戦ってみた
マハールの説明だと、この森の中には攻め滅ぼした獣人の国の残党がいて、砦を作って立て籠もっているらしい。
確かに、森の中を進んでいると、所々に焚き火の跡や、人が草木を切り取った形跡等があった。
「今から我が部隊は攻撃を開始する。その際はお前たちも力を発揮してもらおう」
マハールの号令の元、砦に籠もる敵に対しての攻撃が始まった。
マハール軍は、まず周りの木の枝を切り取り、集めだした。今の時期は、木の枝には葉がいっぱい残っている。
何をするんだろうと俺が見ていると、マハール軍のうちの魔法を使える者達が、火の魔法で集めた木の枝を燃やし始めた。
生木に火を付けたので、もうもうと煙が上がる。
そして、更に今度は別の者達が、風の魔法を使ったのか、その煙を敵の方に送り込み始めた。敵のいる方角が、煙で視界が悪くなるほどだ。
「敵は鼻がきく種族だ。まずはこうやって相手の鼻を封じ、燻り出す」
そう言っているマハールは、何やら少し楽しそうだ。……戦が好きなタイプか?
そんな事を思いながら暫く待機していると、何やら煙の向こうから飛びかかろうとしているのか、四足で駆けてくる集団が見えた。
あれは何だ……? 狼か? 軽装の鎧を身にまとった狼が、武器を咥えて走ってくる。狼以外にも、猫みたいなのもいるな……
そいつらは、近くまで来ると四足歩行を止め、今まで咥えていた武器を手に持ち替え、立ち上がった。
「よーし! 出てきたぞ! 迎え撃て!」
マハールが叫ぶや否や、味方の攻撃魔法が獣人達に向かって放たれる。
たちまち激しい戦いが始まった。
「よし、俺たちも行くぜ!」
リチャードのこの声で、俺達八人も、敵に向かって走り出した。
リッカさん、エレン、バッツさん、リチャード、そしてディオスのゴーレムが前衛として先に進む。後衛は俺とディオス、モゲロさんだ。べミオンは高さ数メートルの所にふわりと浮き、樹上からの攻撃を警戒しつつ、攻撃魔法で味方を援護する。
俺は、魔法使いポジションで。敵を味方の後方からチョコ魔法で狙撃するという感じだ。
襲い掛かってきた敵を、前線の味方が食い止め、戦いが始まった所で、敵に向かってチョコ鉄砲を撃った。
弾は敵の横を掠めて行く……外れた……
と思わせておいて、俺の撃ったチョコ弾はくるっと反転し、そのまま敵の後頭部にヒットした。崩れ落ちる狼男。
そう! 俺のチョコ弾は、実は操れる! 弾道を曲げることが出来るのだ!
と言っても、チョコは銃弾並みに速く動いているので、思った通りに動かせる訳ではなくて、頭の中で「こいつに当てる」と集中すると、自動的に弾道が変わってくれる感じね。
この力を開発できたのは、べミオンとの実験を何度も繰り返した、そのおかげだ。あいつに感謝だな。
周りでは、俺達リッカ団(仮)の八人が戦っている。
エレン、リッカさんは、多少離れている相手は攻撃魔法を放ち、敵が近付いてくると馬上から剣で対応している。
ユニコーンの動きも機敏で、近付いてくる敵の一部はユニコーンが角で対処しているな。森の中でも全く問題無く動き回っているようだ。乗り手とユニコーンで、1+1=2以上の連携を見せている。
元々森に住んでいるユニコーンだから、問題ないって訳か。
それに比べるとバッツさんは、いまいち動きが悪い。馬に乗っていては戦いにくそうだ。……あ……今、馬から降りた。普通に馬から降りて剣で戦い始めたぞ。
だったら、最初からそうすれば良いのにな。まあ、普通の馬とユニコーンじゃ、やっぱり違うみたいだな。
リチャード、モゲロさんは、戦い慣れたもので、それなりに力を発揮しているのが分かる。
リチャードは無理せず敵の足止めに徹して、俺のチョコ魔法でやられたりした相手に、しっかり止めを刺しているところだ。
モゲロさんは、走ってくる相手に応射しつつ、木の上の敵も攻撃している。
ディオスのゴーレムは、どうも動きの早い相手は苦手みたいだ。腕を振り回して敵に攻撃したが、横に飛ばれてかわされ……る所を、べミオンの攻撃魔法が捉えた。うまく敵の動きを読んでいた様だ。
攻撃魔法を受けて動きが止まった所を、ゴーレムの腕による攻撃が今度は当たり、敵の狼男を一撃で叩き潰した。
あの二人、コンビで戦ってるな。いい連携だというのが見て分かる。
敵の攻撃を受けた仲間がいれば、俺達八人の中央で戦うユニコーンナイトの二人が、味方の怪我を治療する。
そんな感じで、俺達のチームは危なげなく戦い、敵に対し比較的有利に戦闘を続けた。
マハールは部隊を指揮するだけで、自分自身では特に戦うことが無かった。終始味方が優勢だった事もあって、敵からの攻撃を受ける事も無かった。
敵の獣人達は、形勢が不利なのがはっきりすると、退却を始めた。
追撃開始か? と思ったが、マハールは追撃しなかった。
「よーし、もう十分だ! 後は他の部隊が引き受ける! 俺達は砦に火を放ったら終わりだ!」
と言う事で、敵の砦まで行き、既に敵が逃げ去った後の砦を、味方の兵が火の魔法で攻撃し、それで俺達の戦いはひとまず終了となった。
うむ、特に何という事も無かった。
俺達八人は、他の味方に比べても比較的良い戦いぶりだったと思うし、リッカさんも良く全体を見て、俺達をまとめていたと思う。
「よし、皆ご苦労だった。リッカ団も良く戦ってくれた」
マハールが、リッカさんに声をかける。
「お前たちの事については、カワゴエまで戻ってから結論が出るであろう。ひとまず帰還としよう」
「了解した」と答えるリッカさん。
そして、俺達八人とマハールの部隊は、帰路へとついた。
うん、ここまで特に問題無しだ。あの女の人……側近の、ヤン・メイファという人、帰りも気を付けろと言っていたのは、結局意味は無かったのか……?
そんなことを考えながら首都・カワゴエに向かう俺達。行きに5日かかったので、当然帰りもそれだけの日数がかかる。
そして、帰り始めて3日目。
マハールが、リッカさんにまた声をかけた。普段は声などかけないので、マハールがこうやって話しかける時は、何か用がある時だ。
「さて、リッカ団の者達よ。今後の事について少し説明しておこう。次の休憩の時、ちょっと良いか?」
「了解だ。休憩の時に、皆で貴方の元に行くようにする」
「うむ、そうしてくれ」
どうやら、マハールは何か説明するみたいだ。どんな話なのかな? 結論が出るまで何日か待機とか、そんな話か?
「ここで休憩とする」
マハールの部隊と俺達は、休憩を取った。休憩場所は、谷の底の部分で、近くの谷底に川がチョロチョロと流れており、左右は崖がある、狭い道の所だった。
「さて……では、今後の事を説明しておこう」
馬を降りて集まった俺達に、マハールは話し始めた。
「今回の戦いで改めてお前達……特に、ユータロー、お前の力について見せてもらった。多少は便利な力ではあるが、皇帝ケンイチ様は……お前を始末することに決めた」




