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優太郎、試しを受ける

 宿屋に着いて暫く待っていると、リッカさんとバッツさんの二人が帰って来た。


 俺が思ったよりも、時間がそんなにかからなかったな。


 さて、宿に帰ってきた二人の表情は、何やら対照的だった。


 リッカさんはやる気に満ち溢れているのに対し、バッツさんはというと、どうも面倒臭そうな顔をしている。


「どうだったの? 士官できたの?」


 そんな二人にエレンが聞くと、バッツさんがあごひげを触りながら、面倒臭そうに答えた。


「結論から言うと、保留だ。一度、俺達の実力を見てから決めるらしい。……はぁ、面倒な事だぜ」


「何を言う! 我らの力を見てもらう、良い機会ではないか! 我等の実力は決して低くない。皇帝陛下も、一度戦いぶりを見れば、我等の力が分かるはずだ! 私に言わせれば、これは――んんっ?!」


 多少興奮しているのか、少し早口になってまくしたてていたリッカさんの口を、バッツさんが自分の口で、キスして塞いでしまった。


 くっ……バッツさんめ……この局面でやってのけるか……格好いい事しやがる……


 ゆっくりと口を離すバッツさんに、リッカさんはもう声も出ない。ビックリ&恥ずかしいって感じだ。


「えっ……? な、何だ、いきなり……」


「口うるさいじゃじゃ馬は、こうやって大人しくさせないとな。そうだろ?」


 そう言いつつ、バッツさんはリッカさんの腰に手を回し、優しく抱きしめる。


「えっ……いや、私はただ、あっ……」


「ふっ、まあまずは落ち着け」


 リッカさんを優しく両手でハグして、いい子いい子と、頭を撫でるバッツさん(30歳、バツ1)。


 そして、顔を赤くして、なすがままのリッカさん(恐らく25歳くらい、独身)。……もう、あれだ。バッツさんに、手玉に取られているのが良く分かる。


 さすがバッツさん! 俺達に出来ない事を平然とやってのける! そこに痺れる、憧れるぅ! なんて言いそうになるね。言わないけど。


「仲の良いのは良く分かった。で? 具体的にはどうするんだ?」


 リチャードが、二人の世界に割って入った。


 バッツさんが、それに答える。


「ああ、これから数日以内に出撃する事が決まっているから、それに同行して敵と戦う事になっている。八人全員だ。マハールとか言うあの男が、俺達の戦いぶりを見届けるらしい」


 マハール……あのインド系の、皇帝ケンイチの隣に居た男か。俺はチョコを出せるが、あの男は何が出来るのだろうか? とても興味がある。


 仲良くなれば、力の事も聞けるかもな。いや、それよりも、一緒に戦えばすぐに見る事が出来るか。


 こうして、俺達八人は、サイタマ帝国軍と一緒に戦い、言うなればテストを受ける事になったのである。


 そして、三日後。


 ミカさんはカワゴエの町で留守番という事になり、俺達八人は、サイタマ帝国軍の兵士たち、そしてマハールと共に出撃した。兵の数は、およそ三百位だろうか。


 気になる事に、出撃の時、あのもう一人の側近の人、メイファが見送りに来ていた。……俺たちの働きに期待されているのかな?


 メイファは、見送りの際、何故かディオスにそっと近付き、こう言った。


「戦場では、くれぐれも気を付けて……。無事に帰り着くまでが戦だからね?」


 何だろう。家に帰るまでが遠足ですみたいな、その感じ。帰りがけに、何か起こるとでも言うのかな?


「何が言いたかったんだろうな、あの人」


 俺の疑問に、ディオスも訳が分からないという感じで首を振る。


「さあ……分かりませんね。しかも、なぜ私に……?」


 奇妙な違和感を抱えつつ、俺達八人は、サイタマ帝国軍と共に移動を開始したのであった。


「……マハールだ。謁見のとき以来だが、よろしく頼むぞ」


 最初に挨拶を交わしてからは、マハールは、あまり喋らないタイプなのか、用事以外にはそれ程話すことも無かった。


 前線までは、馬で5日ほど南へ行った所で、海の近くとの事であった。ユニコーンと馬のあるエレン、リッカさん、バッツさん以外は馬を貸してもらい、俺達は皆、馬で前線まで移動した。


 行く途中は、全く何事も無く、5日後、あっさり目的地付近へと俺達は到着した。


「さて、この辺りだ。このあたりの森に、滅ばした敵の残党が潜んでいるとの情報を得ている。今回は、そいつ等を探し出し、一掃するのが目的だ」


 そう言うとマハールは、うっそうと茂っている森を指さし、俺達に標的の在り処を伝えたのであった。

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