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脱出

 リチャード、モゲロさん、バッツさん、エレン、そして今、べミオンも死んでしまった。


 生き残ったのは、俺達三人だけだ。


 べミオンが死んでしまったあと、しばらくの間は誰も口を開かなかった。


 どのくらいそうしていたかは分からないが、最初に声を出したのは、ディオスだった。


「生き残ったのは、私達三人だけとなりました。となれば、彼らの弔いもできずにいる事は残念ですが、ここはまずうまく逃げることを優先して考えましょう。」


 この三人の中で、ディオスが一番冷静のようだ。気持ちが前を向き始めている。


「この砂掘り用のゴーレムで、敵に気付かれないように穴を掘って逃げましょう」


「……うん、わかった。頼む、ディオス」


 俺も、いつまでも悲しんでばかりではいられない。俺にも今、人生の目的が出来たところだ。ここで死ぬ訳にはいかない。


 ディオスがゴーレムに指示を出す。ゴーレムは横に向かって穴を掘り始めた。掘った穴の後ろを、両手両足を付いてハイハイをするように付いていくディオス、そして、リッカさんの手を引いて、同じ様にハイハイでその後ろを行く俺。


 リッカさんは、まだバッツさんの死を受け止めきれていないのか、まだ少し呆けたようにしている。でも、気が変になったりしている訳ではなさそうだ。


 穴を掘っていたゴーレムは、砂を掘っているうちは比較的順調だったが、そうしてるうち、岩の壁に突き当たった。


 ここから先はマハールの砂山じゃ無くて、谷の崖の部分になるという事のようだ。


「さて、時間はかかりますが、ここを掘って抜け道を作らなければ脱出は叶いません。ここが我慢のしどころです」


 ディオスはそう言うと、ゴーレムに魔力を込める。


「む……」


 ディオスが、何かを気付いたような顔をした。


「強い……。強くなっています。どうやら先程のべミオンの魔法、本当に私に力を与えてくれているようです」


「そうなのか……凄いな」


「このゴーレムの力も強くなっています。崖の岩を掘り進めることも容易になっている事でしょう」


 ディオスのその言葉の通り、ゴーレムは力強く岩を削り取って穴を掘り進めていった。大きな音を出せないのであまり派手に動けないが、それでも普通の人間が土に穴を掘るのと同じ位には早い。


「……横穴を掘るなら、出来るだけ長く掘ったほうが良いだろうな。少しでも敵から離れたところに出たい」


 リッカさんも、気持ちを切り替える事が出来つつあるようだ。


「そうだな。ここは時間をかけても、離れた所に出るようにしよう」


「そうですね、このゴーレムならそれも可能かと思います。それなりに時間はかかるでしょうが、その間の栄養補給はお任せしますよ? ユータロー」


「分かった、ディオス。安全な所にたどり着くまではチョコで凌ぐことになるが、我慢してもらうよ」


 そうして俺達は、ゴーレムが穴を掘るのを待ちながら、薄暗い穴の中で過ごす事になった。


 皆が休みながら穴が掘り進められるのを待っている間のちょっとした時間に、そっとあいつを呼び出す。


「……アドン」


「……へい……」


 ポン! と現れたアドンは、何やら元気がない。


「あの、この度は、お悔やみと言いますか、その、何というか……」


 俺がまだ何も言ってないのに、何やら言い出そうとするアドンだったが、俺はそれを手で制し、聞きたかった事を小さな声で尋ねた。ゴーレムの穴を掘る音に紛れて、リッカさん、ディオス二人には俺の囁き声は聞こえていない。


「なあ、アドン、そんな事は良いんだ。それより聞きたい。……お前、今回の件、どこまで知っていた?」


 アドンの顔が、困惑の表情を浮かべる。


「ど、どこまでって言うと……」


「つまり、この件……ケンイチが俺達を殺そうとしている事を知ってたか? って事だ」


「……いや、知らなかったでゲス。あっしが知ってたのは、あの三人が旦那と同じ、転移してきた人たちだという事だけでやんした」


 そう言って後、アドンは少し思い切ったような顔をして、更に続けた。


「仮に、もし知っていたとしても、教える事は出来ないでゲス……それはヒントになるでゲス」


「それで、エレンが死ぬとしても……例え俺が死ぬとしても、それは教えられないか?」


 俺のこの質問に、アドンはまっすぐ俺の顔を向いて答えた。


「へい、それがあっしら天使の責任であり、譲れないものでゲス」


 そうか……。


 まあ、仕方ないか。別にアドンが悪いわけじゃない……か。


 知らなかったって事だしな。嘘をついてる訳じゃないだろう。


 知ってたなら、「知ってましたが、言わなかったでゲス」とか言ってるだろうしな。


「……旦那、あっしは、旦那が無事で本当に嬉しく思っておりやす。そこは分かってくだせえ……」


「……分かった。お前を恨むのはやめておこう。じゃ、もういいぞ」


「へ、へい……」


 俺がそう言うと、アドンは元気なさそうに消えていった。


 ゴーレムの穴掘りは順調だ。


 俺、ディオス、リッカさんの三人は、岩の削れる音を聞きながら、チョコを食べ、ココアを飲み、穴の中で過ごした。

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