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東が西で南の北へ  作者: マサヤン


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初めまして 第2話

一晩明けて、目を覚ました。


まず最初に思ったのは、昨日の出来事が夢じゃなかったかということだった。

半分ほど身を起こし、視線を向ける。


――そこに、ちゃんとあった。


机の上昨日と同じ場所に卵はある。

間違いない昨日の事は現実だ

ほっと胸をなで下ろす。


近くに行きそっと触れてみる

温かい。

昨日と同じだ。


そこで、ふと不安になる。

卵を孵すために、何が必要なんだ?


俺は何も知らない。

知識も経験もない。

スマホで調べようと手を伸ばした、その瞬間――


手に取ろうとしたスマホのアラームが鳴った。


「……くそ、もうバイトか」


こればかりは仕方ない。

卵をどうするか少し悩み、今自分が寝ていたベッドの布団の中にくるむ。

できるだけ、温もりが逃げないように。


休憩時間に、ちゃんと調べよう。

そう決めて家を出た。


バイトは派遣型の肉体系。

高校を出て、なんとなく就職した会社は、なんとなく合わなくて辞めた。

その後はいろんな仕事を転々として、今はここに落ち着いている。


俺にサラリーマンができるとも思わなかったし、

体を動かしている方が、案外楽だとも思っている。


給料は悪くない。

ただ――未来がないことも分かっている。


昼休憩、スマホで卵の孵化について調べた。

だが、やはり分からない。

似たような卵も見つからない。


夕方、仕事を終えて帰宅する。


「ただいま」


一人暮らしになって、久しぶりに口にした言葉だった。


体は昼間のバイトで疲れてはいた。

それでも、最優先は卵だ。


布団をめくる。


あった。


朝と変わらない姿で、そこにある。

触れると、ほんのり温かい。


シャワーを浴びる前に、口元の絆創膏を剥がす。

今日も何人かに聞かれた。

その傷はどうしたのか、と。


昨日、帰り道で転んだ。

そう言ったら、マヌケだと笑われた。

うるせーよ。この傷が俺の輝かしい

未来に繋がるチケットなんだよ。

そう心では思っていたが

たはは、と笑う事でごまかした。


シャワーを終え、消毒をしてから絆創膏を貼り直す。


帰りに買ったビールを飲み、つまみを食べながら

孵化についてもう一度調べてみる。

この卵のような大きさ模様の物は

画像検索しても、ヒットしない。


かといってイミテーションのような

そう、例えばイースターエッグように飾り付けた物だとも思えない。


分からない事ばかりだったけど

結局、出た結論は同じだった。


温もりがあること。

そうこの卵は生きている

何かが生まれようとしている。

そう信じたい。

後は冷やさず、温めればいいかもしれない。

専門家でもない俺にはこれ位しか分からなかった。

まぁそれでいいんだ。

そう納得するしかなかった。


寝る時間。


布団の上の卵を、少しだけずらす。


「……潰れないよな?」


軽く、指で叩いてみる。

【コンコン】

意外と、硬い感じがする。


寝相で蹴ったり、寝がえりでつぶれたり

しないだろうか?

不安もあったがやはり温めるほうが優先か

そう思い、少し悩んで俺はそっと腕を回し

お腹の部分に引き寄せた。


温かい。


「……早く生まれてくれよ」


小さく呟いて、目を閉じる。

今までの人生の中で感じた事の無かった

父性なのか母性なのか

良く分からない感情を感じつつ

深い眠りについた。


その後の生活は意外と順調に進んで行く。

昼は働き、夜は卵を抱いて眠る。

奇妙な共同生活にも慣れ、気づけば二週間が経っていた。


顔の擦り傷はきれいに消えてくれた。


卵は孵らないままだったが

それでも、卵はずっと温かかった事が

俺に希望をもたらせていた。


このまま孵らないのでは?

いや、これでいい。

不安と期待が交互に俺を襲う。


――そんな風に自問自答を繰り返していたある夜。


寝ていた俺の腹の奥が、じんわりと熱く感じる。

次第に、焼けるような熱さに変わってくる。


飛び起きた。


思わずベッドから飛び降りる。

電気は消えたまま。

部屋は真っ暗なはずなのに――


分かる。


卵が、光り輝いている。


「……来た?」


ようやくファンタジーが来るのか。

心臓が跳ねる。


ワクワクが止まらない。


「これが俺の一発逆転だ――!」


その瞬間、卵が弾けた。


鼓膜が破れるかもと思うような破裂音。

溢れる光。


直視できず、俺はその場にうずくまる。


どれくらい経ったのか分からない。

やがて、静寂が戻る。


恐る恐る、電気をつけた。


ベッドの上を見る。


そこには――

そこにはでっかいヒヨコがいた。


目と目が合う。


沈黙。


ヒヨコは、片方の翼を上げながら、


「ぴー」


と鳴いた。


「……どこが一発逆転なんじゃああああ!!」

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