こんな感じだ。


 まず、この世界は、島とかもあるけど、基本的には一つの大陸であること。そして、この大陸には数多くの国が有り、それぞれ領地を広げるべく、戦いを繰り広げていること。


 この世界には、城や街などの拠点が有って、王たちはそれを取り合って戦っており、そしてここは、そんな街の一つであるということ。


 うん……これは、あれだな……


 ゲームの世界って言っても、ロールプレイングゲームって言うか、シミュレーションRPGってやつだな、これは。そんな世界観だ。


 そして、アドンの話だと、時代はもとの世界の中世〜近世くらいに当たるみたいで、剣と魔法、そして大砲、銃も有るらしい。


「ちょっと試してみてほしいんでゲスが、ウインドウを開いてみてもらえやせんか?」


 アドンから言われると、確かに視界の左上に何か有る。そこに意識を向けると、ブォン、で感じでそれが広がって、情報がいっぱい載ってる画面が出てきた。さすがゲームの世界。


 おお……? 何か、生命力とか、対空攻撃とか、対地防御とか、色々あるな……


 本当にゲームの世界に来たんだな……何か、こんなの見てるとテンション上がってくるな……


 そんな感じで、アドンからこの世界の事を大まかに教えてもらった。


「まあ、大体こんな感じでゲス。細かいことは、今後おいおい話も出来ると思いやすんで、旦那」


「ん? 今の話の感じだと、アドンはこのあとも俺と一緒に居てくれるのか?」


「へい、基本的にずっとお供をさせて頂く事になっとりやす」


 そうなんだ。何か、こんなブリーフ天使でも居てくれると、寂しさが紛れるみたいで良いな。


「但し、注意してくだせえ。あっしは旦那を手助けは出来やせん。聞かれたことも、質問によっちゃあ答えられねぇ事もごぜぇやす。その点、忘れねぇ様、くれぐれもお願いしやす」


 何でも、普通の人には、こんな天使なんか付いていないらしい。俺だけ不公平にならない様に、って事なんだろうな、きっと。


 ちなみに、アドンにこの世界のモデルになってるゲームを聞いてみたが、答えられないとの事だった。まあ、そりゃそうだろうな、秘密ってあのジジイ言ってたし。


「分かった……さて、それで、次に聞きたいことだが、俺は一体どんな立場? 王って訳じゃあ無さそうだが……あれか? 将軍とか?」


 この世界では、王の下に将軍がいて、そいつが指揮する部隊のパラメーターに補正が付くらしい。うん、あるよねそんなゲーム。


 それで、俺は一体何なのかな? 部屋で他のおっさんたちと寝てるって事は、多分俺は王じゃあ無いよな。将軍かな? それとも、何処にも属していない、在野の将とか?


 アドンは、首を横に振った。


「旦那。さっきウインドウを見やしたですよね? そこに有りましたですぜ?」


 あれ? そうだったか。


 俺はもう一度、ウインドウを開けてみた。ブォンって言うか、ウィンって言うかこの開く感じ、何か良いな。


 さて、ステータスの所をよく見てみると……


 あった。あったよ。


 ステータス欄に書いてあった。ええと……


「ユニットNo.78 ソルジャー7」


 ……え? 


 ユニット? ソルジャー?


 ソルジャーって、兵士……ってこと?


 頭が混乱し、アドンに顔を向けて、すがるような目で見つめる俺。


 そんな俺の心を知ってか知らずか、アドンはさらりと言ってのけた。


 「そうでゲス。旦那はユニットの一部で、種類はソルジャーでゲス。所属はヤマガタ王国でゲスから、覚えといてくだせぇ」


 ああ、分かった。一緒に寝てたおっさん達は、同じソルジャーだったんだ。


 八人一組で1つのユニットなんだって。アドンから今教えてもらった。おれはソルジャー7だから7人目って事だ。


 ……ていうか……ああぁ……なんか今、じわじわショックが心にきてる……膝が震えてるのが分かる……


 俺、ただのユニット? しかもソルジャー? それって弱いよね? 雑魚だよね? 一般戦闘員だよね? 


 ユニットって言っても、ドラゴンナイトとか、何か凄いやつだったらまだ許せたよ。でも、ソルジャー? 

 

 背中を、変な冷や汗が流れてるのが分かる。


「まぁ、頑張って下せぇ。経験値を貯めてレベルが上がれば、クラスチェンジも……」


 ぁあぁ……何かもうだめだ。アドンの言葉が頭に入って来ない。


 ゲームの世界に、せっかく来ることができたのに。


 色々格好いいシチュエーションを、それこそ、色々想像してたのに。


 前の世界じゃ言えないようなセリフも、この世界で言ってみたかったのに。


 俺、ただの兵士だった。一番安く雇えるユニットだった。


 あれか? これはもう来世に期待ってやつなのか? て言うかもうこれ多分すぐ死ぬやつよね? 使い捨てのユニットだよね? 来世に期待してても、してなくても、すぐ来世行きだよね? 


 俺は、自分の能力を知ったあのときと同じく、また膝から崩れ落ちた。


 チョコレートを出せる雑魚兵士……うん、駄目だこれは。この世界、長生きできる気がしない。


 はあ……落ち込むわぁ……


 まあ、こうなったからには、仕方ないのか。若返っただけでも儲けものか? 


 ふと見ると、アドンが、心配そうな目でこちらを見ている。


 ……まあ、くよくよしてもしょうが無いのは、俺も分かってる。


 ひょっとしたら、兵士って事で、案外、この世界の一般人よりも、いい暮らしをしてたりするかも知れない。


 まだ、落ち込むには早い。


 もう少し、この世界で頑張ってみてからでも遅くない。


 やるだけやってみよう。


 我ながら、立ち直りの速さには感心する。


 取り敢えず立ち上がり、アドンに顔を向けて、笑って見せた。


「まあ、しゃあねえな。ここで諦めたら、なんかあのジジイ神に負けたみたいな気がするから、頑張ってみるか」


 アドンも、そんな俺の態度に、何か妙に感動してるみたいだ。


「旦那っ……負けねぇで下せぇ……いつかきっと良い日も来ますぜ……」


 そう言って、俺を慰めてくれた。


「そうだな……さて、何かもう眠くなって来たな……そろそろ寝ようか。教えてもらうのも、取り敢えず基本的な所は分かったしな。続きはまた今度だ」


「へい、じゃあ、お休みなさいやし。あっしは呼んでいただけりゃ、すぐ現れますんで」


 なんか、アドンって普通に良いやつっぽいな。人は見かけによらないな。アドンは天使だから、人じゃないだろうけど。


 そんな事を思いながら、俺は元の部屋に戻り、二段ベッドの布団に潜り込んだ。


 布団の中で、これからの事や、自分の、この役に立たない能力の事を考えているうち、いつの間にか、俺は寝てしまっていたのであった。


 そして、次の日から、俺のソルジャー生活が始まった。


 最初の日は慣れないこともあったけど、一週間経った今は、それなりに慣れてきた。なんか、映画とかで見た様な、「イエス・サー!」みたいな厳しいノリじゃ無いのね。


 起床時間とか、就寝時間なんかは決まってるけど、あとは街の警備で、決められたルートをずっと回って、休み時間もあって、夜に巡回するのも当番制で、食事もそれなりの物が支給される。


 寝る所も、ちゃんと宿舎みたいな建物があって、私物を少しなら置いておいても良い。最初に俺が転送されてきた所は、その宿舎だった。


 ソルジャーのステータスを確認すると、特殊技能として、「治安向上」というのがあるのが分かる。


 で、今俺たちのユニットは、この街の警備をして、治安を向上させている訳だ。アドンに聞くと、治安がいい街だと収入が上がるんだって。


 この街は、最近敵からぶん取って占領した街で、治安がまだ悪いから、俺たちソルジャーが駐留して、治安を速やかに引き上げてる、って言う事らしい。これもアドン情報だ。


 で、俺の能力だが、一応魔法に分類されることが分かった。チョコレートを出すと、魔力が根こそぎなくなってるのに気付いたからね。


 チョコを一個出すのに、全魔力を使い切っちゃうって、それってどうなのと言いたいが、仕方ない。


 魔力は一日寝ると回復するので、今の俺は、チョコを一日一個出せる。今日もさっき出してみた。


 出し方も、なんか慣れてきた。「はああああっ……!」とか言わなくても、ただ黙って集中すればチョコは出て来る。今考えると、俺ってバカだったなって思う。何が「はあああっ……!」だ俺。恥ずかしいだろ、今思い出すと。


 で、今日チョコを出してみたところ、魔力が上がったのか、チョコを出してもまだ少し魔力が残ってる。ステータスを見たら、確かに魔力の数値が上がっていた。


 と言う事は、頑張ればチョコを何個か出せるようになるのかな? うーん、しかし、それでもなんの意味も無くないか? いや、おいしいよ? でも、戦争に役に立つとは思えない。


 取り敢えず、出したチョコは、自分で食べたり、街にいる貧乏そうな子供にあげてる。さっき出したのも、見回りの途中で会った子供にあげた。ニコニコしてもらってくれたよ。


 何か良いよね、美味しそうにお菓子を食べてもらうと。それが手作り(?)だったら、余計なんか嬉しくなっちゃうね。


 だから、今のところ、チョコは有効活用されていると思う。


 で、今は昼ご飯の最中だ。午前の見回り警備から帰って来て、宿舎で食事を摂ってる。


 食堂みたいな所で食事してる訳だが、一人では無い。というのも、最近俺にも友達というか、よく話す仲間みたいなのが出来たからだ。まぁ、仲良くなってきたのは、昨日くらいからだけどね。


 この世界に来て初の、記念すべき友人は、同じソルジャーのユニットに所属している、リチャードくん(20歳・独身)だ。地毛のサラサラ茶髪の似合う、爽やかイケメンだ。俺のナンバーが7だったが、彼は8だ。これは、部隊に入隊した順番みたいだ。あまり意味はないみたい。


 リチャードは、人種としては白人かアラブ人な感じなんだが、話はすべて日本語で通じる。あ、ちなみにこの世界の文字もすべて日本語だ。凄いねゲームの世界。


 この世界、人種も一応あるみたい。白人的な人もいるし、黒人的な人もいる。俺みたいなアジア人的な感じの人もいるから、多分、あれだ、ゲームでキャラ作るときに色々肌の色とか髪とか選べる、あのくらいのバリエーションは有りそう。


 で、リチャードと話しながら、今食事してるわけだが、話を聞いてると、彼は農家の次男で、自分で生活していくため、兵士になることを決意したそうで、しっかり者だなと感心する。


「だから、俺はそこそこ出世したいだけで、偉くなりたいとか、金が欲しいってわけじゃないのさ、ユータロー」


 テーブルの俺の向かい側に座って、シチュー的な何かをスプーンですくいながら、リチャードはさっきから、俺に色々喋ってくれている。


「ふーん、そうなんだー。俺はどうかな……取り敢えず生き残りたいね」


 そう言えば、この世界に来て、俺はまだ、人生の目的みたいなものが無いなぁ……。


 そうだな……取り敢えず、リチャードに言ったからって訳じゃないけど、生き続けてみたいな。しばらく生きていくうちに、ソルジャーなりの、小さな幸せってやつも何となくイメージ出来そう。


「なんだそれ? ただ生きてみたいだけかよ? なんかもっとしたい事とか無いのか、ええ?」


 そう言って笑うリチャードに、俺も何も言わず、笑って応えた。イケメンの笑顔って悔しいけど、見てるとやっぱ良いよね。俺にそっちの気は無いけどさ。


 こんな感じで、俺のソルジャー生活、最初の数日は過ぎていった。

 

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