死んだら神様がいた
多分、死に方が少しだけ可哀想だったからかどうか知らないけれど、何か死んだら神様と会う事が出来た。
可哀想な死に方って言っても、別に大したことは無くて、ただビルの屋上から飛び降り自殺してきた人に巻き込まれてぶつかっちゃって死んだっていう、ただそれなんだが。
むしろ、死ぬ前の方がけっこう大変だった。一人っ子で、両親が介護が必要になって、でもまだ寝たきりって程じゃないから家で介護して、仕事もあるし、結構精神的にきてた・・と思う。35年生きてきたが、そんな感じなので時間的な余裕もないし、出会いも無かった・・と言いたい。
いや、学生の時、て行っても高卒だから高校の話ね? そこでは彼女もいたのよ? でも、結婚まではいかなかったなあ・・
で・・俺は今、ここは霊界? 黒い宇宙空間みたいな、良く分からない空間で、何やらふわふわ浮いている。目の前には、白い服の仙人みたいな爺さんがいる。こっちを見て、何やらにこにこ笑っている。
「人生お疲れ様~」
この爺さんの、注目の第一声がそれであった。何だろうなこの人。神様か? ノリがそこら辺の爺さんだな。
その爺さんは、引き続き俺に話しかけた。
「多分もう分かっていると思うけど、あんた死んだから。まあ、あんまり自分の時間の取れない人生で、ちょっと苦労もしたみたいだね。ていうわけで、お疲れ様。残された両親の事はあんたは気にしなくていいよ。この後、老人介護施設に入って穏やかな生涯を送る予定だから。施設に入る金はどこからって? そりゃああんたの生命保険からだよ。だから、この世に未練を残さず、心おきなく死んでね?」
おう、なるほど、それだったらむしろ俺が死んだ方が良かったかな? しかし、何かこの爺さんの言い方はむかつくな。初対面の人に、心おきなく死んでね って・・ 社会人として、最初は挨拶からだろうと言いたい。
なので聞いてみた。
「あの、あなた誰ですか? 人間じゃないのは分かりますけど、いったい何者で? あ、俺は木村優太郎と言います」
最初は、まずこのように無難な挨拶から入るものだろうが! と心の中で言いながら、目の前の爺さんに問いかけてみた。
爺さんは、いや分かるだろと言わんばかりの憮然とした顔で、こう答えた。
「あたしゃ神様だよ」
……なんだそりゃ。どこかの某有名コメディアンか。しかしまあいい。ちゃんと答えはしてくれるのが分かった。
「なるほど、じゃあ神様、俺はこれからどうなるんですか?」
ほんと、これからどうなるんだろう。あれか? 地獄とか天国とかか? それとも生まれ変わるって話か? そこは気になるところだ。まず聞いておきたい。
「うん、いい質問だねあんた。あんたは、これからまたどこかの世界で生きることになるよ。でね、まあ人生がちょっとハードモードだったから、今回は少し相手の希望を踏まえたうえで、次に生きる世界を決めることが出来るよ? どうする? なんか、次に行く世界で、こんな世界がいいって希望ある? 最近の死人は、ファンタジーの世界とかゲームの世界とかに行きたがるのが多いけどね。 なんかそんなのが流行ってるのかな? まあいいけどね。 あんたはどうなんだい?」
居酒屋で「どうだ最近は」みたいなノリで話を聞いてくる上司みたいだな、おい。
軽い感じで、結構すごいことをさらっと言ってるな。 ……ゲームの世界? なにそれすごそう。俺も行きたい。ていうか、もうそこしかないよね。
「じゃ、ゲームの世界希望でよろしくお願いします」
なんか、次の世界への希望が湧いてきたぞ。
「ああそう? やっぱりそこなんだ。 最近の死人は、本当そこ多いわ~。 よっぽど流行ってるんだろうね、ゲームの世界に転生って。 まあいいやね。で、あんたは日本人だから、やっぱり、あれかな……和風な奴がいいよね? これなんかどうかな?」
どうもやっぱりムカつく話し方で、その爺さん……神様は、懐から何かゲームを取り出した。
そのゲームは……おれも実物は見たことは無いが……あれだな、あの、農民がカマを投げたりしながら、お殿様をやっつけるゲームだな。ファミコンであった、あのゲームだな?
それ……い〇き……だよね? サンソ〇トから出てた。
「そんなんで良いわけねえだろクソじじい! なんで俺がゲームでも農民しないといけないんだよ! しかも一揆とか起こしたらすぐ死ぬだろうが! 和風じゃなくていいんだよ! もっとこう、冒険、ダンジョン、モンスター的なやつは無いのか!」
俺が社会人にあるまじき言葉遣いであったことは認めるが、つい心の叫びが出てしまった。
そんな失礼な俺にも、このジジイは、居酒屋でのバカ話のノリを崩さない。
「こわっ! おお~こわっ! 何じゃいきなり? 最近の死人はすぐキレるから怖いわ! もう神様やっていく自信無くすわ! えっと何だって? 冒険、ダンジョン、モンスター? ええと……なら、これならいいんじゃろ? これなら!」
そう言って神様がゴソゴソと懐から出してきたのは、また別のゲームだった。
そのゲームは…あれだな、冒険者が洞窟を探検するゲームだ。……これも実物を見たことは無いが、中古ゲーム屋で見たことはあるな……あの、キャラ一つ分の高さから落ちたら死ぬ、あのシビアなゲームだな……確かにお化けも出ることは出る……
それ……スペラ〇カーだよね……ア〇レムっていう会社から出てた……
「アホかお前は! そんなゲーム行ったらすぐ死ぬわ! すぐ死ぬ! 冒険、ダンジョン、モンスターってそっちじゃないわ! 剣と魔法、ファンタジー、そんな奴だボケ! なんかもっとこう……あるだろう!」
この俺が社会人としてあるまじき、モンスタークレーマーのような態度をとってしまったことは認めざるを得ない。しかし、魂の叫びが出てしまった。今後の人生を大きく左右する選択、疎かにするわけにはいかない。
……ていうか、こいつバカだろ絶対。このジジイ、本当に神様なんだろうな?
このジジイ神様は、わざとらしく恐ろしがって、オーバーなリアクションで縮み上がっている。顔がニヤけているのが見てすぐわかる。完全に楽しんでやがるなこのジジイ。
「お~こわっ! じゃあもう分かった。 も~う分かった。 じゃあこれで良いな? もう変更なしね! はい決定!」
そういうとそのジジイ神様は、懐からなにやら他のゲームを取り出した。そしてそれを宙に放り投げる。急だったので、どんなゲームかあんまりよく見えなかった。
周りの空間が急に小さくなっていくような気がして、俺は意識が遠のいていくのを感じた。
そして……気が付くと、俺は、変わった世界にいることに気が付いた。