皇帝ケンイチ
「なあ、王様に会うときって、どんな感じで挨拶とかするんだ?」
「国によって違うでゲス。けど、まあ大体、頭を下げつつ片膝をついて……」
アドンからこっそりと礼儀作法を教わりつつ、椅子に座って待つ俺。
今、ミカさんを除く俺たち八人一行は、ここサイタマ帝国の皇帝、ケンイチに謁見するために、控室にて待機中なのだ。
普段なら人事の担当者に会うだけのところを、今回、皇帝から直接俺達に会ってみたいとの話があり、特別にこうなった……という次第だ。
「……あと、細かい所はあっしにも分かりやせんので、お仲間の人か、そこに居る城の人にでも聞くといいでゲス」
あ……アドンめ、説明が面倒なのか、俺に礼儀作法のレッスンをするのを途中で止めやがった。
仕方ない。リッカさんに聞いてみよう。一番詳しそうだ。
「えーと……リッカさん、こういう時の礼儀作法って……どうすれば……?」
「ふふ、ユータロー、心配しなくていい。私の後ろで、私のやるように真似をしておけば、とりあえず大丈夫だ」
うむ。リッカさんに任せておけば安心だ。何だろう、この安定感。まさにリーダーの器。
一方、隣にいるエレンの方を見ると、彼女は緊張しているようだ。表情が硬い。
肘でエレンをつつくと、エレンは俺の方を見てちょっと笑い、肘でつつき返してきた。……うん、多少は緊張は取れたようだ。
「そろそろ、皇帝陛下がおいでです。謁見の間に移動下さい」
お城の人から言われて、静かに移動する俺たち一行。
部屋に入るなり、「おお……」と、あくまでもダンディな声で、感嘆の声をあげる、モゲロさん。
謁見の間には、近衛兵? みたいな完全武装の兵士たちが、ビシッ! と部屋の両脇に並んで立っている。
壁には、何やら凄そうな、でっかい絵。天井には、これまた何やら凄そうなシャンデリア。うーん、俺、こういうの詳しくないから、どのくらい凄いのかピンと来ないのよね……残念。
そんな中、リッカさんが先頭に立ち、残りの七人は一歩下がって横一列に並び、片膝をついて頭を下げ、控える。
俺たちの前には、高い所があって、そこには玉座っぽい、豪華な椅子がおいてある。そして、その両脇には二人の人が立っている。見た感じ、何か側近って感じの二人だな。
そのうちの一人の男が、どうもターバンっぽいものを頭に付けていたのがすごく気になる。が、頭を下げて控えていないといけないので、今は見る事ができない。
「皇帝陛下、入室です!」
お城の人が、緊張感のある大きめの声で、皆に伝える。部屋にいる近衛兵たちが、一斉に姿勢を正す。
誰かが入って来て、玉座に腰を下ろすが、今の俺からは、マントと靴しか見えない。見た感じ、若そうな足取りだ。
「うむ、みな、立って顔をあげよ。楽な姿勢で良い」
声も若い。
顔を上げて前を見ると、そこには若い男が座っていた。年は、俺より少し年上か、同じくらいか?
見た感じ、自信ありげな顔つきだ。そして、眼力が凄い力強い。で、ケンイチと言うからには日本人かと思っていたが、何か日本人っぽくもあるが……何だ、この違和感……
「余が、サイタマ帝国皇帝、カルロス・ケンイチである」
……ああ、そっちか! あれか、日系ブラジル人的なやつか!
ケンイチは、俺を見ると、すぐに俺がユータローだと気がついたようで、話しかけてきた。
「うむ、その顔立ち、日本人っぽい名前、ユータローというのはお前だな? ……念の為聞くが、日本人で合っているな?」
「はい、日本人です。と言っても、今や元日本人と言ったところでしょうか?」
俺がそう答えると、ケンイチは顔色一つ変えずに、俺の言葉に反応した。
「ふむ、と言うことは、やはりお前も、"特別"か……チョコレートを出せるというのは、お前のその"特別"な出身のせいだな?」
「はい、そうです!」
何だか嬉しくなって、元気よく答えてしまった。多分、この人……皇帝ケンイチも、俺みたいに他の世界から来た人だ。
「そうか……実は、余も特別な力を持っておる。説明は省くがな……そして、ここに控える二人も、お前や余と同じ、特別な力を持つ者達だ」
ケンイチがそう言うと、両脇に控えていたローブ姿の二人が声を発した。
「俺は、マハール。クジャ・マハールだ」
両脇に立っていたうちの一人、ターバンを頭に巻いてる男……だいたい40歳くらいか? が、先ず名乗った。あごひげがバッツさんより長い。
おお……これは……インドか? インド系だな? 間違いない。インドか、またはその近くの国の人だったと言う事で間違いない。
そしてもう一人の若い女……と言っても、20代後半くらいか、リッカさんやエレンよりちょっと年上っぽいこの人は……黒くて長い髪の毛を、左右に分けてお団子みたいにして、頭の上の方でまとめている……うむ、これは恐らく……
「私は、ヤン・メイファ。よく来たね、私達と同じ、特別な力の持ち主さん」
やっぱり! 中国か台湾系だと思った! 俺と同じアジア人の感じ、凄い出てるしな!
まあ、よく考えれば、世界の人口のうち三分の一は、中国人かインド人って言うしな。割とあり得る話だ。
心の中で感動している俺に、ケンイチは尋ねてきた。
「お前は、チョコが出せるそうだが、一体どのような力なのだ? お前の力、少し見せてみよ」
俺の力か。ふっ、よく聞いてくれたぜ。この三人には、とくと俺の力、見てもらうとしよう!




