マハールから攻撃される
今、俺達がいる所は、谷底の、道幅10メートル程度の細い道。右と左は崖になっており、高さ15メートル位か、天然の壁がそそり立っている。
その崖の上にもマハール軍の兵士がいて、前にはマハール本人とその兵士、後ろにも兵士。俺達は、完全に取り囲まれていた。
数は、約三百。前と後ろに百人、左右の崖の上にもそれぞれ五十人ずつ、そのくらいの数が配置されていた。
そいつらの一斉射撃が、俺達を襲った。
せめてディオスのゴーレムがいれば盾に出来たが、馬に乗って行軍中だったので、ゴーレムは起動させていなかった。
「後ろに退く!」
リッカさんの叫びに合わせ、皆、一丸となって動く。狙いは後ろ、マハールのいない方を突破して逃げる事だ。
左右からの魔法、弓、銃弾は動いてかわし、前と後ろからの攻撃は、手に盾を持っている者が壁を作り、防ぎながら移動しようとした。
ディオスは盾を構えながら素早くゴーレムの核を地面に落とし、呪文を唱え始める。
リチャードとバッツさんは、盾で壁を作る。
ドガッ! とかズギャギャ! とか音を立てながら、魔法が盾にぶち当たる。盾は何とか魔法攻撃を防いでいるようだ。
モゲロさんは弓、エレンとリッカさんは攻撃魔法、俺も盾を構えつつ、チョコ魔法で応戦を開始した。
俺のチョコ鉄砲は、誘導なしならある程度連射出来るが、誘導ありなら一発ずつしか撃てない。
最初の何発かは、敵めがけてチョコ弾を連射した。
「うおおおっ!」
叫んでも意味は無いのは分かってはいたが、つい叫んでしまった。
今は、どう見てもピンチ。八対三百。
個の力なら、俺達の方が上だとは思う。チョコ弾を放てる俺、ディオス、べミオン、バッツさん、それにユニコーンナイトの二人は、確実に上だ。モゲロさんやリチャードだって、相手の一般兵相手にそうそう引けは取らない。
それでも、やっぱりこの数の差はひっくり返せない。
どうにかして、血路を開いて逃げないといけなかった。
俺の目の前に、ニ〜三発のチョコ弾が生成され、敵に向かって飛んでいく。魔力の続く限り撃ち続ける。
敵の攻撃は続く。雨あられと敵の攻撃が飛んでくる。
「よし! 動きます!」
ディオスが叫ぶ。ゴーレムが起動を開始し、盾となって前方の攻撃を体で受け始めた。長くは持たないだろうが、ひとまず前方からの攻撃を防げるようになった。
「うおおおおッ! 死んでたまるカァッ!」
べミオンは、崖の上からの攻撃に対し、必死で反撃している。空を飛びながら魔法弾を撃ち続けて、敵にも多少の被害が出始めたようだ。
俺のチョコ弾も多少敵に当たっているようで、倒れる者が出始めている。
俺達八人は、後ろへと動きながら反撃を続けたが、敵の攻撃を受け続けていた盾が、だんだん持たなくなってきた。
「もう駄目だっ! 盾がもたねえ!」
リチャードが叫ぶ。
「後ろの敵に何としても近づいて接近戦に持ち込む! 乱戦になれば敵も飛び道具は使えない! 頑張れ!」
リッカさんも、魔法で敵に反撃しながら、必死に叫んだ。
その時、俺達が接近しょうとしている敵兵の中に、何やら叫び声がした。
目をそっちに向けると……
あいつらだ! あいつらが暴れている。角で、あたり構わず突撃を仕掛けている。
ユニコーンの二頭、ロブとロッキー2世だ。
そうだった。俺達は八対三百じゃ無くて、十対三百だったな。
まあ、きついのは同じ事だが、ひょっとすると囲みを突破できるかもしれない!
「チャンスだ! 今のうちに敵の所まで急げ! そのまま突破するぞ!」
バッツさんが叫んだその時、あいつが動いた。マハールだ。
「行かせんぞ? 逃げられると思うなよ?」
マハールは片膝を付き、右手を地面に付け、叫んだ。
「サンドスネーク、カモンッ!」
あいつはこの世界に来る前は、蛇使いか何かのバイトでもしてたのだろうか……そんな事を一瞬考えた俺だったが、その後に出てきたものを見て、そんな事を思う余裕は無くなった。
マハールの手の下から、砂の塊が盛り上がるように出てくる。
マハールを持ち上げるように砂の塊は大きくなり、そして形を取り始めた。
蛇だ。
巨大な蛇。
「うわあああっ!」
その様子を見ていたリチャードが、恐怖の叫び声を上げた。
「何だ……ありゃあ」
バッツさんが、呆然とそれを見上げる。
鎌首をもたげたその姿は、約20メートルほどの高さか。頭の部分が、崖の上まで高く伸びている。
胴体の部分まで含めると、どのくらいの大きさになるのだろうか。とにかく巨大な砂の蛇であった。
マハールは、その砂の蛇のとぐろを巻いた胴体の上で、悠然とあぐらをかいて座っていた。
「これが俺の力……砂や石を操る能力だ。灰燼のマハールと呼ばれる俺の力、あの世に行く前に味わって行け」
マハールがそう言うや否や、砂の蛇が、頭から目にも止まらぬ程の速さで俺達に迫って来た。
「ウグァッ!?」
宙に浮いていたべミオンが、砂の蛇の頭にぶち当たる。直撃だった。
そしてそのまま、巨大な砂の蛇は、俺達の上に覆いかぶさる。
「ああっ!! ユータロ……」
エレンの叫びも、最後まで聞くことは出来なかった。
俺達は何の抵抗も出来ず、膨大な量の砂の塊に押しつぶされた。
「ふっ……俺にかかれば瞬殺だったな」
俺達八人は、マハールの砂攻撃を受け、砂の塊の中に生き埋めにされてしまったのであった。




