消えた行方
ある日の夜、サイタマ帝国首都、カワゴエに最近から住み始めていた一人の女の家に、一人の訪問者があった。
訪問したその男は、砂や土で汚れた軍服を着て、縮れた髪を短く刈り込んでおり、顔はまるで、ホワイトチョコレートを塗ったかのような真っ白な肌の色であった。
その男を家の中に招き入れた女は、その男から話を聞くと、床に崩れ落ちて涙を流した。
女はしばらくの間悲しんでいたが、悲しむ女にその男は慰めるように語りかけ、そして、その女が顔を上げ力強くうなずくと、男は、その場に長居せず、急ぎ足で女の家を立ち去ったのであった。
家から出た男は、そのままカワゴエの城壁の外へと向かった。城壁の外には、男女の二人組と、一頭の馬が待っていた。女の方は、その馬に乗っていた。
カワゴエを出たその男に、もう一人の男が何やらすると、まるで顔に付いていた何かが取れてしまったかのように、さっきまで白かった顔は、浅黒い色に変わった。
変装が解けた男が地面に何か埋めると、そこからゴーレムが現れ、男二人はそのゴーレムの両肩に乗って、女を乗せて歩き始めた馬の後ろをついて行った。
そうしてそのまま三人は、馬と一緒に何処ともなく姿を消したのであった。
―――
あの八人組をマハールが砂で生き埋めにして一週間後、当のマハールが、再びその場にやって来た。
マハールが砂を魔法でどけてみると、八人の内、五人の死体は発見できたが、残りの三人、リッカ、ディオス、ユータローの死体が、探しても見つからなかった。
見つからなかった死体は、おおかた野の獣にでも食われてしまったのであろうと言う意見もあったが、残りの五人の死体は獣に食われた形跡もない事から、マハールは、三人はどうにかして逃げ出したのではないのか、と疑った。
また、二頭のユニコーンについては、部下達が捕獲しょうとしたが激しく抵抗され、やむなく弱らせるために反撃したところ、結局一頭は死に、残りの一頭は包囲を突き抜けてどこかに逃げてしまったとの報告であった。
マハールは、皇帝ケンイチに報告するため、もうそこには用はないとばかりに速やかにカワゴエに帰還した。
報告をマハールから聞いたケンイチは、こう言った。
「ふむ……ユニコーンは捕まらなかったか……南の方では数が少ないから、欲しかったがな……まあいい。北の国々も順に滅ぼせばいい事だ。逃げた三人については、取り敢えず見つけて殺せ。まあ、そいつ等が帝国をどうにか出来るはずも無いがな」
ケンイチにとっては、八人の事も、ユニコーンの事も、それ程大したことでは無く、日常のとある一つの出来事に過ぎなかった。
ケンイチの横で報告を一緒に聞いていたヤン・メイファは、表情も変わらず、終始無言であった。
サイタマ帝国では、その後三人を指名手配し、人相書きが各街に送られたが、三人は見つかることは無かった。
殺した八人のうち、リチャードという男の妻であるミカはカワゴエに住んでいたので、帝国の使者が赴き、表向きの理由として戦死と伝えたところ、そのミカという女は、普段から戦死という事もあるものと覚悟していたのか、それとも……もしかして、予め分かっていたのか、それほど悲しむことも無かった。
これからどうするのか使者が尋ねると、ニイガタ王国に帰ることも出来ないので、ここで働き、生活していくつもりであるとミカは話した。
逃げた三人がこの女に接触するかも知れないと言う事で、一応しばらくの間監視がついたが、ミカは宿屋で働き始め、変わった様子も無く数ヶ月が経ち、これ以上必要ないと思われた事から、その後、監視される事は無くなった。
こうして、三人(と一頭)は、全く帝国の目から行方をくらましてしまったのであった。




