サイタマ帝国に着く
「あ……ごめん、つい……」
エレンに見とれていて、エレンの話をちゃんと聞いてなかった俺は、慌ててエレンの顔をちゃんと見て謝った。
「まったく……まあいいわ、で、ユータロー」
エレンが、身を前に乗り出す。
「リッカとバッツさん……見ててどう思う?」
「えっ……? そりゃあ、仲が良いなと……思うよ?」
「ふーん……他には? 他には何か無いの?」
何だろう、この感じ。
俺の答えには何かが足りない、とでも言いたそうな感じだ。うーん、エレンは俺から何を引き出そうとしているのか……
「まあ、私も……二人はすごくラブラブだなぁ……って思うよ? で、他に何か思ったりしない?」
そう言って、また俺の言葉を待つエレン。
……もしかして、もしかしてですけど、お友達からステップアップをお考えなのでしょうか? エレン様は?
……どうなんだ? どう思う? 教えてくれバッツさん! 俺には難しすぎる問題をエレンから問われています!
俺が黙っていると、エレンは、軽くため息をついた。
「はぁ……何もないの? ユータロー。何かもっとこう……あるでしょ?」
うん、俺、このセリフ、あのジジイ神に言ったことがあるような気がするな。
そして、俺もエレンも黙ったまま、時が流れる。それが何秒間くらいだったのかは分からない。
うん、ここはエレンから笑われても、言うべきだな。覚悟はできたぜ。
「うん、有る。あの二人を見てて、いつも思う事が一つあるよ」
「う、うん……」
エレンの雰囲気も、急に変化した。何というか……攻めと守りが交代したかのような、そんな感じだ。そして、今からは俺のターンって事だ。
よし、逝きます。男は度胸だ。
「羨ましいって思ってる。俺も……エレンとああなりたいなって思ってるんだ」
逝ってしまいました。
「……」
エレンは、じっと黙っている。顔を下に向けているので、今どんな表情なのかが分からない。
毒を喰らわば皿まで……何故かこの言葉が、俺の頭の中に思い浮かんだ。
このことわざがこの場に相応しいものなのか、それは分からない。けど、俺はさらに逝ってしまうことに決めた。
「出来れば、エレンを嫁にもらいたいと思うくらいだ」
言ってしまった。うん、これで三振かホームランか、どっちかだけになりましたね。
「えっ……ヨメ? ヨメって?」
ああ、嫁という言葉が伝わってなかったか。何度も言うのは恥ずかしいな、これは。しかし、ここで止まるわけにはいかない。
「嫁と言うのは、妻って事だよ……! 2回も言わせないでくれ……恥ずかしくて死にそうなんだから……」
「……」
エレンは、また下を向いて黙ってしまった。
どうなる……俺はどうなるんだ……逝くのか? やはり、逝ってしまうことになるのか?
「ユータローってさ、男らしくないよね」
エレンが、ぽつりとつぶやく。
「えっ……」と俺。
やっぱり、駄目だったか。まあ、いきなり嫁とか言い出すとそうなるよな。仕方ない。顔を下に向ける俺。
「それに、何か自信なさそうだし、弱気な感じだよね。だからさ……心配したよ」
何を心配するというのだ……エレン。何を次に言うんだ?
わからなくて、俺はまた顔を上げて、エレンに向け、そこで俺はハッとした。
そこには、嬉しそうに笑っているエレンの顔があった。
「私にここまでお膳立てされて、それで何も言ってくれなかったらどうしよう……ってね。まさか、ヨメ……だっけ? そんな話までしてくるとは思わなかったけどね」
これは……
「うふ、うふふ、うふふ……」
エレンも……ちょつと何かおかしくなってるような……普段はしないような、変な笑い方になってる。
「嬉しい……っ!」
やったのか? これはやったのか!? OKなのか? いやOKでしよ!
「私、ユータローのヨメになるから! 後から、あれは無しとか言っても駄目だから!」
「言わないよ! 言うわけ無いだろ! エレンを嫁にしたくない男が存在するはずがない!」
自分でも何を言ってるか分かりません。ハイ。
「じゃあ、約束だからね! 約束したからね!」
そう言うと、エレンは立ち上がって、自分の泊まる二階の部屋に走って行ってしまった。
走っていきながら、エレンが口を手で隠しながら、「うふっ、うふふっ……」とか笑っていたのを、俺は見逃さなかった。
バッツさん、リッカさん、エレンに見せつけてくれちゃって……ありがとう!
お父さん、お母さん、私、木村優太郎は、ここ遠い異世界の地で、幸せになります。今まで育ててくれてありがとうございます! ……まあ、一回不幸せなまま死んではいるけどね。
みんな、みんなありがとう! リチャード、モゲロさん、今まで「くそっリア充め」とか心の中で思っててゴメン! 僕もそっち側に参ります!
今なら、俺は周りのすべての生きとし生けるものに祝福する事ができる、そんな気分だ。
気分最高のままに、俺は二階の男性宿泊用の部屋に戻り、そのままニヤつきながら眠りについた。
次の日の朝、皆に出されたチョコが甘過ぎになっていたのは、俺のせいです。すまんべミオン。楽しみにしてるのにな、いつも。
首都・カワゴエに向かう途中、ミカさんがリッカさんに、「昨日、エレンさんがずっと『うふっ、うふふっ』って寝ながら笑っていたんですけど、大丈夫でしょうか……」って、ひそひそ相談してた。すまない、ミカさん。俺のせいです。
みんなの前では、俺とエレンはあからさまにベタベタすることなく、俺たち一行は、無事に首都・カワゴエへと到着したのであった。




