表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/63

6

「肌は弱いほう?化粧とか大丈夫?私、化粧してあげるから。髪の毛もセットしよう」

 菜々さんが、私の手を引いて歩き出した。

「え?私が、化粧?髪の毛をセットするの?」

 引き立て役として連れていきたいわけじゃないんでしょうか?

 それとも、相手の男性たちを怒らせないための最低限の見栄?

「あ、いやかな?もしかして、結梨絵が気になる男の人が来るかもしれないでしょ?その時に、化粧くらいしてくるんだったって後悔してほしくないんだ」

 !

「わ、私の、ため?」

 菜々ちゃん、この子いい子です。

 誰かを引き立て役にするような子だと思ってごめんなさい。

 相手の男たちへの見栄だとか思ってごめんなさい。

 まさか、私のためだったなんて。

 正直なところ、今は彼氏とか欲しいと思ってないから、どうでもいいんですけど。

 でも、この格好で行けば、なんでこんな子連れて来たんだって菜々ちゃんが悪く思われちゃうかもしれません。

 それは申し訳ないので、素直に菜々ちゃんに化粧してもらうことにします。

「ロッカーにいろいろ入ってるから、来てくれる?」

 おっと、その前に。

「ちょっとタイムカードだけ押させてください」

 

 髪の毛のゴムとピンを外し、小分けにしてヘアスプレーをかけてカーラーをまかれました。

 その状態で化粧開始です。

「眼鏡ないとやばい?何も見えない?食事するのに支障がある?」

「大丈夫です。手元の食事くらいは問題ないです」

「じゃぁ、眼鏡はずしちゃって構わないかな?」

 菜々ちゃんは一つずつ私の意思を確認して、ごり押しはしません。

 見た目が派手でチャラそうなんだけど、面倒見のよいいい子なんでしょう。

「結梨絵、かわいい。眼鏡じゃなくてコンタクトにすればいいのに」

「コンタクトも持ってますよ。ただ、目が乾いて疲れるので眼鏡のほうが楽なんです」

「あー、確かに、コンタクトは目が乾くよね。私もドライアイって言われちゃってさぁ。目薬を忘れたりすると悲惨だよ」

「悲惨でも、眼鏡にしないんですか?」

「化粧落として眼鏡かけて鏡見るとさ、兄にそっくりなんだよね……なんか、それがどうも」

 お兄さんがいるんですね。

「お兄さんのこと、嫌いなんですか?」

「いや、嫌いっていうかさぁ、私のこと好きって言ってくれる人がいてさ、私の顔を見つめられてる時に、ふと、そっくりな兄の顔を見ても同じこと言えたりして?とか想像したら気持ち悪くなった」

 うーん。

 それはいやかもしれません。

「でも、眼鏡はずして化粧したお兄さんの顔が結局そっくりになったりしません?」

「ひゃーっ、ちょっと、やめて、想像しちゃったから、あああ。やだ、それ。背中が寒い」

「ごめんなさい」

「う、ううん、ああ、うん。結梨絵のせいじゃない。兄には一生眼鏡をかけていてもらおう。そうしよう。それで、私は何があってもコンタクトを貫こう!」

 コンタクトを貫くのですか。

「あ、そうだ。今日の飲み会なんだけど、初夏って子がいて、その子が丸山君のことが好きなのね。まだ2回しか会ったことなくてなかなか初夏も一歩進めないでいてさぁ。二人を合わせるための飲み会……合コンでもあるわけ」

 そうなんですね。

 友達の恋を応援するための合コンですか。

「わかりました。丸山君と初夏さんが仲良くなれるように後押しできたらしますね」

「うん、ありがとう。あ、それから結梨絵も気に入った人がいたらそっと合図してね。後押しするから」

 いい子ですねぇ。

 そういえば、初めて会った時に「私が相談に乗ろうか?」って言ってました。

「菜々さんも、誰か気に入ったら教えてください。応援します」

「あははー。いい人がいればいいけどねぇ。さぁ、できた!結梨絵かわいい!やばい!我ながら化粧の腕抜群っ!」

 菜々が掲げた手鏡の中の自分。

 うん、本当だ。

 自分で化粧するときの5倍くらいかわいい気がする。

 自分で化粧すると、ここまで大胆にアイラインもかけませんし、眉山も無理です。アイシャドウもこんなに濃くしたことありません。

 口紅も、ここまで色っぽくぬることなんてできないです。

 ……化粧品の減りが早くなってもったいないから……。

「服装は……いっか。うん、なんかこれだけかわいいと、服装とのギャップがまたいい。新鮮」

 新鮮とはいえ、菜々さんに恥をかかせたくないわけで。

「少し待ってて。ロッカーにリュック置いて、カバン変えてきます」

 ロッカーの中には、休憩時間に売店に買い物に行くようの小さなカバンが入っています。大きな黒いリュックよりはましなはずです。

 それから、寒くなったときに羽織るための長袖のシャツがあります。

 Tシャツの上にシャツを着るだけでも少しだけ上品になるはずです。それから、ジーパンの裾をロールアップで足見せ。

 うん、少しはあか抜けたはず……だと思います。

「お待たせしました、菜々さん」

「おー!結梨絵、素敵。ちょっとした変化なのに、いけてる!へー、そうか。ジーパンのロールアップかぁ。うん。そっか」

 菜々さんが嬉しそうな顔をしている。

 ……たぶん。

 眼鏡をはずしているので、表情はぼんやりして見える。

 ……いえ、正直なところ、表情どころか顔もよく見えません。服装と髪型を変えられたら菜々さんを見つけることはできません。

 裸眼の視力は0.02なので。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ