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穴から出る

 穴を掘り始めて3回か4回くらいか、穴の中で三人は眠った。


 そして、体感では4日後位か……その位になって、穴掘りゴーレムの掘っている穴がとうとう外へとつながった。


「現場からは結構離れたと思いますが、そっと様子を見てみましょう」


 そう言って、ディオスが静かに穴を崩して広げ、10センチほどの大きさの穴を作り、そこから外を覗く。


 外は、ちょうど夜だった。


「……いますね。おそらく何人か、多分見張りがいますよ」


 ディオスが代わってくれたので、リッカさんが次に外の様子を見て、その次に俺が外の様子を伺ってみた。


 俺達が埋まっていた砂の山が、少し離れたところ……夜の暗さではっきりとはしないが、2、30メートルくらい離れた所にある。


 そして、その近くにいくつかの火の灯りが見えた。月の灯に照らされ、何人かの人影が薄っすらと見える。座り込んで話をしている様だが、何を話しているのかまでは分からない。


 どうやら、砂山の方に顔を向けて座っているようで、こちらには気が付いていないようだ。


「よし、ならば今のうちに立ち去ろう。幸い、敵は少数、しかも意識は砂山に向いているようだ。闇に紛れて静かに逃げることにしよう」


 リッカさんの意見に、俺を含む残りの二人も同意する。


 俺は、ゆっくり慎重に、穴を手で広げ、近くに気付かれないよう、顔を出した。


 大丈夫だ。近くには、こちらに背を向けている数人の見張り以外にはいない。しかも、距離は2、30メートル。


 月が出ているとはいえ、辺りは暗い。これなら外に出ても気付かれることは無いだろう。


 そっと穴を広げ、体も外に出る。俺に続き、リッカさん、ディオスもそっと外に出た。


 さっきまで穴を掘っていたゴーレムは、ディオスが魔法を解いて核を回収済みのようだ。ありがとう……名前は知らないが、あのゴーレムは今回のMVPと言える活躍だった。


「よし……離れましょう」


 最後に穴から出てきたディオスが、ささやくような小さな声で俺とリッカさんに促した。


 音を立てないように気を付けながら、静かにその場を離れていく俺達。


 見張りの者達には、遂に気付かれる事なく逃げる事が出来た。


 しばらく、といっても数分程度だが、静かに歩き、谷からも離れた所まで来た俺達三人は、ようやく自分達が生き残った事を実感した。


 周りには誰もいない。辺りは月明かりの光に照らされる地面と低木だけだ。


 いや……地面と低木だけだと思っていたが、一つだけ違う影が月明かりの中に見える。


「こちらに何か来るな……動物か?」


 リッカさんも、それに気付いた。ディオスも気付いた様子だ。その影を見ている。


 馬のようだ。数は一頭か……こちらに近づいてくる。馬には誰も乗っていない。


 そいつが近づいてくるにつれて、だんだんその馬が何なのかが分かってきた。白い姿のそれは、だんだんこちらに歩いて近づいてくる。


 ユニコーンだろうか? でも、角が見えない。何やらふらついた足どりだ。歩き方が弱々しい。


 俺達のすぐ前まで来たそいつの様子が、月明かりの中ではっきり分かった。


「お前……ロッキー2世か」


 俺達のもとに来たのは、傷だらけのロッキー2世だった。その額にあった筈の角は根本から折れてしまい、額の角跡以外にはもう馬との違いが無い位になってしまっていた。


「リッカさん、ロブの方は……どうしたんだろう」


「そうだな……とにかく、治療しよう」


 そんな事を話しながら、リッカさんはロッキー2世を回復魔法で治療する。徐々にロッキー2世の大きな体に付いていた傷がふさがり、血が止まっていく。リッカさんの使える回復魔法では大怪我の治療には心許ないが、それでも今のロッキー2世には貴重な治療となった事だろう。


「すまないな……お前の主人……エレンは、もう死んでしまったんだ」


 俺のそんな言葉を理解しているのか、じっと回復魔法での治療を受けながら、ロッキー2世は頭を少し下げ、目を静かにつぶった。


 なんでだろう。砂山から脱出するまで泣いたりしなかったのに、何故か今の俺は、静かに涙を流していた。


「……さあ、取り敢えず体にあった傷の回復はここまでだ」


 回復魔法で外傷の治療を終えたリッカさんが、ロッキー2世の方を向いて話しかけた。


「私達は、今からここを脱出し、そしていつか必ずサイタマ帝国に復讐するつもりだが……お前はどうする? 私達に付いてくるか?それとも、もといた森に帰るか?」


 リッカさんのその言葉に反応してか、静かに頭をリッカさんに擦り付けるロッキー2世。


「私達と……共に行くというのですか? ユニコーンの貴方も……」


 ディオスのその言葉に、ロッキー2世は一言、「ブルッ」と小さく答えた。そして、リッカさんの前に、まるで乗ってくれと言わんばかりにゆっくり脚をたたみ、座り込んだ。


「分かった。乗るとしよう」


 リッカさんがロッキー2世の背に乗ると、ロッキー2世は立ち上がり、まるで何処かに案内するかの様にゆっくりと歩き出した。その後をついて行く俺とディオス。


 少し歩いたその先に、月明かりに照らされて横たわる、リッカさんのユニコーン、ロブの死体があった。死体の前で歩みを止めるロッキー2世。


「そうだったか……お前達も大変だったな……」


 ロッキー2世の背中から降りたリッカさんは、そっとロブの頭を撫でた。


 ロブの体も、さっきのロッキー2世以上に傷だらけであった。


 恐らく、激しく戦い、敵の反撃を受け、ここまで逃げて死んだのであろう。


「ロブ……お前の仇も、きっと討とう」


 そう言って立ち上がったリッカさんは、今度はロッキー2世の、角の折れたその額、そして怒りを秘めたかのようなその目を見た。


「お前も、主人を失い、そして仲間を殺された……と言う事か。よく分かった。共に仇を討とう。エレンのユニコーンよ」


 こうして俺達3人に、エレンのユニコーン、ロッキー2世が加わった。

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