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「新しく、たこ焼きについてご意見をもらいました。まだ返事は書いていませんが……」

「それが、コインランドリーとどんな関係があるんだ?」

 さすがに黒崎さんは眉を顰めます。

 そりゃそうですよね。いきなりたこ焼きの話をされてもと思いますよね。

「冷凍たこ焼きはいやだそうです」

「わがままだな」

「ですから、たこ焼きの屋台を大学に呼んでくれと書いてありました」

「は?」

 黒崎さんの眉根がさらに寄り、そして……。

「白井さん、そういうことですか!」

 私の両手を黒崎さんが握る。

「なるほど、ありがとうございます!何も大学が設置する必要はないということですか。コインランドリーを誘致……。業者に学生が使いやすい場所に設置してもらう……」

 にこっとほほ笑む。

 学生さんの考えは柔軟なので、時に思いもよらない意見に助けられますよね。

「私がすることは、大学側へ業者を参入させる許可を取ること、業者へどれだけの利益が見込めるか示し出店を促すこと。……ああ、だとすると、まずは学生アンケート……と、学生の生の声が聴きたい。白井さん……いや、師匠!協力をお願いします!」

 協力?

 それは構いません。

「えっと、ではコインランドリー設置に向けてご意見くださいと掲示板に張り出せばよろしいですか?」

「はい、師匠!それはもちろんですが、どういうコインランドリーが求められているのか、師匠のご意見もうかがえればと」

「あの、黒崎さん……。名前「し」しかあってませんよ?「ししょう」ではなく「しらい」です。食堂の白井です」

 なんだか、ちょっと黒崎さんがおかしくなってしまっています……。

 大丈夫でしょうか。

「白井師匠!ライバルなんておこがましい宣言をした私を許してください」

 え?

「同じ学生からの声に答える役割を担うライバルだとはじめは考えました」

 ま、まさか、食堂に寄せられる、あのライバル君は……。

「だが、白井師匠の返答は学生たちが楽しみにしている。一方私の返答は、バカにしたと学生を怒らせてしまう……」

 それは、まぁ、私もいつか同じように気持ちの行き違いが学生と起きるかもしれませんから……。

「学生からのSOSの書かれた相談用紙、少ない情報から多くのことを読み解き、そしてよりよい解決策を瞬時に導き出す……すばらしいです!師匠と呼ばずになんと呼べば……」

「白井と呼んでください」

 そもそも、誰かのことを師匠と呼ぶ人を、私は知りません。日常生活で師弟関係を持っている人、私の周りにはいません。

 なぜ、黒崎さんは師匠なんていう言葉を持ち出したのでしょうか……。

「白井師しょ……」

 一限終了チャイムが鳴り響いた。

「あ!私、まだ仕事がありますので、失礼いたします!」

 ……。

 ライバル君は黒崎さんだったのですね……。

 必要がないかと悩んでいたのも黒崎さんということですよね?

 ……。それは、相談係として必要とされていないという声だったのでしょうか。

 だとしたら……。

 今回のコインランドリー設置が実現されれば、学生から感謝されるでしょうし、必要な存在だと自信を持つことができるかもしれません。

 何はともあれ、これで、ライバル君からの謎メッセージも終わりますよね。

 黒崎さんにはどんなコインランドリーがいいか、自分なりにまとめたものを大学への申し送りと一緒に箱に入れればそれでもう、関わることもありませんよね?

 嫌いというわけではありませんが、あえて近づきたい人間ではありません。

 ……悪い人ではないのです。一生懸命なのです。

 誤解されているのはちょっとかわいそうなのです。


 白紙のご意見用紙。

 ご意見欄には「コインランドリーに行けないと書いた人へ」と宛名を書きます。


返信

【学生相談室に確認いたしました。学生相談室では、コインランドリーを構内設置を目指して動いているようですが、すぐにでもというわけにはいきません。また、不確定要素を伝えるべきではないという考えだったようです。今回、確認したことで、私に「コインランドリーへの要望」をご意見箱で募集するようにと言われました。女性専用、男性専用、靴や帽子用、布団用、24時間営業、待ち時間活用場所などのご希望があればお寄せください】


 えーっと、これだけでは周知はむつかしいでしょうか。

 別の紙にもコインランドリーに関するご意見募集と大きく書いて張り出すことにしましょう。

 ご意見用紙も色を変えて印刷したものを用意したほうがいいでしょうか。

 あれ?なんだかんだと仕事が増えていませんか?

 コインランドリーに関係する用紙を別に用意するのであれば、それは黒崎さんにしてもらったほうがいいですね。

 


「白井ちゃん、学生相談室の……大丈夫だったかい?」

 チーフに戻りましたと声をかけると、心配そうに言われました。

「はい。なんだか、コインランドリーを設置を計画するようで、ご意見箱にどんなコインランドリーがあったら嬉しいか意見を入れられるようにと……」

 チーフがほっと息を吐いた。

「そうかい。よかった。白井ちゃんが首になったりしたら、寂しいからね」

 え?

 本気で首の心配が必要な案件だったのですか?

 黒崎さん……そういえば、噂がどうのと何度も言っていましたが……。どんな噂が流れているのでしょうか……。

「それにしても、もともと食堂へのご意見募集ということで設置されたはずなんだけどねぇ……コインランドリーの意見を募集って……」

 チーフが首を傾げました。

 ですよね。

「まぁ、学生さんも学部や履修科目によって足を運ぶ場所がバラバラだから仕方がないんじゃないのかな?学食が一番いろいろな学部の学生さんが足を運ぶから」

 私とチーフの会話を聞いていたお姉さんスタッフ(おばちゃんというと怒られます)の一人が会話に交じります。

 そういわれればそうですね。

 大学で食事をとろうと思えば、この学食か、お弁当など何かを持参するか、売店で何かを買うかの三択になります。

 いろいろな学生が一番集まるのは学食か売店。確かにそうですね。


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