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 そういえば、二人は……。付き合っていたっぽいのです。今も実は付き合っているのかもしれません……。

 胸の奥に小さな重りが落ちたような感じがしました。

 もし、そうなら……。

 ほかの女性と一緒にいるところを見るの、菜々さん……いやですよね……。

「ごめん……なさ……い」

「え?気にしない、気にしない!まずかったらまずいでも、盛り上がるじゃない?まっずーって言いながらお酒を飲むのも楽しいよ」

 ……菜々さんが、私の背中をポンポンと叩く。

 意味は取り違えられましたが……。菜々さんはいい人です。

 いい人です。


 結論としては、熊の缶詰は臭み消しの材料は入ってましたが、臭かったです。いい経験になりました。


「じゃぁ、和臣、ちゃんと結梨絵ちゃんを送って行ってやるんだぞ!」

「まぁ、和臣なら間違いはないと思うが」

 缶詰居酒屋を出ると、他の4人は二次会のカラオケに行くそうです。

 私は、もともと歌が得意ではないのにプラスして、眼鏡がないためカラオケの歌詞が見えないのでカラオケはお断りしました。

「あの、私一人でも大丈夫ですから、和臣さんも行ってください」

 この間は菜々さんを送って行っていました。

 私を送るために菜々さんを送れないなんて……。

「このあたり、駅までの道が複雑だけど覚えてる?」

「え、あ……」

 周りを見渡すけれど、どっちから来たのかすら覚えていません。

「じゃ、バイバーイ、またね!」

「気を付けて」

 どうしようと思っている間に、4人は足早に移動してしまいました。

「駅は、こっちだよ。行こうか」

 和臣さんが背を向けて歩き出します。

「あの、まって……」

 せっかく道案内をしてくれるというのに迷子になっては駄目です。

 飲み屋の多いこのあたりは、ちょうどいい時間帯なのかずいぶん人通りもあります。

 夜なのでところどころ薄暗い場所もありますし、そもそも眼鏡抜きなので少し距離が開いただけで和臣さんを見失いそうです。

 幸いにして和臣さんは背が高いので、背の高さで見つければ大丈夫なのですが……。

 背の高い男の人に向けて小走りで駆け寄ろうとしたら、手をつかまれました。

「ごめん……」

「和臣さん?」

「僕は、こっち。そうだよね。スーツ姿の人間の見分けなんて眼鏡なしじゃ難しいよね……」

「あ、あの、すいません……」

 どうやら、駆け寄ろうとした人は別人だったようです。

「行こう」

 和臣さんの手が離れ、すぐに握りなおされる。

 私の右手、和臣さんの左手。

「あの……」

 つながれた手に視線を落とすと、和臣さんがぱっと手を離した。

「あ、ご、誤解してほしくないんだけど、その、手が早いとかじゃなく、えっと……」

「はい。迷子にならないように、気を使ってくれたのですね」

「いや、まぁ、うんと、手をつないでもいい?」

 大人になって手をつなぐのは、子供の時と別の意味合いが大きくなるので……。

 恥ずかしさもあるけれど、和臣さんの気遣いを受け取ることにしました。

 ……ここで拒否したら、私が和臣さんを意識しまくって……自意識過剰だと思われてしまいそうです。

 手に和臣さんのぬくもりを感じます。

 どくどくと波打ちだした脈が、指先の血管も波打たせているのではないかと心配になるくらいです。

 幸いにして、お酒が入っているため頭が少しふわふわしている。

 もし、お酒が入っていなかったら、今のこの状態はとても耐えられなかったかもしれません。

 そうです。

 だって。

 なんだか、和臣さんのような素敵な人と手をつなぐなんて……。

 どうしたって、意識しないわけにはいかないのです。

 しばらく無言のまま歩いて行きます。

「えーっと、缶詰居酒屋どうだったかな?普通のところのほうがよかった?」

「いえ、とても楽しかったです。いろいろな缶詰が楽しめて……あの、でもその、またごちそうになってしまって、ありがとうございました」

 そうなのです。支払うつもりだったのですが、いらないと押し切られました。

「気にしないで」

「気になります、えっと、ずっと続くと申し訳なくて……えっと」

「じゃぁ、今度お茶おごってもらおうかな。そっち方面の店苦手なんだ。おすすめ、教えてもらえる?」

「はい。任せてください。缶詰居酒屋に匹敵するくらい面白いお店探しますね!」

 ぷっと和臣さんが笑った。

「いや、面白い店じゃなくてもいいんだけどね」

「あ、そうですか、えっと、じゃぁ、あの……でも」

「結梨絵ちゃんが、知らない話を聞くのは楽しいって言うのと同じ。知らないこと知るだけで楽しいから。知らない店を紹介してもらえるだけで楽しい。結梨絵ちゃんと一緒に行けるなら、それだけで、十分」

 どきん。

 きっと、和臣さんの言葉に深い意味はないのだろうけれど。

「じゃぁ、和臣さんの知らないだろう、知る人ぞ知る隠れ家的お店を探しますっ!」

「あははっ。そうだね、うん、別に隠れ家的じゃなくても、スィーツ系の店なら大抵知らないよ。男だけで足が運びにくい店は……ね」

「え?」

 デートとかで、菜々さんと一緒に行ったりしないのでしょうか?

「菜々さんは、甘いもの好きじゃないんですか?」


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