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「もう、二度と師匠とよ、よばないで、くださいっ!」

 思わず赤面してしまったことを隠すように、黒崎さんから慌てて距離を取り、怒ったふりをする。

「は、はい。わかりました。どうぞ、入ってください」

 いつものソファに促される。

 テーブルの上には、たくさんの紙が置かれている。

「とりあえず、コインランドリーを運営している会社について調べてみました。ネットで調べられた情報はプリントアウトしてあります」

 なるほど、この紙はインターネットで得られた情報なのですね。

「フランチャイズ方式と、直営店があるようなので、ひとまずフランチャイズは検討から外しました」

 と、紙を半分くらいよけました。

「インターネットで情報が得られないところは、電話で問い合わせてみるつもりです」

 会社名と電話番号などが複数社書かれた紙を見せられる。

 ……えーっと、もしかして、こうしてコインランドリーの計画を逐一私に報告するつもりなのでしょうか?

 私、食堂の白井なんですが。いつから洗濯係に任命されたのでしょう?

「条件や、誘致に応じてくれるかはまた別の話なのですが、とりあえず各社の特徴を比較しました」

 別の紙を見せられる。

 使用している洗剤の種類。洗剤の持ち込みが可能かどうか。

 設置している洗濯機の種類。靴の洗濯の可否。大型のサイズ。ペット用衣類の洗濯の可否。

 はぁ、いろいろ違うものですね。知りませんでした。

 そして、利用料も忘れずに書いてあります。

 正直、利用料はどこも同じようです。

「どんなものが学生たちには求められていると思いますか?」

 知りません。

「人それぞれではありませんか?」

「あー、それは、設置してみて、利用状況を見て改善していくということしかないでしょうかね」

「アンケートしてはいかがですか?」

 黒崎さんがむつかしい顔をしました。

「学生にアンケート用紙を配って記入してもらうというのは、数年前に禁止になりました。特例としてオリエンテーションの時間は許されていますが、それ以外の講義の時間に行うのは、高い授業料を支払っているのにアンケートのために時間を使うなという意見がありまして……」

 そうか。そういわれれば、そうですね。

「意見箱に意見を入れてもらうとしても、偏った意見になってしまうかもしれませんね……。そもそもどれほどの意見が集まるか……」

「そうなんです、それで、できるだけ多くの声を集めたいのですが、なかなかむつかしくて、とりあえず白井さんの声を聴こうと」

 ……、なぜ、まず、私なのでしょうか。

「こういうのはどうでしょう。具体的な声は、コインランドリーご意見箱に入れてもらうとして、簡単なアンケートは……」

 と、印刷した紙の裏に、簡単な表を書く。

「時々、祭りやイベントなどで見かけますよね?シールを貼ってもらうだけの簡単アンケート」

 あなたはコインランドリーを使いますか、使いませんか、シールを貼ってもらう。女性は赤いシール。男性は青いシール。

 コインランドリーでは何を洗いますか。日常衣類、靴、ペット用品……など。

 コインランドリーを使う頻度は?

 などなど。シールを貼ることで答えてもらうアンケートです。

「ああ、なるほど。これなら、多くの意見を集められそうですね。大きなものを掲示しておけば、なんだろうと興味を持ってみてもらえるかもしれませんし、さすがです!」

 なんだか、黒崎さんがとても嬉しそうです。

「さすがしs……白井さんだ!」

 今、師匠と言いかけませんでしたか?気のせいでしょうか。

「掲示物、そのほか意見を募集するための用紙や箱、必要なシールなど、コインランドリー関係のものは黒崎さんが準備されるんですよね?」

 これはしっかり確認しなければなりません。

 とてもじゃありませんが、仕事をふられても困ります。食堂の仕事ができなくなってしまいます。

「え?」

 え?って何でしょう。

「それから、私、食堂の仕事があります。こちらに呼ばれるたびに、食堂のほかのスタッフが私の穴埋めをしてくださって大変な思いをしているのです」

「あ、すまない……。そうだった……。そうか、食堂のスタッフ……」

 そうだった?忘れているのでしょうか?

「明日と明後日は、食堂のスタッフが一人休みますので、余裕はありません。呼ばれても困りますので」

 よし。伝えました。できればずっと呼ばないでほしいですけれど。

「食堂のスタッフが足りないのか?」

「足りない?のではなく、ギリギリです。別のことに時間を割く余裕はありません」

「もう少しスタッフを増やしたほうがいいということか?」

 何を言っているのでしょう。

「いいえ、大丈夫ですよ?今までも大丈夫でしたので。こうして学生相談室に来ることがなければ」

 黒崎さんがうーんとうなり声を上げました。

「スタッフの数か……」

 やめてください。

 スタッフを増やせば、私を何度も呼べるとか考えているのなら、やめてください……。

「あの、もう用が済んだのでしたら、失礼いたします」

 早く立ち去りましょう。

「あ、待って」

 黒崎さんに手をつかまれました。

「付き合いたいと、思っているんだ……その、どう思うだろうか?」

 え?

「つ、付き合う……って……」

 恥ずかしそうに目を少しだけ伏せた顔。

 イケメンが、自信なさげにうつむいている顔が……。

 匂い立つ色気。

 ごくりと唾を飲み込みます。

 急に、そんなことを……言われても……。

「やはり、学生と大学職員では……まずいだろうか」

「は?」


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