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 菜々さんに連れられて、居酒屋へ。すでにほかのメンバーは集まっていたようで、居酒屋の入り口で予約した人の名を告げると席に案内されました。

「遅くなってごめんなさい」

 席には女子二人と、スーツ姿の男が3人。ラフな格好の男が2人座っていました。

「今、飲み物注文して、これから自己紹介始めるところ。ちょうどよかった」

 中央に座っているスーツ姿の男の人がメニューを菜々さんに差し出します。

「げ、」

 メニューを受け取り席に座ろうとした菜々さんが、のどの奥から声を出す。

 げ?

「げ、……なんでお前が」

 一番手前に座っていたスーツ姿の男が、菜々さんと同じように声を上げました。

「いや、そっちこそ、なんでここに……」

 どうやら、こういう席では会いたくない知り合いだったようです。

 うん、元カレとかね。そういうのありますよね。

 深く突っ込まないでおいたほうがいい案件ですよね、きっと……。

「え?何?二人は知り合いなの?」

 メニューを渡した男が触れないでいい案件に触れました。

「あ、まぁ……」

 と、菜々さんが言葉を濁し、スーツ男が話題を変えた。

「それより、自己紹介はじめようか。遅れて来た二人は飲み物頼んで。飲み放題だから、ここに書いてあるの全部」

 飲み放題。

 ふふふ。ごちそうになります。

 眼鏡をはずしているので、メニューは机の上ではなく両手で持って目の前に持ってきてみないと読めません。

 そうこうしてる間に、自己紹介が進んでいたようで。

「次は何ちゃん?」

 とんとんと、隣に座る菜々さんが腕をつついた。

「あ、結梨絵です。初めまして。えっと、モスコミュールを飲もうと思います」

 あ。

 男性陣がぷっと笑いました。

「す、すいません、メニューを考えていたので」

 と言って口を押える。

 これじゃぁ、男性陣に興味がないと言っているようなものです。自己紹介を聞いていなかったのがバレバレです。

 合コンに来た女がそんなんじゃぁ、菜々さんの立場が……。

「え、っと、皆さんは何を注文したんですか?」

 興味があるふりをするのは、質問するのが一番だって、偉い人が言ってたような気がします。

「ああ、僕たちは、全員仲良く、とりあえず生」

 一番遠く離れている席の男性が答えた。

「私はとりあえずソルティドック」

「とりあえずウーロン茶」

 菜々さんを挟んで隣の女性が答えた。

 あ、いい人です。

 なんか私がぼけちゃったのに、場を盛り上げようとしてくれます。菜々さんのお友達ですよね?みんないい人。

 で、初夏ちゃんが丸山君を狙ってるんでしたよね。でも、誰が誰?自己紹介を聞いてなかったから全然分かりません。

 えーっと、とりあえず、菜々さんの知り合い……元カレなのかなんなのかよくわからない人だけは、間違いなく丸山君とは違いますよね。

 というわけで、目の前に座ってる菜々さんの元カレ(仮)さんと話をしてれば問題ないはずですね。

 ちょうど、一番端っこ同士ですし、不自然はないはずです。

 と思ったけれど、菜々さんや男性側の一番遠い席の人が上手に気をまわして会話を進めてくれるので、話を振られた時以外はもぐもぐごくごくと、食事をすすめております。

「はー、この魚おいしいな、初めて食べた」

 同じように箸を動かし続けている菜々さんの元カレ(仮)がちょっと驚いたような声を上げました。表情はよくわかりません。

 眼鏡をかけていないので顔はぼんやりしか分からないのです。

 イケメンなのか普通なのかの判断も怪しい。かろうじて、眼鏡をかけてなくて、前髪を中央で二つに分けていて剥げてない。眉毛は太くもなく細くもない。太ってもないなというのがわかる程度ですね。

「驚くほどおいしいんですか?」

 気になって海鮮盛りに乗っていた同じ赤身の刺身を口に入れる。

「あ、これ、クジラですね」

 クジラは確かに海鮮だけど魚ではない。

 魚だと思って口に入れると驚くのは分かります。

「え?これがクジラなのか。初めて食べたけど、どの魚とも違うし、肉……と言われても、近い肉は何か言われてもむつかしいな」

「そうですねぇ。クジラの唐揚げは、ビーフジャーキーとマグロの竜田揚げの中間っぽい感じだって言ったりしますが……刺身はレバーっぽくて苦手な人もいるらしいですけど……」

「ああ、レバーか。言われてみれば、肉ほどの硬さがなくて柔らかいし、魚介のような生臭さというよりは、レバー寄りの臭みと言われれば」

「言われないとレバーじゃないですよね。あ、レバーが苦手な人が食べると、めちゃくちゃレバーだって思うんでしょうか?」

 もう一切れクジラの刺身を口にする。

 うん、レバーほどレバー臭さなんてないのですけどねぇ。

「わかる気がする。僕、きゅうりが苦手なんだけどさ、サンドイッチに挟まってるだろう?」

「ええ、コンビニのサンドイッチには挟まってないのも増えましたけど、食堂のサンドイッチにはきゅうり挟まってますよね」

「そうそう、食堂!きゅうりを抜いても、一度挟んであるときゅうりの風味がハムにもパンにも残ってるんだよ。ほかの人に言わせればそれくらいって言うんだけど……だめなんだよ、あれが」

 そうそうって相槌打ちながら話をしていますが、食堂ってどの食堂の話なんでしょう?私が言ったのは学食のことなのですが。私の職場の……。

「ぷっ」

 隣で菜々さんが笑った。

 うん、まぁ、いい年してきゅうりが苦手って言ってるのは子供か!って思う気持ちはわかります。

 でも、意外といるんですよね。食堂で働いていると。

 トマトがどうしてもだめとか、ねぎを抜いてくれとか、何かがダメな大人って。教授にもいますからね。

「どうしてもだめなものってありますよね。大根おろしがどうしてもだめっていう人もいますよ。おでんの大根は大好きなのに、大根おろしだけは食べられないとか。ケチャップは大好きなのに、トマトはだめだとか。変わり種としては、キャベツは生でも煮ても焼いてもなんでも食べられるのに、ロールキャベツのキャベツだけはどうしても食べられないとか」

「それ!それだよ、それ!僕も、きゅうりはどうしてもだめなんだけど、きゅうりの漬物だけは食べられるんだよ!妹には単にわがままだって信じられないって言われるんだけど」


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