完全にバカにされる
え……始末……? 士官させないどころか、始末する……?
いや、お前たちは必要ない、士官を認めないと言うなら、それならまだ分かる。
しかし、何故殺すまでする必要があるのか? 意味が分からない。
そんな俺の気持ちを、バッツさんが代弁する。バッツさんは、始末するなどと言われても、まだ落ち着いている様子だ。
「敵でもないのに、俺達が何故お前たちから殺される必要がある? 俺達はただ、ここに士官の申し出をしに来ただけだ。戦力にならないと言うならただ士官を断れば良いだけだろう」
そんなバッツさんの前で、マハールは、ふぅー……と大きく息を吐いて、ニヤッと笑った。
「全く、ここまでバレないように気を使っちまったよ。俺は態度に出るからなあ。お前達とはあまり喋らないようにしていたの、気が付いたか? 俺としては大変だったぜ」
「答えになってないな。……なぜ俺たちを殺す必要がある?」
バッツさんがそう言う間にも、マハールの兵たちが俺たちを取り囲み始めている。
「うむ、そうだな。説明しておこう。なぜ殺すのかをな」
マハールは、少し楽しそうに話し始めた。
「まず、ユータロー。お前の能力は、はっきり言って大した事がなかった。ケンイチ陛下も失望しておられたよ。食べられる物を出すのは特に俺達には必要じゃないし、攻撃魔法もしょっぱいものだった。チョコ鉄砲? どうでもいいな、その程度は」
大した事ないってか。結構ここまで鍛えて来て、最初の頃に比べればかなり強くなったんだが……駄目か。
「それなら、ただ士官を断ればいいだけだろう」
リッカさんが反論する。
「うむ、俺もそう思っていたんだけどな? だがケンイチ陛下は、お前の能力が今より強くなって、遠い将来、中途半端に邪魔な敵になるだろうとのお考えを持っておられた。お前はいらないが、敵に回すのは面倒くさい。ここでお前達の士官を断れば、お前達は別の国に士官してしまうだろう? だから、先に殺しておくという事だ。しかも、表向きは戦死した事にしてな」
マハールは、楽しそうに話を続ける。
「困るんだよ。士官してきたやつを殺したなんて分かったら。誰も士官してこなくなる。人材は随時募集中って事にしといて、集まってきた奴が有能なら召し抱えるし、無能ならお断り。そして、お前みたいな中途半端な奴がいたら、今のうちに始末しておくっていう感じにしておきたい訳だな」
マハールが話をしているうちに、完全に取り囲まれた。敵兵の中には銃を持っているやつもいる。
「で、ユータロー以外の残りの男どもは、まあどうでも良いんだが、口封じだな」
「……なんて奴らだ……」
今から口封じされてしまいそうなモゲロさんが、小さな声でつぶやいた。マハールには聞こえただろうか? それは分からない。
「で、なら何ですぐ殺さないのか、と言う話だが、一つ確認しないといけない事があってな」
そう言うと、マハールはリッカさんとエレンさんを見て、こう言った。
「おい、ユニコーンナイトの女二人、お前達は別だ。安心しろ、皇帝陛下はお前らをお望みだ。……と言っても、戦力としてでは無く、後宮仕えの女官としてだがな。戦いもこなす美人というのは、重宝するものだ」
マハールのムカつく話は、更に続く。
「女二人は、望むなら陛下に仕えさせてやる。そうしたらお前たち二人の命だけは助けてやる。悪くない話だと思うぞ? もしかすると、陛下から可愛がってもらえるチャンスもあるかも知れん。そしたら、愛妾になれるかも知れんしな」
「……随分と……バカにされたものだな」
リッカさんは、手が震えている。怖くて震えているようには見えない。……あれは、怒ってる。完全に怒ってる。
「その様な話、持ちかけられるというだけでも屈辱的だ。私がそんな話に乗るような女だと思うのか? ……断る!」
「私もお断りだわ。理由なんて野暮な事は、言う必要無いわよね?」
エレンも、どうやらお断りのようだ。
「ふーん……断るのか? 何でだ? 断ったら死ぬ事になるんだぞ? いいのか、それで?」
「くどい! 仲間を見捨てて屈辱の中で生きるくらいなら、戦って死ぬ! もう覚悟は出来ている! 来るなら来い!」
まずい……リッカさん、完全に切れている。怒りで我を忘れている。
そう思っていたら、バッツさんがリッカさんの横で、そっと耳打ちした。
何と言ったのだろう。
何をリッカさんに伝えたのかは分からないが、どうもリッカさんは少し落ち着いたようだ。何か頷いている。
「ふーむ、まあ、そうなるとは思っていたがな。じゃあさっさと終わらすか」
マハールはそう言うと、部隊に号令をかけた。
「お前ら! あのユニコーン2頭は陛下が持ち帰るようお望みだ!殺さず捕まえろ! 残りは男も女も殺せ! 女は生かして楽しもうなどと思うな! 油断してると味方が死ぬぞ! 確実に全力で殺せ!」
敵の雰囲気が、がらりと変わった。俺達への殺気がみなぎっている。
「かかれ!」
マハールがそう言うと、周りから一斉に、数え切れない程の敵の魔法、弓矢、銃での攻撃が、俺たちに向けて放たれたのであった。




