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「いつも、掲示板楽しみにしてます」

 ああ、あのって、そのことでしたか。

「ありがとう」

「えっと、どうして白井さんが?」

「学生相談室の相談員は男性なので、化粧は分からないからって頼まれたのよ。えーっと、これ、学生相談室の人が買ってきたものなのだけど」

 ちょっと乱暴かなとは思ったんだけど、袋をさかさまにして中身を全部テーブルに出す。

「え?」

「化粧って、こんなにたくさん必要なのですか?」

 ソファに腰かけて、リュックから化粧ポーチを取り出す。

「そんなに必要ないわよ。ただ、もっときれいに、もっとかわいくって、どんどん必要なものが増えていくこともあるんだけど……それは少しずつ覚えていけばいいと思うので、まずは……」

 化粧ポーチをの中身を一つ取り出す。

「あ、そうだ、二人ともアレルギーとか、肌が弱いとかない?大丈夫かな?」

「大丈夫です。えっと、自分でも化粧品を買って試したこともあるので……」

 そうか。やってみたけどできなかったのね。だから学生相談室にSOSを……。

「持っているものがあればそれを使えばいいからね。今日は、手元にないものは、ここのものを使えばいいから。まずは、探してみて。下地とファンデーション」

 化粧ポーチからいつも使っているイエロー系化粧下地とオークル系パウダーファンデーションを取り出す。

「下地?」

 横山さんが首を傾げました。

 そうですよね。うん。黒崎さんレベルの知識スタートですよね。

「肌とファンデーションをくっつける糊みたいに思えばいいかな?ああ、糊とも違うか。顔色もよく見せたり、くすみを抑えたり、赤身のある肌ならこの色、血色をよくしたければこの色みたいに、使い分けることもできるんだけど」

「糊……あ、化粧のノリがよくなるって、そういうことなんですね」

 違います。ごめんなさい。

 説明がへたくそです。

 取りあえず自分の顔に少し塗って見せました。

「肌の感じが違って見えるでしょう?」

 二人は分かってくれたようです。

「それから次は……えっと、ちょっとこれじゃぁ探しにくいから、分けましょうか」

 テーブルの上の化粧品の山を、ファンデーション系、アイメイク系、ブラシなどの道具系、大まかに分けて置きます。

 そして、説明再開です。

「下地って、これでいいですか?」

 二人の選んだ下地を確認します。今回は化粧の基本なので、これとこれを組み合わせると神!ということにはこだわりません。

 パウダー塗って、下地塗って、ファンデーション塗って、もういちどパウダー塗って、霧吹きで化粧水吹きかけて、ティッシュで押さえると崩れにくいとかそんな高等テクニックも使いません。

 二人とも、私の真似をして黄色を選んでいます。

「はい。黄色は基本なので問題ないです。ピンクを使うと血色がよく見えます。元気な印象を出したいときに使うといいです。逆にクールに見せたいときは紫ですが……就職活動では、黄色かピンク、赤味が気になる友達がいたらグリーンをすすめてもらえば問題ないですよ」

 私の場合は、疲れてクマが出ているときはオレンジを使ったりもします。

 年齢を重ねていくと、いろいろと使うものも変わっていくのです。

 それから、二人が選んだファンデーションが顔色にあっているか見ます。

「顔に塗る前に、腕に少しつけておきましょう。念のため、かゆくなったり赤くなったりしたら合わないから使わないほうがいいですよ」

 二人は言われるまま、今選んだ下地とファンデーションを少しだけ腕の内側に塗りました。

「えっと、それから……」

 若いっていいなぁ。肌ぴちぴち。ほかに何も必要ないよね。

「必要ないと思うから忘れてもいいけれど、もし友達で悩んでいる人がいたら教えてあげて。コンシーラー。これはシミやそばかす、目の下のクマの上にちょんちょんとつけて隠すときに使うの。それから、シャドーファンデ。小顔に見せたいときや、顔の凹凸を強調したいときに陰影をつけるもの」

「あ、イラスト描くと思えばいいんだ!」

「そうか。自分の顔で絵を描くって考えれば、確かに化粧もできそうな気がしてきた!」

 二人が盛り上がっています。

「絵を描くの?」

 学生さんには絵をかくことが趣味の子たちも多いです。

「はい。白井さんも絵をかきますよね!掲示板の返信に書いてあった犬、かわいかったです!」

 え?犬?

「犬は、描いてませんよ?」

「やだ、白井さん、描いてたじゃないですか!」

 ……。

「もしかして、猫の絵のこと?」

 横山さんと村上さんが固まりました。

「猫だったんですかぁ?」

「猫に見えませんでしたか?」

 ぷーっと、3人で思わず笑いました。

「楽しそうだね」

 黒崎さんが背中から鏡を差し出してくれました。

「あっ」

 小さく声を上げて、二人が黒崎さんの顔を見ています。

 ちょっと腰が引けている気がします。

「鏡、ありがとうございます。えっと、黒崎さんはあちらで待っていてくれますか?話は聞いててもかまいませんが、化粧する姿を凝視されると困りますから……」

 男性に化粧してる姿見られるのって、平気な人もいるけれど大多数は見られたくないです。

 しかも、興味深々にイケメンにじーっと見られていては、落ち着いて化粧なんてできません。間違いありません。

 今はすごく中途半端な状態なので、顔を黒崎さんの方に向けるのはやめておきます。背中を向けたままで失礼なのは許してほしいです。

「あー、分かった。えっと、また何か必要なものがあれば言ってくれ、すぐそこにいるから」

 黒崎さんはパーテンションの向こうに行ってくれました。声の届く距離に椅子を寄せて座ったようです。

 うーん、これはしっかり説明を聞くつもりでしょうか。

 気にしては負けです。

「じゃぁ、続きね。まずは必要なものをそろえていきます」

 そして、最終的に、必要最小限の化粧品を各自の目の前に並べました。

「あの、写真撮っていいですか?」

 スマホを抱えて、二人とも並べた化粧品を写真に撮っています。

 ……黒崎さん、資料として後でほしがるかもしれませんね?私も撮っておきますか。

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