表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/60

生死の境

 砂や小石などを操るマハールの、砂の大蛇による強烈な体当たり。


 雪崩のような激しい砂の攻撃をまともに受けてしまい、八人とも全員が砂の中に生き埋めになったのを、マハールは自分の目で確認した。


 自分自身の攻撃の後に残っている、高さ数メートルにもなる、谷をふさぐほどの砂の山を見ながら、マハールは思っていた。


 これだけの砂の中では、運が良くても恐らく僅かな時間しか生きてはいないだろうが、念の為、あいつら八人の死体は確認しておかなければならない。


 だが、今すぐ砂をどけてしまうと、あいつらはひょっとするとまだ息があるかも知れない。


 逃げるチャンスを、みすみす相手に与えるのは気に入らない。


 それで、マハールは配下にこう命令した。


「俺は忙しいから、一旦カワゴエに帰る。そして、また一週間ほどしたらまた来て、ここの砂をどける事にする。あの八人の死体の確認はその時に行うという事で良かろう。お前達はそれまでここを見張っておけ。万が一、何か這い出て来るやつがいたら、容赦せず殺せ。残りの奴らは、あそこで暴れてるユニコーン二頭を捕らえろ」


 そう言って砂山を一瞥すると、マハールはそこを立ち去ったのであった。


 残った部隊の大部分はユニコーンを捕らえに行き、砂山には数人が残る事にして一応の見張りを立て、マハールがまたここに来るのを待つ事になった。


「……まあ、一週間も有れば、間違いなく死んでるだろう」


 帰り際、マハールはそうぽつりとつぶやいた。


―――




「―――?」


「―――! ―――!」


 ……?


 何かが聞こえる。


「……ロー! 大丈夫ですか!?」


 うん、誰かが何か言ってる。


 えっと……俺は、マハールの砂攻撃を受けて……


 ハッ! と意識が繋がる。


「ユータロー! 気が付いたか!」


 さっきのとはまた違う声。……リッカさんの声だ。


 顔に付いている砂を手で払い、目を開ける。


 薄っすらと明かりがあるのが見える。多分、魔法の明かりだ。


 その明かりのおかげで、二人の姿が見える。


 ディオスと、リッカさんの二人だ。二人とも砂まみれで、顔や手に怪我を負っているようだが、それ程大きな怪我では無いようだ。


 ここは……どこだ? 砂に押しつぶされて……その後俺達八人はどうなったんだ?


「ここは……?」


「ここは、砂山の中です。私が、この子のお陰で助かったのです」


 そう答えるディオスの見る先には、ゴーレムが見える。


 ゴーレムは、俺達三人の上に覆い被さるように四つん這いになっていた。そのお陰で、ゴーレムの体の下は、小さな空間が出来ていた。


 空間と言っても、高さは1メートルもない。広さもゴーレムの胴体分の幅しか無く、せいぜい2メートル×1メートル位の広さだ。


 そして、俺の体のうち、足の方はまだ砂の中に埋もれていた。上半身だけが埋もれずに、ゴーレムの下の空間に出ていた。


「この子に、私を守るように指示を出したので、このように庇ってくれていたのです。そのため、私は完全に砂に埋もれる事は避けることが出来ました。ただ、この子……このゴーレムは、もう動きません。この態勢で、私がこのゴーレムの核を停止させました」


 ディオスの話で、だんだん状況が分かってきた。


「代わりに、この小さな子の方で、周りを探索させたのです。そして、三人を見つけました」


 ディオスが指し示す先には、小さなゴーレム……大きさは人間の半分くらいの大きさだろうか、手だけが少し大きい、穴掘り用のゴーレム? が居た。近くを掘りまわっている。何かを探しているかのような動きだ。


「私とユータロー、そしてべミオンは、ディオスのこのゴーレムに掘り出され、助かったのだ。だが、残りの四人はまだ見つかっていない……それに、べミオンはかなりの重傷だ……」


 魔法の薄明かりの中、首を動かしてよく見ると、座っているリッカさんの膝の上に、何かがいるのが見えた。べミオンだ。


 べミオンは、ボロボロだった。


 右腕と右足が千切れて無くなっており、体には無数の傷があった。まだ息はあるが、意識は有るのか無いのか分からない。あの蛇の体当たりの直撃を受けたのは、そう言えばべミオンだった。それでこんな事に……


「私の回復魔法では、血を止めるのがせいぜいだった。それが精一杯で、もう私の魔力は残ってない……」


 俺は、何とか自分の手で砂から脱出すべく下半身の周りの砂を掘りながら、二人に聞いた。


「じゃ……残りの四人は……バッツさん、モゲロさん、リチャード……それに……エレンは……?」


「分かりません……このゴーレムに探させていますが、まだ見つかりません……」


 そんな話をしていると、穴掘り用の小型ゴーレムが、砂の中に何かを見つけ、こちらに合図をした。


 見つかったのは、バッツさんだった。


 バッツさんは、もう息をしてなかった。


 そのすぐ近くに、折り重なるようにモゲロさんもいた。


 彼もまた、既に事切れていた。


「ああっ……バッツ……そんな……いやっ……」


 魔法の薄明かりなので、顔をよく近付けないと誰だか分かりにくい。リッカさんは、べミオンをそっと膝から下ろし、バッツさんに顔を近付け、彼だと分かると、絞り出すように悲しい声を出した。


「そんな……お願い、死なないで……私を守ってやるって……そばにいるって言ったじゃない……」


 彼女は、声を上げずに、ただ静かに泣いた。


 そしてさらに、穴掘り用ゴーレムは、リチャードの死体も発見した。


 そして……エレンも。


 彼女もまた、見つかった時にはもう生きてはいなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ