8
「妹さんは好き嫌いしないんでしょうか。私はイチゴ味のお菓子が大好きなんですが、なぜかイチゴオレだけは飲めないんです」
「お酒は?飲めないのある?」
「お酒ですか?」
メニューを見る。
「この辺は、飲んだことないから分からないですね」
「ビールの苦いのとかも平気?」
「ええ、ビールも飲めますよ」
「じゃぁ、大丈夫じゃないかな?飲んでみる?飲めなかったら僕が飲むから試してみたら?」
せっかくなので、飲んだことのないものをお互いに注文して、飲めなかったら交換することにした。
「あ、おいしいかも」
「本当だ、これももっと甘くて飲めないかと思ったら案外いける」
「新発見にカンパーイ」
「カンパーイ」
なんて、気が付けば菜々さんの元カレ(仮)と、食べ物と飲み物の話で盛り上がってしまいました。
「結梨絵さん、モテるよね?」
ん?お酒も5杯目になるころ、突然話が変わりました。
「モテませんよ。今日は菜々さんにいつもよりかわいくしてもらったんです。そっちは?モテるんですか?」
顔もよく見えてないのでモテそうともモテなさそうとも判断がつかない。体格は悪くなさそう。性格も話しやすいですし。
「いやぁ、まぁ、なかなかいい出会いはない……かな」
おや、モテないよと否定しませんでしたよ。いい出会いがないですって。
つまり、モテるけど好みの女性とは出会えないってことかな?ふぅーん。イケメンなのですか。
菜々さんはきれいだし、美男美女カップルだったのでしょうか。それはそれは。
「え?何これ?」
菜々さんの声に、何事かとテーブルに視線を向けると、運ばれてきたサラダのど真ん中にどーんととげとげした丸いのがのっています。
「うわぁ、珍しい。アーティチョークですね」
「アーティチョークって、名前は聞いたことがあるけれど、これが?」
「クジラの刺身といい、珍しいメニューがいろいろと出てきますね。今日はここに来られて得しました。菜々さん、ありがとうございます連れてきてくれて」
「うん、よかった。楽しんでくれて」
菜々さんではなく元カレ(仮)のほうから返事が返ってくる。
「なんで、そっちが返事するの?」
菜々さんが当然の抗議。
「この店を選んだのが僕だから」
えーっと。
二人がにらみ合っている気がします。目線まで見えないからなんとなくそんな気がするだけですが。
「これ、食べ方知ってます?なかなかむつかしいんですよ」
アーティチョークをつかんでとげとげのガクの部分をガンガン向いていきます。
そうして、ビニールひもを割いたような髯ひげが出てきたところで、髯もむしっていく。で、最初の大きさの2割~3割になったところで。
「はいどうぞ。ここの白っぽいところ、おいしいですよ」
「え?食べられるところ、これだけなの?」
元カレ(仮)が、スプーンでアーティチョークの白いところをすくって私の目の前に差し出した。
「おいしいなら、まずは結梨絵さんからどうぞ」
「あ、いや……」
目の前に差し出されたスプーン。
スプーンを受け取って、菜々さんに差し出す。
「豆とか平気ならおいしく食べられると思います」
「あ、ありがと」
菜々さんがパクンとスプーンに乗った白い実を食べた。
「おいしぃ」
菜々さんのきれいな顔が私の顔のすぐ横に来た。
「結梨絵ちゃんおいしい」
眼鏡がなくても、この距離ならおいしそうな顔が見えます。
おいしいものをおいしいっていう顔で食べる人は好きです。食堂で働いているからというだけではないです。
おいしいものもまずそうにしか食べられない人はかわいそうです。
「あと、知らない人も多いんですけど、この額の根元の白いところも食べられるんですよ?」
先ほどむしり取ったガクの白い部分にスプーンを当ててこそいで食べる。
「私はどちらかというとこの部分が好きなんです」
ガクを一つ、元カレ(仮)に差し出す。