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自分の能力って……

 なんか普通、イメージだけで物を言っちゃって悪いんだけど、異世界とかに転生? じゃ無くて、転送? されるときって、大体なんか草原とか、森林とかに最初飛ばされる事が多いような気がするのよ。


 で、俺は多分、転送されてきてる……みたいなのね。転送って分かるのは、今の俺がどう見ても大人だから。


 今の俺、赤ちゃんじゃないから、転生したわけじゃないよね? うん、多分そうだ。


 で、場所なんだけれども、どう見ても建物の中だ。で、横におっさんたちが寝てる……寝てるんだよね? まさか死んでないよね?


 俺は、どこかの建物の中、おっさんたちが一緒になって寝ている? 真っ暗な部屋の中に居ることに気が付いた。部屋が暗いのは外が夜だからだ。窓の外が暗いから分かる。


 さて、これはどういうシチュエーションだろうか?


 落ち着いて、辺りを見渡してみよう。


 部屋は8畳くらいか? で、そこに、二段ベッドが二つあって、おっさん達が横になっている。そのおっさんたちからは、安らかないびきが聞こえてくる。


 寝ているだけで、別に気絶したり、死んだりしてるわけじゃなさそうだ。俺は、そのうちのベッドの一つから、今起きたばかりという状況だ。


 部屋には窓があって、外は真っ暗だ。夜だと思う。外の景色がぼんやりと暗闇の中に浮かんで見える。月の光か何かあるみたいで、完全に真っ暗と言うわけではないみたいだ。


 見える景色は、庭……なのかな? 木と芝生が見える。特に変わった様子は無い。


 部屋には、扉が付いている。寝ているおっさんたちに気を使いつつ、扉まで静かに歩いて、ドアノブを触ってみる。……うん。 鍵はかかっていない。


 ここが、牢屋か何かであるという事は、どうやら避けられたようだ。


 ドアを静かに開けてみる。カチャリと小さく音を立てて、扉は開いた。外は廊下になっている。部屋から出て右を見ても左を見ても、廊下が続いているようだ。結構大きな建物かも知れない。


 ふと、耳元から、囁くような声が聞こえて、体がビクッとなった。


「木村優太郎さんでゲスね?」


 声のした方を、慌てて振り向くと、そこには、何か変なのがいた。


「神様から言われて、優太郎さんにこの世界の説明、その他ヘルプサポートのために参りやした、あっし、アドンと申しやす」


 その、変な奴は、小さな囁くような声で自己紹介をした。どうやら、この世界の初心者たる俺に、いろいろ大事なことを教えてくれる奴みたいだ。あのジジイ神が寄越したって、こいつは言ってる。


 まあ、これも何かイメージだけで語ってしまって悪いんだけど、こういうのって、あれでしょ? 普通、妖精みたいな可愛い感じのキャラとか、天使みたいなキャラとか、まあ後は、コウモリの羽が生えた小悪魔的なキャラとか、そんな感じのが、宙にふわっと浮いているのが想像されるじゃない? 大きさも、まあ、子犬か猫くらいのかわいい感じの大きさでね?


 こいつも、確かにそのくらいのサイズではある。で、天使みたいな羽が付いてる。そこは良い。


 でも、なんで白ブリーフ一丁、それで細マッチョの、スキンヘッド男なんだろうね? しかも微妙にブサイクじゃないか? そいつが宙にふわっと浮いている。手に持ってるのは何だ? 指揮者が持つタクトみたいな棒を持っている。


 夜に声を掛けられて、振り向いてこいつが居ても叫び声をあげなかった俺を、褒めてやりたいくらいだ。


「ここじゃなんでゲスから、人の目が無いところに行きやしょ、旦那」


 そいつは、小さな声で俺に話しかけてくる。


 なんだお前は。人の事をいきなり旦那って呼ぶか。ここじゃなんでゲスって……お前は今から何か悪いことでも企むつもりか? どうも雰囲気が小悪党っぽいのは何なんだろうな。それに、話し方が何かゲスいな。まあ、その話し方、嫌いじゃないけど。


 とりあえずそいつ……アドンと名乗った妖精? について行く。アドンは、ふわふわ飛んで前を飛び、俺を連れて行って、扉を開けて外の庭に出た。建物の影の、人目につかないところに行く。


 何をするつもりだろうか? 


 アドンは、周りの人の目が無いのを確かめると、俺に話し始めた。


「ここならいいでしょ。さて、改めて、あっしはアドン。神様から使わされやした天使でゲス」


 ああ、妖精じゃなくて天使なんだ。そりゃそうか。神様から遣わされる、すなわち使いだから天使だなそりゃ。


「旦那は、まだこの世界に慣れていないだろうという神様の配慮により、神様からいろいろ説明するよう言われておりやす。まずは、こちらをご覧下せぇ」


 アドンが持っている棒を空中に指すと、そこにスクリーンのようなものがふっと登場した。それをまた棒で突くような動作をすると、そのスクリーンのようなものに画像が出る。なんか、パワーポイントを使ったプレゼンテーションぽい。


 画像に現れたのは、あのジジイ神だった。なんかスクリーンに映った動画を見てる感じだ。


「やっほ~ 転送出来たか~」


 相変わらずノリが軽いなこのジジイは。さっさと用件に入ればいいのに。


「さて、転送されてすでに気付いておるかもしれんが、ここは、ゲームの世界じゃ。ゲームの名前は教えてやらん事にした。文句言われたらいやだし」


 いや、そこが一番大事だろ。何故そこを言わない。


「でも、あんたが希望していた感じのゲームに転送したから、心おきなくサバイバルしてね? あ、それで、転送されて不安で一杯、そんなあんたに特別ボーナスがあるからね?」


 なんだろう。ボーナスって。しかしあのジジイ神だ。期待は禁物だ。


「まず、あんたの年だが、少し若返らせてやったぞ。 うれしい? うれしいよね? 今あんた25歳ってことになってるから頑張ってね!」


 これは嬉しい。10歳若返った。そう言われると何か体の動きのキレもいいような気がする。なんかすごく、あのジジイ神がいい奴に見えてきた。ありがとうジジイ!


「それと、あんたには特別な力が与えられたからね? ちょっと精神を集中させてみ? なんか起こるはずじゃ」


 そこで、アドンがすっと棒をスクリーンに指すと、画像が止まった。一時停止っぽいな。


 アドンが説明を始める。


「さて、ここで早速ではありやすが、旦那の特別な力を確認させて下せぇ。旦那、ちょっと精神を集中させてみて貰えやせんか?」


「あ、はい、分かりました。やってみます」


 心の中では好き放題言ってても、実際相手と喋る時にはちゃんと敬語。たとえ相手がブリーフスキンヘッドでも、それが社会人の常識だ。早速、適当に何か精神を集中させる感じで、「はああああっ・・・・」とか言って気合を入れてみる。


 既に気分はスーパーサ〇ヤ人だ。


 そうやって気合を入れてやっていると、何か左手に違和感を感じる。何だろう?


「旦那、もっと気合を入れて! 集中! 集中ですぜ!」


 アドンからそう言われて、さらに気合を入れる。


「うおおおっっ・・・」とか言って頑張っていると、左手に何かが在るのを感じた。そっと握っていた左手を開いてみる。アドンも左手を覗き込む。


 ……? 何だこれは。


 左手の手のひらに、直径1センチくらいの丸い黒っぽい球みたいなものがある。熱くも冷たくもない。固い感じでもないな。


「え……もしかして、ウ〇コ?」


 アドンが、修学旅行のバスの中でゲロを吐いた奴から素早く離れる、あの時の感じで、俺からすっと距離を置いた。


「違うし! ウ〇コじゃないし!」


 必死で否定する俺。そんな変な臭いはしないし、本当にこれはウ〇コじゃないから!


「ほら! 違うから! ほら! よく見て!」


 左手にある球をよく見てもらうため、必死で左手の手のひらをアドンに見せて近づく俺。それを見たくないかのように、嫌そうな顔で逃げ回るアドン。


「分かりやした! 分かりやしたから、大きな声出さないで! 騒がしいと人が来ますぜ旦那!」


 諦めたのか、アドンが逃げ回るのをやめて、俺に近づく。左手を差し出す俺。改めて二人でよく見てみる。


 黒っぽい球は、手のひらの上で、何やら溶け始めているみたいで、溶けたものが手のひらに付いている。甘い香りがふわりと鼻に届く。


 この感じ……もしかしてこれは……


 勇気を出して、右手の人差し指にその汚れを付けてみる。右の人差し指に茶色の汚れが付く。それを、思い切って、なめてみた。アドンが「ああっ」とか言ってるが気にしない。甘い味が口に広がる。


 あっ、これ……おいしい奴だ……


 これ、チョコレートだ。丸いチョコボールみたいな奴だ。普通においしい。


 アドンが、心配そうな、恐ろしい物を見てしまったような、そんな目で俺を見ている。アドンを安心させるため、そして俺という人間の尊厳を守るため、俺はアドンに伝えた。


「アドン、これはチョコレートだ。チョコレートが手から出てきたんだ」


 もうアドンに敬語の必要もないだろう。なんか俺が主人っぽい感じだし。


「チョコレート……?」


 アドンは、何が何やらと言った表情だ。そして、少し考え、はっとして俺に言った。


「じゃあ、じゃあ、旦那の特別な力って……手からチョコレートを出す能力でゲスか……?」


 うーん、そういう事になるな、これは。俺の特別な力って、これなのか? 手からチョコレートを出すって……何それすごいの?


「アドン、チョコレートを出せるってすごいのか?」


「いや、あの、手から何か出せるのは普通にすごいでゲスが、チョコレートって、普通にこの世界でも売ってる、ちょっと高級感のあるお菓子でゲスよ」


 えぇ……


 なんだそりゃ。ただ単に手からチョコレートを出せる、ただそれだけ? 何それ? ここって剣と魔法の世界よね? そこでチョコレートを一粒だけ手から出してなんの意味が? 


 ひょっとして、このチョコレート、ものすごく美味しいとか、食べると強くなるとか、体力が全部回復するとか、何か特別な力があったりして? 


 そう思った俺は、左手に残っている溶けかけのチョコレートを食べてみた。……うん、普通においしい。でもそれだけだ。何も起きない。特別死ぬほど美味いわけでもない。


 ただのチョコレートだ。これ。


「手からチョコレートって、旦那それはちょっとキツいでゲスよ……」


 アドンが、先程とは別の意味で引いている。


「普通、別世界からの転送者って、特別な力と言やあ、炎を飛ばすとか、水を操るとか、そんな感じでゲスよ……何なんでゲスかそれ……」


 いや俺に言うなよ、俺がそれに決めた訳じゃないし。


 だんだんとあのジジイ神に対する怒りが沸きあがってきた。あのジジイ、しょうもない能力寄越しやがって……手がプルプルと怒りで震える。


「っと、とにかく、続きを見てみやしょ、旦那。何かすごい力が秘められているのかもしれないでゲスよ」


 何かを思い出したかのように、アドンは一時停止していた動画をまた再生し始める。スクリーンのジジイ神がまた喋り出す。


「さて、あんたのはどんな能力だったかな? 強い能力だったらいいね! 大したことなくても、能力は鍛えたら成長するから、頑張って!」


 ……このジジイ、適当に能力付けやがったな……何が強い能力だったらいいね!だ。インス〇グラムかお前は。


 満面の笑みをたたえたスクリーンのジジイ神の動画は、まだ続く。


「あと、残りの細かいことは、あんたの横にいるはずのアドンに聞いといて! アドンは他の者からは姿は見えないし、声も聞こえない。見るのも聞くのも、あんただけしか出来ないよ! あと、アドンはあんたの質問には答えるけど、この世界やその他、基本的な事だけだし、あんたの手助けとか出来ないことになってるから注意するように!じゃあね~」


 そして、動画は終わって、スクリーンごと消えた。


 ……そんだけか、言う事は……


「このジジイ、バカだろ! 絶対バカだろ! 何がチョコレートを出す能力だ! 鍛えたからどうなるって言うんだ! 何がじゃあね~ だ! こんなんでどうしろって言うんだ畜生!」


 俺は、期待を裏切られたショックでがっくりと膝から崩れ落ち、声にならない声で叫んだのであった。


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